昔話-2
ミカノの話を聞いて、カルロは、そうか、そんな事が……と目頭を抑えて染み染みと言った後、暫く間を空け、他の皆はこの旅に加わった理由とか何かあるのか?といった事を聞いてきた。俺は沢山の美人さんに囲まれたいからだけどさ、と後に付け加えたが。
まずセレインは、神都に向かうため、と、次にユイは、感情を手に入れられるかもしれないから、と答えると、トキトはどんな理由だったっけ、とリリィが首を捻った。
「旅に加わった理由は……何だったかなあ。……確か……そうだな、皆が良い人だと、思ったからかな。俺はとにかく、炎命者になりたかったんだ。持て余してる力が良い人の役に立つなら、それもいい。ま、仇魔を倒す旅ってのは、強敵と戦って、自分の力を確信したい俺にとって好都合だったから、それも大いにある。……何にせよ、俺は居たいからここに居るんだ。答えになってないかもしれないが」
「ふふふ。どんな理由があれ、今のトキトさんは私達の仲間です。それは変わりません。理由なんて、何でもいいじゃありませんか」
そう言って、カレンは慈愛に満ちた笑みを浮かべた。
「んー!でも気になる!」
「気になるー!」
カルロとリリィが、駄々っ子のように言った。リリィは良いとして、大の男がそれをやるのはどうなんだ。
「……とは言っても私といったら、旅の目的に感銘を受けた、という事くらいしかありませんね」
カレンは、ちょっと頭を悩ませてから、申し訳なさそうに言った。
「感銘を受けたのかい」
「ええ。仇魔の恐ろしさは、とても身近な物ですから。結界や炎命者が居なければ、とても人は生きていけないという事は、多分誰でも分かっています。そんな、脅威である仇魔を討ち果たすというのは……
そうですね、仇魔にとってはたまったものではないかもしれませんが……とにかく私のような人間にとっては、とても素晴らしく聞こえたんです。もちろん今も、そうですよ」
「そうだったのか……」
カレンの発した言葉は、玉のように響いていた。他の人を助ける、という希望に満ちた強い言であった。
「リリィちゃんはどうなんだい、そこら辺。もしかしてカッコいいからとか!……なんて」
そうカルロがリリィに向かって、冗談めかして言いかけた時、リリィはカルロを指差し、実に快活に叫んだ。
「合ってる!」
「うーん、クイズマスター名乗れそうだ」
カルロが満足そうに言ったが、一問正解ごときで名乗られても困る。
「私の街は、物心ついてちょっとした頃に、交神石に触らなきゃいけない街でさ、炎命者が同じ街に、結構居たんだよなー」
「な、何だか聞く限りでは、結構凄まじい街だな……」
「そうね、街を守る炎命者といっても、小さな子供ばかりだったわ。もちろん全員が炎命者になれるはずも無い。何の成果も得られず、ただただ代償を支払っただけの、辛そうな子供が溢れていたわ。酷い話よ、大人達はそれから逃げているのに、子供に押し付けて!」
ミカノが、腹立たしそうに声を荒げる。それから、皆に怒鳴るのもおかしな話ね、と肩をすぼめて謝った。
「まあ、そんな感じの、結構強い仇魔が何度かやって来るような街でさー。仇魔と戦うのは、私もしんどかったけど、他の皆が辛そうにしてるのは、間近で見てるからよく知ってた。だから、仇魔を倒す旅って、凄くカッコいいって、そう思ったんだ」
まあ、それから旅に加わるのは大変だったけどさ、と頭をかいて、リリィはキャスケット帽を被った。
「街の炎命者の皆が賛成してくれなかったら、私は此処に居ないわけだからさ、やっぱり皆の分も頑張らないとなー」
昔を懐かしむような、どこか遠くを見るような目だ。リリィのこの目は何度か見た事はあるが、やはりこんなに幼い外見で、そんな風格ある、憂いを帯びた瞳をされるのは、どうも慣れない。
「アーシエはどうなんだよう、聞いてたろー?」
リリィは幌をめくり、手綱を握っている、というより馬車がおかしな方向に行こうとした時に諌めるために、手綱に触れているだけのアーシエに、あっけらかんと尋ねた。
「……友人が殺された。仇魔は狡猾だ。結界の外に誘き寄せ、そして殺す。ボクは仇魔が憎い。人を殺す仇魔が憎い。だから、旅に加わったんだ」
アーシエは、こちらに一瞥もせずに、言葉を発した。聞かないほうが良かったかな、と馬車内は少し重い空気になる。
多分この旅の皆が、仲間同士だからと言って、自分の事をあまり話していなかったのは、こういう過去を掘り返さないためだったのかもしれない。現に今、馬車内はお通夜のような雰囲気になってしまっている。
「ご、ごめんよ……お互いへの理解が深まって仲良くなってさ、ありがとう稀代のハンサム、アレッシ・カルロ!……そうなる予定だったんだよぅ……」
楽観的と言うか、見通しが甘いというか……まあ利点と見るべきなのだろう。確かに、ほんの少しの間だけ空気は冷えていたが、今はそうでもない。どころか、 前より僅かに明るくなっているように感じる。
仲間達の、重い過去を受け止め、そして背負っていける精神あってのものだが、カルロの促しがプラスに働いたと言っていいだろう。結果オーライ、気にすんなよ、と俺がカルロの背中を叩くと、男に慰められても嬉しかねーよ、などとほざきやがったので、俺も少し腹が立った。
「調子乗りやがって、お前の功績なんか何一つ無いからな!」
「うるせー!俺ほどの色男なら、居るだけで功績爆上げなんだよ!」
狭い馬車内で、がやがやと揉める俺たち二人を、ある者は呆れた様子で、ある者はもっとやれと囃し立て、ある者は苦笑しながら諌め、といったように、それぞれのやり方で楽しんでいた……ように思う。