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この異世界について

「違和感だって?」


俺は、カルロの突拍子も無い言葉に、つい聞き返した。


「ああそうだ。……だって、おかしくないか?いくらなんでも、この世界は、都合が良すぎる」


「……成る程」


「そもそもの話、この世界は、俺たちが元いた世界に似すぎている。いや、さらに言えば、異世界という環境に何か違和感を感じる事が……それは例えば、気温が高すぎたり低すぎたりもせず、自分の身体が重い軽いと感じる事だって、無いんだ。重力、空気。あらゆる環境が、元いた世界となんら変わりない。

……で、この状況は偶然なのか?」


指で床を軽く叩きながら、カルロは話した。


「偶然にしては、出来すぎてるって話ね」


「疑問としては、もう少し。トキト、ユイ。お前らは何処の国から来た?」


「日本だ」


「……トキトと同じ」


……そうだったのか。初めて聞いたかも。


「俺は日本語なんてさっぱり分かんねえ!……そのはずなんだ。でも、今こうして話が出来てる。俺は生まれも育ちもイタリアだが、そっちもイタリア語なんて知らんだろ?」


「ああ、全くな。知らない世界も理解出来て、さらにこの世界の人達とも、困難無くコミュニケーションが取れている。と、いう事は……

……どういう事だ?」


「……さあ?」


カルロの感じる違和感というのは、十分理解出来る。確かに言われてみれば、と思う事も多い。だが、だからと言って、つまりそれがどうしたんだ、となってしまったら、それ以上は分からないのだ。


「な、なんか……知ってたりしないかなーって思ったんだよぅ」


ため息と共に、さっきまでの神妙な面持ちとは変わって、カルロの表情が随分と軽くなった。あーもう全然わかんねー、と頭を掻き毟る。そもそも考えるための足場というか、土台というか、情報が全く無い。


「考えて分かんない事は……考えない!」


リリィの発言は元気一杯だが、その内容は随分後ろ向きな気がするぞ。


「まあ、ある種の真理なのかもしれませんね……」


カレンが苦笑すると、ユイは淡々とこう言った。


「私達は、分かる事しか分からないから」


「……どゆこと?」


「分かる事と、どうあがいても分からない事がある、という事でしょう。結局、ボク達が考えられるのは、目に見える範囲だけなのですよ。

例えば、今世界の裏側で起こっている事が分かりますか?想像は出来るでしょうね。しかしそれを確かめるすべはありません。そう、それは何も知らないという事でしょう。


では改めて、今、世界の裏側で何が起きているのか、分かりますか?見えませんし、確かめられません。それで、ボク達は、一体今の世界の裏側の、何が分かるというのです?ボク達に出来るのは、足場の無い、全く根拠の明朗さに欠ける、不確かな推論を繰り返すだけなのです。それで得られる成果等、分かった気になるという、満足感だけです。分からないものはどうしても分からないものです。そうですよねユイさん?」


「ん」


ユイの言葉不足に首を傾げたリリィに、セレインが滔々と、まるで説教でもするかのように説明する。しかしそれは、またもリリィにピンとこなかったようで、むむむ、と唸って首をひねっている。


「話が長いっ。そりゃリリィも理解出来ない……」


そこまで言って、ミカノはハッとした。セレインが、落ち込んでいたからだ。彼女は慌てて、私は興味深いと思ったわよ、とフォローをしたが、気を遣ってもらわなくても大丈夫です……とセレインはしょげてしまっていた。


確かに、俺たちには手の届かない領域、というものがあるかもしれない。リリィの言う通り、考えるだけ無駄かなあ。




……いや待てよ、もしかすれば。そう思い、俺は心の中でラティアを呼びかけた。たとえ人間では把握不可能な領域でも、ラティアのような高位存在なら、話は違うかもしれない。そんな、漠然とした期待を胸に抱いて少しすると、頭の中で彼女の声が鳴り響いた。


『……ふむ、要件は分かっておるよ少年。この世界について知りたいんじゃな』


ラティアは何でもお見通しなようではあるが、何か自分で解決しようと動くのではなく、俺に任せて見守る、という図式を取る。それは今回においてもそうである。


『確かに、この世界の全てを、ワシは教える事が出来る。しかし、一から十まで、話すのは……そう、本意では無い。いや最も、お前さんが望むのならば……』


じゃあ、いいや。ラティアが望まない事を要求するなんて、とてもじゃないけど俺には出来ないよ。話したくなら、それで良い。


『おう、そうかそうか。お前さんなら、そう言うと思っておったよ。しかし、そんなお前さんの厚意に、何も返さん訳にはいくまい。僅かではあるが、ヒントを出そう』


ラティアはいかにも上機嫌に続けた。



『そうさな。今、お前さんが居るこの世界と、お前さんが元いた世界……地球じゃな。このそっくりと世界がある。これは事実。さて、どれだけ瓜二つの物があっても、ほとんどの場合、どちらかが先にあり、どちらかが後から出来る。

