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最も美しい男(自称)-3

「さて!このナルスの千里眼からして、おそらくこの辺りのはずだが!」


さて俺たちは、仇魔の拠点を探すために、街から暫く歩いた朝日入り込む森の中を、早足で散策していた。街を出る前に、ミカノの式神の力によって、拠点の大雑把な位置を教えてもらっていたので、アテもない捜索で時間を潰さずにすんでいるのは有難い。ナルスの言っている、千里眼とやらのお陰では、多分ないかな。


「三人固まってちゃ、探すのにも時間かかりそうだからさ、ここはバラバラに捜索しないか?」


ナルスの後ろを延々と、まるで従者のようについて行く自分が、少しおかしく思ったので、俺が思い切ってこう提案すると、カレンも同意してくれた。が、ナルスは反対のようだ。


「なんと、それではこのナルスの圧倒的で極美的な、戦の見物人が居なくなるではないか!となるとお前達を共とした意味が絶無!皆無!虚無になる!」


「いや、元々街に俺たち一行だけを残したら不安だから……って理由で連れてきたんじゃ……」


「見物人が居らずとも、ナルスは神々しいまでに美の化身であるが、見る者が居ればこそ、ナルスの美は波を打って世界全てに広がるのだ!」


「わ、分かりました。でも、日が沈む前には帰るようにしましょうね」


大仰な身振りで叫ぶナルスと、母親のような事を優しく告げるカレン。ナルスの要求は力強く、自信に満ち溢れており、いわゆる一つのカリスマ性を持っている。彼の要求には、中々強く反対出来ない。



そんなわけで、三人ひとまとまりになって、仇魔の拠点を求めて、長々と歩いて足が疲れ始めてきた、その時だった。帳が落ちたように、辺りが暗闇に染まり、身体が急激に重くなり、草木が焼けるような熱風が吹き荒れた。


「おお……これが仇魔の拠点というものか!なんと邪悪で、禍々しい事か!まさにこのナルスに、浄化せよと告げているようではないか!では行くぞ諸君!我が誇り高き戦闘を、いざ刮目せよ!聖なる戦の始まりだ!」


「まっ、待ってください!危ないですよ!」


目を丸くして、唾を飲み込むと、ナルスは雄叫びを上げて拠点の中央部へ走っていった。俺たちも慌ててそれに続く。彼は仇魔の拠点を初めて見たようで、かなり気分が高揚していた。


獰猛な咆哮が響き、四方から仇魔が襲いかかってくる。ナルスは右手で俺とカレンを制して、叫んだ。


「見よ!日輪も跪く、このナルスの光の力を!」


すると、ナルスの腕が黄金色に……いや、最早黄金そのものになって、体積もみるみると膨れ上がる。辺り一面を埋めるほどの、巨大な金の腕を、ナルスは横に薙いだ。


「万金!結晶ォッ!」


鈍い衝撃音。凄まじい重量を、凄まじい速度でぶつけられたのだ。仇魔は、バットに打たれたボールのように、弾け飛んで、動かなくなった。


「これぞ、ナルスの力!まさにナルスの美にふさわしき純金を、無制限に生み出す事が出来るのだ!おお、この輝き、天をも制する!諸君はつくづく幸運であるな!このナルスの力を、そして光り輝く黄金を!その目に焼き付けられたのだから!」


彼は仇魔に背を向け、余裕たっぷりに俺たちへ振り返って、当然だと言わんばかりに胸を張った。おおー、とカレンが、感心したように拍手をする。


「確かに金は綺麗だけどさ、まだまだ仇魔は居るぞ」


俺のその言葉に、また前を向いたナルスは、再び黄金の腕を振り回した。ばったばった、と風に舞ったチリのように吹き飛んで、倒れていく仇魔。そのどれもが、炎命者からすれば非常に弱いので、拠点には親玉が居るものだ、と俺たちは警戒心を強めた。



果たして、拠点内の仇魔の殆どを、ナルス一人で打ち倒すと、遠くの方から、巨大な影が近づいて来た。


それは、球体だった。丸い、人間のようだった。全長は2、3mほど。手も足も4本あり、耳は四つ、顔は二つ。男性的な物と女性的な物が混じり合っていた。合計8本ある手足を、しゃかしゃかと動かして、奇声を上げながら転がってきた。


