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最強の敵-2

魔神主柱の圧倒的な存在感に気圧されていたが、それでは戦いにならないため、臆さず攻めようと、俺は意を決して攻撃を開始した。



「顕現せよ!《捻切鎖縛……アスモマアト》!」


魔神主柱の周辺から、唸りを上げて、鎖が敵目がけ襲いかかる。しかし、魔神主柱は避けようともせず、こちらに向かって歩みを進める。ならば必然、甲高い金属音と共に、鎖が魔神主柱を捉え、縛り上げた。


『いかん、出力が足りん!』


ラティアが叫ぶ。魔神主柱は、鎖を物ともせず、尚も歩行を続けようとしている。そして、ギシギシと鉄が擦り切れるような音が響いたかと思えば、神具、そう、神の武具であるアスモマアトは、なんとバラバラに砕け散った。


「馬鹿な……!」


『……神具は、あくまでも、神の空間より、この世界に現界させているだけ。完全な力と遠ければ、相手によっては破られうるが……』


これ程の強さとは、とラティアは驚いたように言った。


「くだらないね、これで僕と戦う気を起こすなんて」


魔神主柱は、一層力強く、その一歩を踏み出した。怒気を含んでいるような、大きく荒々しい衝撃音が、空間中に響き渡る。


「くっ、なら……」


アスモマアトが通用しなかった事に動揺しながら、俺が次の神具で倒そうと試み、顕現させんとした、その瞬間。魔神主柱が俺の眼前から、すっかり姿を消したので、これは不味いと、咄嗟に回避行動を取る。直後、俺の右足が吹っ飛んだ。魔神主柱が、いつの間にか目の前に居る。到底捉えられない速さだ。次また攻撃されたら、躱せる気がしない。


「《死甲冑モーゼアス》!」


それに備え、俺は新たな神具、中世の騎士のような、重くて身動きがとりづらく、兜で目の前もよく見えない、立派な黒の鎧を身に纏った。


しかし魔神主柱は、鎧に構わず手刀を繰り出す。それは、恐らく大抵のものは切断出来るほどの斬れ味を誇る、凄まじいものなのだろうが、この神具はその攻撃を弾く。


そればかりか、神具に触れた魔神主柱の手に、毒霧のような黒紫色が絡みつくと、物が高温で焼ける音と共に、魔神主柱の右手は、焦げ溶けて消えてしまった。


「……へえ、面倒な防具を持ってるじゃないか」


己の右手が無くなっても、魔神主柱は平然としており、瞬く間に奴の身体は再生していく。激しい攻撃は止み、モーゼアスという防護をどう破るか、と敵は様子を見ている。



ここで追撃せねば、折角のチャンスを逃す事になるが、鎧を着ている俺にも毒霧は襲い掛かっており、手足や脳が痺れ、さらに吐血までしてしまって、最早攻撃どころではない。諸刃の剣、いや鎧か。難儀なものだ。ついには堪えきれずに、モーゼアスを解除し、自ら防具を捨ててしまった。


「何だい、素敵な防御はもう終わりかい?つまらないな、折角好き放題に甚振れそうだったのに」


「……期待に応えられなくてすまないな」


そう威勢を張って、俺は神具グリゴラスを手に取った。近づいて刺す事が出来れば、奴相手にも効くはずだ。幸い魔神主柱は、警戒するのが面倒なのか、やや隙が多い。そこを突けば、俺の攻撃も届くかも、という判断だ。



しかし魔神主柱は、近づいてこない。モーゼアスのような武具や防具を警戒してかどうかは知らないが、これでは短剣であるグリゴラスを当てるのはやや難しそうだ、と俺は唇を噛んだ。


そうやって、僅かな機会を逃すまい、と必死に集中しようとする俺を嘲笑うかのように、魔神主柱は口に笑みを浮かべて、掌を俺に向けた。その掌には、目があった。浮き出た血管が目立つその瞳は、ギョロギョロと、不気味に、忙しなく動いている。


