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最強の敵-5

「なんだ、結構早いじゃないか。……まあ、羽虫が何匹増えようが、すり潰すだけ。大して変わらないけどね」


「ふんっ、言ってなさい!」


ミカノが闘争心を露わにしている。何時もはこんな状態になっても、直ぐに治るのだが、今回は戦闘だ。普段よりかは鼻息が荒い。


その額には、魔神主柱のプレッシャーか、大粒の汗が滲んでいたが。他の皆もそうだ。魔神主柱を恐れながら、それでもなお毅然とした態度を取る。恐怖していては、勝てないからだろう。


「それでどうするのかな?複数人で纏めてかかってくるかい?ああ、そういうのは確か、絆、と言うんだろう?徒党を組んで嬲るのは、人間の美徳という訳だ。是非是非、そんな人間の、美しく醜悪な戦い方を見せてくれたまえ」


魔神主柱は、醜い人間模様を嘲るような、薄笑いを浮かべる。


「コイツ、何なのよ癪に触るわね!」


「どうどう、そんな安い挑発に乗っては仕方ないよ。抑えて、抑えて」


売り言葉に買い言葉で、ヒートアップするミカノを、アーシエが嗜める。そんな会話の最中、俺の足元に淡い光が集まってきた。これは、ミカノの式神か。


そんなミカノの式神の光が、濃淡に点滅すると、俺の身体から、みるみる疲労やら、激痛やらが引いていく。頭痛なんかも、あっという間に回復した。


なにぶん、魔神主柱とは激闘だったものだから、回復が疎かになっていたし、回復に使う力を、次の攻撃に回せるため、これは助かる。 ミカノは、熱くなっていたように見せかけて、俺を回復するために、自らに注意を向けていたのだろうか。


「今までで一番気に入らないわ!その見下した態度、その目!大っ嫌い!」


……狙っていた訳では、無さそうだな。



俺は、随分と軽くなった身体で、足早に皆の元へと移動した。魔神主柱は追ってこない。もしかすると、あの死の結界があると、その場を離れられなかったりして。ならば、仕切りに挑発を行うのも、遠距離攻撃が主体な事もしっくりくる。まあ、そんな推察が当たっていようが外れていようが、奴の比類無き強さに変わりはない。


皆が構える。魔神主柱の身体中の目から、鮮やかな軌道でレーザーが飛んで来た。すると、ミカノが一歩前に出ると、炎命者としての力を、本気で解放したのか、彼女は、頭に狐の耳、そして九つの狐の尾が生えた、妖狐の姿へと変わった。


「式神集結!」


ミカノが声を張り上げると、彼女の前に、天の川のように式神の光が集った。光は輝きを増し、やがて一つの大きな壁のようになった。


「見よ、束ねし光の防御陣!南無八幡神社なむはちまんかみやしろ!」


その強固な壁は、耳をつんざく衝撃音と共に、一瞬魔神主柱の攻撃を防いだように見えたが、僅か一筋の熱光線が壁を突破し、ミカノの脇腹を抉った。


肌が焼き焦げ、痛い痛い!と叫び声を上げたミカノだったが、直ぐに落ちついて態勢を立て直し、その他の攻撃を凌ぎ切った。ここら辺は流石だ。


相手の攻撃は一度凌いだ。今度はこちらが、すぐさま攻撃を仕掛ける番だ、と皆がアイコンタクトを交わし、力の大きさ故、共に戦う仲間をも巻き込みかねないため、ローテーション方式で順番に魔神主柱と戦おうと、方針を固めた時。なるべく魔神主柱に聞こえないよう、俺はアーシエに耳打ちした。


「奴の結界は強力無比、攻撃は通じないだろう。ただ、30秒守ってくれれば、俺ならいけるかもしれない。」


「何だって……!?」


「俺を信じて、守ってくれ。少しでも気が散ると、失敗するんだ」


「……分かった、皆にも伝えよう」


既に魔神主柱とユイが交戦している。矢継ぎ早に会話を済ませた俺は、ハーバルングを地面に突き刺し、精神統一を開始した。皆がどうかは分からないが、俺は心から、皆を信じる事にしよう。


一呼吸、ふた呼吸。空気は、肺を焼くように苛烈だが、俺と、皆の命が掛かっている。是が非でも、という使命感を持っていると、時間を忘れて集中する事が出来たのは、ひとえに、素敵で大切な仲間を失いたくない、という願いからだろうか。




……そのまま、長い時が過ぎたのだろうか。そんな事を気にかけないくらい集中していたため、ちっとも記憶に無い。



『目を開けよ少年。無限への到達、虚構ではあるが相成った』


ラティアの声が聞こえた。いつの間に30秒も経っていたのだ、と時間の経過を忘れてしまうほど、集中出来た事に、俺は少し驚くと、深く呼吸を整え、いざ、と気合を入れた。


俺が意気込んで目を開けると、そこには、魔神主柱との戦いで、ボロボロになった仲間達が居た。


滝のように多量の血を流し、魔神主柱に向かって低い唸り声をあげる狼(アーシエの事である)。血の赤に染まり、折れた天使のような羽を、力なく広げているカレン。辺りに土塊や、木々の残骸を散らしたまま、荒い息をしているリリィ。右腕がもげ、そこから力無く電気が走っている、巨大な、二足歩行のロボット(ユイの姿だ)。左足が無く、狐耳や尻尾に欠損が見られるミカノ。30秒間の、皆の激闘が伝わってくる。これを無駄に出来るものか、と、ふつふつ闘志が燃え上がる。


「良かった、トキトさん……!」


カレンは、精神統一を終え、目を開けた俺に気付くと、僅かに涙を浮かべながら、晴れやかな笑顔を見せた。


「私達、頑張ったぞ。……後、頼んでいいかな?」


深刻なダメージからか、縋るような目で、弱々しく聞いてきたリリィに、俺は目一杯、力強く答えた。


「任せろ!」

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