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出会い-4

馬車の中が揺れる。速度はそんなに早くない。幌から顔を出す。遠くの方で、針先みたいに小さな点が見える。あれが街だろう。


周りには、平原が広がっているけれど、所々月面みたいに穴ぼこが開いていて、どうも荒れている。森、はない。木々がぽつぽつと、群れる事なく寂しく佇んでいる。


雲が空を覆い、暖かな光を閉ざしている。曇天の空模様は、どうしても陰鬱な気分になってしまうし、なんだかこの世界が甘いものではない事を、俺に警告してるみたいだった。……気にしすぎかな。でも、慣れない異世界に来たんだから、あらゆる事に過敏に反応してしまうのだ。



「何よトキト?」


馬車馬の手綱を握っているミカノが、こちらを向く事なく話しかけてきた。怒りっぽいのかな、とも思っていたけど、今の彼女は別段変わった所はない。普通だ。怒ってなんかいない。と、思う。


「……さっきはその。すみませんでした。よく分からないのに、軽率だったかも」


「……何よ、案外素直なのね」


調子が狂ったのか、刺々しい感じがしない。でも、決心は固いですよと俺が言うと、大袈裟にため息をつき、馬鹿だの頭がおかしいだのと、俺を口汚く罵った後、思い直したように、流石に言いすぎたと力無く謝ってきたので、


「謝らなくてもいいですよ。本心なんでしょう?本音を隠さなくてもいいじゃないですか。俺は受け入れられますよ」


と笑いながら言ってみた。別段彼女に悪口を言われても、そこまで腹も立たない。何というか、彼女から発せられる暴言は、後味の悪い陰湿な空気なものでもないと思うし、彼女としても、そういった事は普段、というより炎命者になる前は、飲み込んで口にしないものなのだろう。


言った瞬間、やってしまったという彼女の後悔の念が、こちらに伝わってくる。だから、そこまでイラっとするまでもない。


「かっ……考えとく……」


「……照れてます?」


「ちょっと……」


そう言って彼女は、口が滑って恥ずかしいのか、さらに耳を真っ赤にした。手をぶんぶんと振って、もういいでしょ、勘弁してよと呟いた。



「ミカノさんと、仲良くなったみたいですね」


荷台に戻ると、カレンがにこにこと笑っている。何がそんなに嬉しいんだと聞くと、ミカノさんと仲良くしてくれる人がいるのが嬉しいんです、と言った。彼女も苦労しているようだ。


「ところで聞きたいんだけど」


「はい、何でしょう?」


「さっきのアレは何だ?」


そうやって俺は、今まで聞けずにいた、気になって仕方ない事を聞いてみた。聞いてみたのだが、皆アレとは何だと首を傾げている。ゴブリンみたいな奴、あとガーゴイルみたいな、さっきアーシエが戦っていた羽の生えた奴らだよ、と言うと、アーシエは合点がいったようにぽんと手を叩いた。


仇魔(きゅうま)だね」


「仇魔……?」


「人間の敵だぞ!私達は、そんな仇魔を倒す旅をしてるんだ!言ってみれば、人類を救う英雄なのだ!偉くないか!?」


「そりゃあ、滅茶苦茶偉いじゃないか」


「ふふーん!」


リリィが無い胸を張る。身体はお子様のそれなんだから、無くてもしょうがないのだけれど、それにしてもぺったんこだ。平ら通り越して凹んでるとすら思う。うひい、クレーターみてえな胸してら。



「仇魔に滅ぼされた街も少なくありません。次に着く街は無事だといいんですけど」


不吉な事を、カレンが言った。そういうの、フラグ建築って言うんだぞ。ご丁寧に直前で言わなくても良かろうに。なるべく気をつけて欲しい。街に着いたら、既に人が全滅していました、では悲しみしかないから。



馬が走る。馬車が揺れる。時折荒れた野原に車輪が引っかかったのか、大層揺れる。振動が、腰等に響く。快適な旅では無さそうだ。皆は慣れているのか、表情一つ変えない。


最初のうちは、皆と他愛もない会話をしていたのだが、時間が経つにつれ、ますます口数は減っていき、終いにはほとんど会話は無くなっていた。



道中の荷台の雰囲気は、地球基準で言えば、暗いものだったのかもしれない。ただ、場を和ませるために話しかけようなどとは、とても思えなかった。もはや話す体力すら惜しい、話しかけてくれるなという感じだった。皆眠るように目を閉じ、荷台にもたれ掛かって俯いている。リリィにいたっては、藁を敷いて横になっていた。どうせならカレンやアーシエもやればいいのに。



そんな三人を見ていたら、俺も何だか眠くなってきて、思わず欠伸をしてしまう。カレンも、俺につられるように欠伸をした後、少し恥ずかしそうに顔を赤くし、また俯いた。欠伸もしてみるもんだ。



馬車が俺たちを街へと運んでくれるまでの間、色々考えてみた。炎命者になる、リスクとリターンとか。でも前の人生は、必要以上にリスクとリターンを天秤にかけ、尻込みしてしまっていたと思う。


今回の俺は違う。やらずに後悔するのはもう御免だ。打算で生きるのは、もうやめだ。普通に縛られるなんて、まっぴらだ。天秤にかけた上で突き進んでやるぞ、と意気込んだ。

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