不意にその瞳は、俺の方を向くなりカッと見開いた。眼力の強い目に睨まれた俺は、何か急な眠りにつくように、いつの間にか意識を失ったようだった。



『……キト……!トキト!後ろに飛べ!』


俺の意識を覚醒させたのは、ラティアの叫びだった。俺は考える事なく、反射的に後ろに飛んだ。直後、俺の眼前で魔神主柱の蹴りが、人が吹き飛ぶような風圧と共に、宙を切った。当たっていたら上半身と下半身が離れ離れになっていただろう。ラティアには感謝しかない。


しかし、こんな戦いの途中で、どうして気を失っていたのだろう。確かに魔神主柱の殺気は、相対しただけで気絶してしまいそうになるくらい、凄まじいものだが。


「……やれやれ。炎命者ってのは、石化の瞳が効かないのかい。鬱陶しくて仕方ないね」


魔神主柱は、さも気怠そうに言った。どうも先程まで、気を失っていたのではなく、石化していたらしい。ラティアが助けてくれたのだろうか。あの掌の目が、奴の言う石化の瞳と見えるので、これは注意を払う対象が増えてしまったみたいだ。石化すると、少し動きが止まってしまうのが、良くないだろう。


「じゃあ殺し方を変えようか」


さらりと、当たり前のように魔神主柱が言ってのけると、周辺に小さな球が現れた。ふよふよと宙に浮かぶソレは、吸い込まれるような真黒をしていた。


「アスモマアト、モーゼアス……君の武具や防具は、そんな名前だったかな。戯れだ、僕もコレに名を付けようか。

美しき死紋様(ブラッドデッドキラー)、なんてどうかな?君を殺す技の名前。うん。下らないが、良い戯れだ。ねえどうだい?わざわざ聞いてるんだ、会話してくれても良いだろう?」


魔神主柱は、興味のない相手と、無理矢理話をしなければならない時のように、実に無関心に尋ねる。会話しろと言われても、相手にそれをしようという気配が見受けられない。聞かなきゃ良いのに、とは思うが、少しでも自分を奮い立たせるため、挑発がてらに答えておいた。


「良いじゃないか、殺意が伝わってくるよ」


「そうか。敵への褒め言葉が遺言だなんて、実に滑稽だ。全く素敵に愉快だから、愉快なまま死んでくれると嬉しいけど」


「言うね。だったら、それをお前の遺言にしてやるよ」


「……やれやれ。冗談も、ここまで現実味が無いと、薄ら寒くなると思わないかい?ああ、良いよ答えなくて。敵への挑発が最後の言葉というのも、これまた実に愚かで滑稽そうだ」


魔神主柱がそう言うと、黒い球、それは奴曰く、ブラッドデッドキラー、が俺に向かって襲って来た。当然、尋常でなく速い。躱そうと縦横に走るが、ターゲットを確実に仕留める猟犬のように、何処までもしつこく追尾してくる。まるで撒けそうにない。



先程の神具モーゼアスを、魔神主柱は既に見た。にも関わらず、こんな攻撃を仕掛けてくる事に、嫌な予感がしたため、モーゼアスを、胸の甲冑部分だけ顕現させ、黒球に向けて放り投げると、まるで本に剣を突き刺すかのように、それは実に容易く、モーゼアスを貫通して来た。やはり、防御不可能な攻撃という所か。


ならば。ここは攻める時だ。そう決意した俺は、新たな槍状の神具を顕現させ、その手に握りしめると、まるで槍投げの選手のように、走りながら魔神主柱に向けて投擲した。


「《投神槍クリストラ》!」


魔神主柱は回避行動をとるが、クリストラは何処までも追尾する。そういう神具だ。俺も、奴の黒球に追いかけられている。追尾が終わる気配は無い。いつかこの攻撃は食らう。それは当然だ。どんな痛みが来るとしても、覚悟するしか無い。


問題は、何処でダメージを受けるかだ。これが相手の追撃を受ける場面だといけない。逆に、クリストラが魔神主柱に当たり、尚且つ追撃が出来る状況に俺が居れば、それは理想的な状況だ。それを狙う。

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