では、この世界と、元いた世界。……一体どちらが先にあったと思う?』


ラティアの問いは、いまいちピンとこないものだったので、俺は勘に任せて、この世界の方が先だと答えた。


『そう。こちらが先。……ふむ、ここで例えを出そうか。何か新しい物を創る時、いきなりそれを創るのではなく、何か設計図であったり、模型であったりが先に存在し、それを元に、実物を創るものではないか?』


……もしかして、その模型とやらが、今いる世界ってわけか?


『ははは、理解が早いなあ、お前さんは。まさしく、そうじゃ。生命渦巻く環境、というのを、ある高位存在が、どうも創ってみたくなったようでな。その元になったのが、この世界であり、この世界を元にして創造されたのが、お前さんの居た世界……つまり地球、というわけじゃ』


……まさかこの異世界で、元いた世界を知る事になるとは。……ところでラティア。ヒントどころか答えまで言ってないか?いや、ラティアが良いなら良いんだが。


『この程度なら問題無いとも。さて後は、言語等の問題じゃが、これは簡単。死してこの異世界に流れ着いた者は、皆この世界に適応出来るよう、再構築されるからじゃ』


再構築とは、なんだか恐ろしい言葉だ。


『現状、そういうシステムがある。死した者の核……分かりやすく、魂と言うべきかな。それがこの異世界に流れ着き、魂に刻まれた記憶、情報から、生前の肉体が再現される。


またその時、この世界において、言語関係で不便が起きんよう、異世界の共通言語が、魂にインプットされるのじゃ。お前さんは日本語を話しているつもりでも、脳の奥底で、自動的にこの世界の言葉に変換されておる。聞く方も同じ。これは結構な特例措置なのじゃ』


特例措置……?


『元々、仇魔などというものは、この世界に居らなんだ。しかし、ある日突然それは現れ、元いた世界から転生して来た、人間達に襲いかかった。これは予想外じゃったよ。人間にも、ワシらにも。


……そもそも死した者の魂が、この異世界に流れ着くような、言わば転生のシステムが形成されたのは、偶然に近かった。本来は、お前さんが理解する所の、地球内で完結している、輪廻転生に近しい形じゃったが、高位存在の力不足で、転生先の行き先に、この異世界も追加されたのじゃ。人間大での時間感覚で言えば、随分と前にな。

高位存在の不手際に巻き込まれて、命を落としても、強制的にこの世界に転生させられ、さらには突如として発生した仇魔に殺される。そんな人間を、哀れに思ったのかの特例措置じゃよ。交神石やら、炎命者やらも、その特例措置の内よ』


そうだったのか。しかし、そんな有り難い事をしてくれるなら、高位存在達が直接仇魔を倒して、解決してくれ……っていうのは、虫のいい話なのかな。


『最もだが……仇魔が何故現れたのかが、まだ何も分かっておらん。仇魔が出現した原因が高位存在にあると分かれば、討伐してくれるかもしれんが、今はどうも、何もかもが不明瞭でな。仇魔が現れた責任を取って、倒さねば、というような高位存在が居らんわけだ。

故に、手間暇かけて、真剣に仇魔を打倒する、というよりは、炎命者に力を貸して、片手間で、というスタンスの方が、理にかなっておるのだ。

事件の原因が明瞭になった時に、炎命者に手を貸していれば、自分はこの世界のために頑張っていましたよ、と言う事も出来る。そして。



仇魔が発生した原因が……もし自分達より格上の存在だったとしたら?自らの立場が危うくなるかもしれん。直接解決する高位存在など現れまい』


おいおい、高位存在より格上の存在なんているもんかね?


『ふふ、さてはて、どうであろうな』


……まあとにかく、高位存在に頼らず、今まで通り頑張るしかないって事か。


『ま、そうなるかのう』


もしかして、ラティアの目的は、仇魔が発生した原因を突き止める事だったりするのか?


『……少し違う。ワシが今追っているのは、事件の犯人じゃよ』


ふふふ、とミステリアスに笑うと、やがてラティアの声は聞こえなくなってしまった。



ラティアは、そうした多くの貴重な情報を、一気に俺に提供してくれた。感謝と同時に、そんなに情報提供して貰えるという事は、ある程度信頼されていなければならない。そのラティアの信頼に応えるべく、もっと頑張らねば、と俺は決意を新たにした。

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