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最強の敵-4

『……良かろう。本来、手を貸すのはワシの本懐ではないが、相手が相手。お前さん一人では辿り着けぬ無限の極地。それにワシも手を貸してやろう。……虚構に過ぎぬかもしれんがな。


しかし、無限、という領域へ到達するのは時間がかかる。一気にやってしまえば、負荷でお前さんが死ぬだけじゃ』


どれくらいかかる?


『30秒。それも、お前さんが、まるで瞑想でもするかのように、外界の事を考えず、ひたすらに己自身と向き合って、集中しなければならん。ワシだけの力では難しいな』


……成る程、そりゃ困難だが、やるしかない。だが、冷静になって考えてみると、この次元の戦闘で、30秒なんて永遠に感じる。不可能に近いが、その不可能に賭ける他無い。


俺は魔神主柱から大きく距離を取り、ゆっくりと目を閉じて、精神統一を開始した。既に攻略法が知られているモーゼアスは着けられないので、防御手段は用意していないが、何をする気なのか、と奴が警戒し、防御を固めてくれれば、なんとか30秒は稼げるかもしれない。



だが、敵はそう甘くない。不意に俺の身体を突き抜けたのは、まさにレーザーのような熱光線だった。俺の肉が焼け焦げる音がする。この激痛、とても集中するどころではない。


「おっと、何かしようとしてたのかな?悪いね、どうも」


「……これからどうしたもんか考えてるんだ。邪魔しないでくれると助かるね」


「へえ、成る程ね。……嘘を、つくんだね。この僕に」


魔神主柱は、鬼の形相で俺を睨み、小さく呟いた。


「分かるよ、その目。俺はまだ戦える。まだ希望は残されてる。そんな人間の、醜い、反吐が出る、最低の目だ。


……刈り取らないといけないね、そんな、吐き気のするような希望は」


そう言うと、突如、魔神主柱の全身に、蛇のような鱗が生えたように見えた。鱗は小刻みに蠢くと、やがてその驚くべき正体を現した。


俺が鱗だと思っていたものは、目だった。毛一つ生えていない目蓋が、鱗に見えただけ。それは不気味に振動すると、獲物を狙い定めたかのように、一斉に開かれた。魔神主柱の、数えきれない無数の瞳が、俺を見つめる。最早魔神主柱の外見は、人間の美しさからはかけ離れており、不気味で異形である。


警戒した俺が、じりと後ろに下がると、魔神主柱の数多の瞳から、数え切れないほどの緋色の熱光線が発射された。此方がどれだけ逃げようが、魔神主柱の攻撃は、俺目掛けどこまでも追尾してくる。


それもそうか、と俺は逃げながら、ハーバルングを振った。刀身から放たれた衝撃波は、熱光線を搔き消すと、魔神主柱の死の結界に触れて、消滅した。


一時期に攻撃は防げたが、奴のレーザーを消そうと、出力を上げた神具は、一振りするだけで俺の身体に壮絶な負荷を掛ける。にも関わらず、間断なく、また魔神主柱の瞳からレーザーが放たれた。


防ぎきれるものか、そもそも攻撃の対処ばかりしていて、奴の結界を突破する事が出来ていないではないか、と先の見えない苦苦に、俺は唇を、血が出るくらいに強く噛み締めた。


「顔が歪んでいるじゃないか。もっと笑えよ、笑顔が人の美徳だろ?」


そうでもないと思うが、現状かなり絶望的なので、言い返す元気も出てこない。頭痛が酷すぎて、脳内が泡立っている気分だ。また、ハーバルングを振る。腕が重い。足が重い。動かない。自分の身体じゃないみたいだ。防御も、攻撃も、全く及ばない。これからの希望が、見えない。30秒なんて隙、作れそうも無い。


どうする、どうすると頭を悩ませようにも、モヤがかかったように働かない。死が、頭をよぎる。怖くは無いが、こうも力が通用しないと、悔いばかりだ。この世界では、悔いだけは残さないようにと決意していたのに……



俺に向かって、レーザーが走ってくる。ああ、鮮やかで、綺麗な色。最後に見る光景には、相応しいのかもしれない。


そんな事を考えるほど、その時の俺は酷く弱気だった。精神も身体も、ボロボロだった。足掻いて抵抗する気が、どんどんと薄れていき、諦めの気持ちが脳裏を巡っている。


今一度、軋む身体を無理矢理に動かし、ハーバルングを振る。攻撃はひとまず防いだが、負荷で口から血を吐く。血が喉に詰まって、ひどく息苦しい。次の攻撃も、防げるのだろうか。分からないが、厳しそうだ。ハーバルングを握る手に力が入らない。




そうして俺が、先の事を考え絶望していた時だった。不意に、一面灰色の空間に、一筋の亀裂が入った。亀裂はどんどんと広がっていき、明るい陽の光が空間に差し込む。


眩い光と共に姿を見せたのは、見知った顔。カレンやアーシエ達といった、俺の仲間だった。


「待たせたな!この私達、戦場にただいま推参!」


リリィが大声を張り上げる。全く、うるさいのが来たもんだ、と俺は僅かに口角を上げた。暖かな、安心感に包まれ、先ほどまでの、途方も無い絶望感と疲労とが、幾分和らいだ気がした。

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