「ひいぃっ!」


あの姿を直視しては無理もない、怪物としか思えない異形に、カレンが悲鳴を上げた。しかしナルスは、あの化け物を見て、直立したままぶつぶつと何か呟いている。


「ほう!成る程、ああいう美もあるかもしれんな……いやしかし、このナルスには天地がひっくり返っても及ばん訳だが……」


仇魔の速度は速い。もう間近に迫ってきそうだ。俺はナルスに向かって叫んだ。


「どうするナルス!俺たちで援護しようか!」


「無用!このナルスの美しき戦を!黙して、そして感服して、感銘して!いざ見届けるがいい!」


そう言って、ナルスは腕を、何十メートル大の黄金に変えた。大地から、砂のように金が現れて浮き上がり、集まって腕の形のようになる様は、確かに美しかった。


「むうん!」


丸い身体で転がってくる仇魔に、ナルスは黄金の腕を振り下ろした。凄まじい重量に、ナルスの足を支える地面がひび割れて歪む。


しかし仇魔は、それを4本ある手で受け止めると、二つある口から、何か青紫色の霧のような物を、ナルスに向かって吐き出した。


「むうっ!……なっ、何っ!?このナルスの光輝なる純金の腕が!美しき石像のように!微々とも動かん!」


仇魔が吐いた毒霧を浴びた、ナルスの金の腕は、まるで石化したように、ピクリとも動かなくなっている。


「そりゃマズそうだ……!カレン!援護するぞ!」


「はい!」


武器を振るえない、無力な敵を見て、不気味に喉を鳴らし、おそらく喜んでいる様子の仇魔。これではナルスが危ないと、彼の元へと駆け寄ろうとした俺たちだったが、それを止めたのは、他ならぬ彼自身だった。


「無用!勘違いをするな諸君!静止とは、動にも負けぬ程に美しい物である!故に、仇魔よ!お前にも敬意を表そう!このナルスの美しさを、よくも更に引き出してくれた!礼を言おう!ナルスの才あってだが、しかしこの美!お前の努力の成果でもある!ナルスの、迸る美に対しての臣!まさに、天晴れ!」


何を、呑気な事を言っているんだこの男、と思った。巨大な、重々しい腕が微動だにせず、仇魔に捕らえられているという事は、全身が動かないという事でもある。カレンは不安そうに、今にも炎命者としての力を解放しようとしていたが、あんなに自信満々だとは、何か勝算でもあるのだろうか、とナルスの行動を見守る事にしたようだ。


「しかし仇魔よ!お前の存在に、民達が不安がっているのでな、悪いが打ち果たさせてもらうぞ!いや、違う!このナルスの聖なる力によって、お前を浄化しよう!案ずるな!このナルス直々に、お前を天に導こう!さて仇魔よ!ここで、このナルスが問おうではないか!


お前は、重さに強い方かね?」


瞬間、仇魔の上空から、まるで鉄骨のような金の棒が、仇魔に向かって降り注いだ。その数、十、百……いや、最早数えるのも馬鹿馬鹿しいほどの量と重が、貴金属同士がぶつかる音、地面に過重な物が激突したような轟音を響かせ、仇魔に落下した。最初は抵抗しようとしていた仇魔であったが、あっという間に黄金に埋もれ、押し潰された。


隙間が見当たらないほどに積み上げられた金から、うっすらと赤い血が流れた。流石に、あれほどの金を相手にすれば、いかに強靭な仇魔であっても、圧死するしかあるまい。


「見よ、この美。闇をも照らす、この光沢。これが、これこそが、このナルスが捧げる敬意。そして墓標である」


仇魔を倒した事を示すように、みるみるうちに、辺りの熱風はそよ風となり、暗闇は晴れていく。


ナルスは、仇魔を埋め尽くした金色を、ただじっと見下ろしていた。敵を見るような、憎しみある瞳ではなかった。風に吹かれて、ナルスが身につけている黄金のネックレスが、少し揺れた。


その姿は、確かに美しいものだったと思う。

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