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男同士でしか話せない事

さて、現在俺は馬車の手綱を握っている。これが、もう、暇。暇で仕方ない。ラーハという馬が利口すぎて、俺要らないんじゃないかな、とすら思う。どうにもする事が無いので、幌の中での会話を聞くために耳をすませていると、中からカルロの、用を足したい、という声が聞こえてきた。


「分かった。セレインとトキトも一緒に行ってやってくれないかい?」


アーシエが、慣れたように言った。他の者なら、襲われても対処出来るという事や、なんというか気恥ずかしいなどの理由から、用を足す事や、身体を洗う事は一人でするが、やはりカルロはそうはいかない。カルロは炎命者では無いので、仇魔に襲われた時に備えて誰か同行しなければならない。これまで何度かあった事だ。


暇を持て余していた俺からすれば、渡りに船かもしれない。一つのびをして立ち上がろうとすると、カルロが幌の中から頭だけ出して、首を振った。俺はああ、と察する。


これも又、何度もあった事だ。カルロがこの仕草をした時は、用を足す目的では無いという事。では何かと言うと……まあ、彼は健全な人間の男性だ。ああも美しい女性に囲まれているため、いやそうでなくとも、性欲というものは溜まる。


むしろよく耐えている方だと思う。前に本人にそんな事を言ったら、針のむしろだ、友人と興味本位で行ったヌーディストビーチみたいな感じさ、と悲しそうな顔をしていた。しかし皆美人だからな、とすぐに彼は付け加えたが。


まあ、しょうがない事だよな、と思いアクビをしながら、馬車の死角を探しながら歩くカルロに着いて行く。


やがてうまいポジションを見つけたカルロは、そこにどかりと座り、ズボンを脱ごうと手をかけたので、直視するものじゃないな、と思い俺は素早く目をそらし、背を向けた。


「不思議な話だよ、男子たる者が、あんな女性達に囲まれて、それにあんなに甘い良い匂いのする馬車の中に居て、興奮しないとはな!まったく、ホントに男か?」


カルロがため息まじりに、説教がましい事を言ってきた。というかコイツ今下半身裸じゃないのか。そんな間抜けな格好で言っているのだとしたら、凄い話だ。というかそもそも、そういう話は行為を済ませた後の、所謂賢者タイムでしてくれないかな、とも思ったが、ツッコむ気力も湧かなかったので、流れるがままに話に乗る事にした。下半身裸のまま話して、風邪でも引いてろ。


「人間の男なら、そうだろうな。だが、あいにく俺たち二人は炎命者だ。性欲なんてかなり薄れてるし、仇魔と戦ってたら解消されてたりするもんだからな」


そう俺が言うと、セレインが続けて声を出した。


「まあ……僕は元々性欲が少なかった事もあって、炎命者になってからは、そういう欲はほとんど無くなりましたね」


「ええっ、性欲が少ないだって!?聖職者は本性的に全員ドスケベじゃないのか!?」


「偏見が過ぎますよ!」


「ええーっ、俺の知ってる聖職者は全員そんな連中だったぞ」


……正直カルロの話に付き合うのが、猛烈に馬鹿馬鹿しくなってきた。が、まあ一応、無視はすべきではないのかな。無視が一番こたえるという話もあるし。……カルロという男は、こたえて大人しくなってもらった方が、俺にとって好都合かもしれないが。


「食事と睡眠はとらないと寿命が縮みそうなんで、まあ今も普通の人と遜色なく……いや睡眠に至っては並以上か……とにかくとってるかもしれんが、性欲は別だろ。正直炎命者には要らん」


「あるでしょう、子孫繁栄とかさあ!」


カルロは熱くなっている。それは実に結構な事だが、用事は早く済ませてもらいたい。


「あるいは、その気になれば、性欲も随分と湧くのかもしれませんね。食事も睡眠も、僕たちが、必要で、そうすべきだ、と思っているが故にそうしているのですから。でも今は他にすべき事がある。魔神主柱を倒す旅という大きな目的がね。だから旅の邪魔にしかならない性欲など、大して湧かないのが道理でしょう」


滔々とセレインは語るが、カルロは納得していないらしく、不満気な声を漏らしている。


「炎命者に恋愛感情があったら、異性の俺たちが同行出来たりしないと思うがね。恋愛感情なんて、あんな狭い馬車の中というコミュニティくらいなら、容易くぶち壊しかねないぞ」


「だとしてもだろ。少なくとも俺は炎命者にはなれそうもねえよ。全く、人間味がないなあ……」


「自覚してるよ。御託はいいから早くしろ。俺たちはお前の護衛で来てるんだからな」


俺の言葉に、男と話してたらもう萎えた、とカルロが返答してきた時には、流石に俺の頰がピク、と動いたのを感じた。一発殴りたい気持ちにさせられたが、堪える。


「でもよう、セレインってホント女の子みたいだよなあ、シスター服も着てるし、言動も……

……あの、さあ……想像だけってのもアレだしさ、ここはどうか……俺のオカズになってくれないか?」


カルロの発言は、セレインに対しての、頼み事であった。それは即ち、セレインの代償が発動するという事だ。こんな、どうでもいい事で!


『分かりました』


セレインが実に感情一つ無い、いつもの答え方をし、死んだ目でシスター服に手をかけたので、俺は必死で止めた。


「あ゛ー!よせ!セレイン!カルロの言う事なんか聞かんでいい!」


『分かりました』


「カルロ!貴様これ以上ふざけた事言うなら、ここに放って置いていくぞ!仇魔に殺されるか飢えて死ぬか、どんな結末が好みだ!」


思わず声を荒げてしまった。カルロに対する我慢が爆発してしまったのかもしれない。ちょっとだけ。


「冗談!冗談だから!ごめんホントに!セレインの代償とやらもすっかり忘れてて……!欲望を抑えるのも限界で、血迷ってたんだ、きっと!」


「あ、あの……分かりましたし、もういいですから……し、しかし何というか、凄く恥ずかしい……」


平謝りするカルロに、正気を取り戻したセレインが、ちょっと俯き、手で扇いで、胸に風を送りながらそう言うと、カルロは嬉しそうに感謝の言葉を述べた。


間違いを認めてからの許し、そして感銘を受ける、という展開自体は、なんともヒューマンドラマな形をとっているが……酷い茶番だ。出来の悪さに頭が痛くなってきた……


「もういいから早くしてくれ……」


そう発せられた俺の声は、ひどく疲れていた。何というべきか、カルロはお調子者で、軽快な話で仲間を和ませる事もあるが、今回のように皆を疲れさせるよう場合もある。ただ、それも個性の一つなのかもしれない。行為を許せるかは別だが。

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