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出会い-3

「それでは、まず私から」


青髪の少女が、こほんと可愛く咳払いをした。生前(そう言っていいのかは不明瞭だけど、とにかくこの世界に来る前)、学校で、クラスの女子が自己紹介する様子を見た経験はあるけれど。自己紹介一つで、こんなに差が出るもんなんだなあ、と思う。



綺麗だなあ、めんこいなあ、と惚けてしまいそうだった。一目惚れにも近しい感覚だ。まあそんな経験今までないので、本当に一目惚れかどうかは何とも言えないけれど、見た目一つとっても、彼女は素敵だと思った。


「あの……」


「あっ、いや、何でもない!」


ぽけーっと見惚れていた俺を、心配する彼女。ちょっと慌てる俺。見た目も美麗なら、中身も美麗だった。


「はいっ。私の名前は、カレンといいます。よろしくお願いしますね」


青髪の少女は、カレンというらしい。しとっ、とした手つきで、胸に手を当て、天使みたいににっこり笑った。まさに、可憐だなあと思った。……いや別に洒落のつもりではない。……本当に。



「ミカノよ。……こんな性格だから、あんまり関わらないでね」


金髪の女の人が、不機嫌そうに言った。発言の真意は分からないけど、少し、悲しそうな感じだった。あんまり人とコミュニケーションをとりたくないのかな、と勘ぐった。そういう人も、中にはいるけれど、彼女もそうなのかまでは分からない。


「ボクはアーシエ。まあ、仲良くやろうね。そう、人間関係で揉めるなんて、馬鹿らしい話さ」


短髪茶髪の目を閉じた女性が、ふふふと微笑んで言った。彼女からは、ゆったりとした余裕を感じる。


炎命者はもう一人いるから、彼女も紹介しなくちゃね、とアーシエが言うと、むくりとミカノが身体を起こし、馬の方へ歩き出した。



少しして、ミカノと入れ替わりに、一人の少女が、此方に来た。彼女の小さな体躯は、まるで小学生みたいだ。大きく丸い瞳は、吸い込まれそうなほどに、純粋無垢な輝きを放っており、髪は、雪のように綺麗な、白銀の色をしていた。


少女は、俺にぐいと接近すると、大きく明瞭な声で、こう言った。いや、言ったというより、叫んだ、と形容する方が近いかも。


「こんにちは!私、リリィ!よろしくな!」


満面の笑みを見せるリリィに、俺も親戚の子供に会ったみたいな、悪くない気分になり、童子を愛でるように、彼女の頭を撫でると、リリィは頬を膨らませた。


「あー!やめろー!絶対、ぜーったい、私の方がおねえさんなんだかんなー!おねえさんの頭を撫でるなー!」


耳を疑った。何を言ってんだこの子供は。俺は、こんなちんまいのが、年上な訳ないだろう、という固定観念に囚われていた。そういうのは、良くない事だ。現に俺は痛い目にあった。


「リリィ。君の年齢、教えてあげなよ」


「聞いて驚け!なんと私は28歳だー!」


高らかに笑う少女。呆然と口をぽかんと開ける俺。稲妻に打たれたみたいに、脳内に衝撃が走る。出来の悪い冗談だと思った。だって、何もかもが、小学生の子供みたいだから。



「リリィさんは、《成長》を代償としたんです。精神も、身体も。力を手に入れた、幼少期のままなんです」


「かっ、カレン!私はお子様じゃないぞ!」


「ええ、もちろん。リリィさんは、私達の頼れる先輩です」


カレンは、屈託のない微笑を見せた。リリィをからかったり、おちょくったりするのではなく、心の底からリリィを尊敬しているような、そんな顔だったと思う。彼女もそれを感じ取ったのか、ころっと機嫌を直した。いやしかし、驚いた。こいつ、年上かよ……



さて、もう皆の事を教えてもらったし、今度は俺の番だ。荷台の外にいる、ミカノにも聞こえるように、俺は声を張った。


「俺は、矢嶋時斗(やしまときと)と言います。ええと、異世界から来ました」


何ともまぬけな自己紹介だと思う。普通の、と言うより、前世なら、頭がどうかしたんじゃないかと思われるだろう。だが幸運にも、ここは異世界だ。皆も、そういった手合いに対して、経験豊富そうなので、この自己紹介はバッチリ大丈夫だろう。



実際、バッチリ大丈夫だった。一人として、俺の自己紹介に違和を感じていないみたいだ。


「……さて、トキトさん。本当に炎命者になるつもりですか?」


先程とは打って変わって、真剣な顔つきで、カレンが此方を見る。力を手に入れるために、何か代償があるとしても、俺の決意は揺るがない。迷う事なく頷いた。


「……炎命者には、必ずしもなれる訳じゃない。それに。男性よりも女性の方が、なりやすいってものさ。代償だけ支払って、結果、力も何も貰えませんでした、なんてよくある話だよ」


アーシエが、物騒な事を言う。いや、もちろん。それくらいのリスクはあるだろう。これが一度きりの人生だったら、迷う所はある。ハイリスクハイリターンだもの。


だけど、俺には記憶がある。一度人生を経験したという記憶が。それなら。言ってみれば二回目の人生だ。好きなように生きたい、というのが率直な気持ちだ。


「……それでも」


「……それでも、か。ま、流石に此処に来たばっかりで、即決するもんでもないと思うけどね」


「そろそろ街に着く頃です。とりあえず、これからのお話については、そこでまた聞きましょうか」


「私は仲間が増えるのは嬉しいんだけどなー」


うんうんとリリィが悩ましげに唸る。



炎命者というのは、長く生きられるものじゃない。なった所で、きっとすぐに死んでしまうよ、とアーシエが釘を刺してきたが、そこは気にしないと答えておいた。それと同時に、彼女達から漂う儚げな雰囲気はそれにあるのかな、とも思った。特にカレンは、押しただけでパタンと倒れてしまいそうで、箱入り娘で余命いくつという病弱みたいな。そんな雰囲気を醸し出している。

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