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人が居ない街-1

それからしばらくの間、特筆すべき事は無かった。炎命者の皆と他愛もない話(俺の前世の話。そこまでハッキリと覚えていなかったので、とりあえず盛りに盛った)をしたりしていたが、しばらくしてそういった話も無くなってき始め、会話の勢いも目に見えて落ちてきたので、もうちょっと人と話をしておくべきだったかな、と自分の話術の無さに、何だか切なくなった。


しかしまあ、俺も皆も、いつだって元気満点というわけではない。自らの命を削って凄絶に生きているような炎命者だから、仕方ないと思う。そういうわけで、俺のトーク力の無さが幸いし、皆に安寧をもたらす事が出来たのではないだろうか。ちょっと楽観的過ぎか。



どうも退屈なので、試しに馬車の幌をめくって辺りを見渡してみた。遠くの方に何かがいる。空を飛び回っているその影は、どうやら相当デカそうだ。あれは何だろうと思っていると、手綱を握り馬車を操縦しているカレンが呟いた。


「このまま進むべきでしょうか……」


「進路でも変更するのか?」


「ええ。あそこに何か居るのが見えますか?」


俺の問いに答えてくれたカレンは、困ったように件の空飛ぶ馬鹿でかい影を指差した。


「ああ。ありゃなんだ?」


「ええと、ドラゴン、といえば伝わるでしょうか?」


「成る程、バッチリ理解した」


「そのドラゴンというのが強くて……。倒すには無理をしなくてはいけないんです。だから、ドラゴンを避けるべきかどうか迷っているんです」


この旅の目的は、確か仇魔の本拠点を探して倒し、人類を救うみたいな事だったはずだ。もちろんドラゴンは倒すべきだが、倒すために相当命を削るとなれば、旅半ばで倒れかねない。戦いはなるべく避けたいのが本音だろう。


「とりあえず、あのドラゴンの近くに街がないか探そう。そこがドラゴンに襲われてるなら、その時また考えたらいいんじゃないか?」


「それが良さそうですね」


俺の提案にカレンはコクリと頷いた。



しかしどうやら、巨大な仇魔はドラゴンだけでは無いようだ。遥か遠くに山が見えると思っていたら、その影がのそりと動いたのは、おったまげた。


いつか見た富士山よりも存在感あるぞ。世が世なら、世界の名峰入り間違いなしのえらい仇魔だ。あんなのと戦うのかと思うと、不安なような、楽しみなような、複雑な気持ちだ。



遠くから、ドラゴンの唸り声が聞こえてきた。確かに遠くに居るはずなのに、まるで側にいるような声がした。すぐそこに、猛獣どころではないドラゴンがいると錯覚する等、かなりの恐怖体験なのだが、他の皆は意に介していない。おそらく慣れているのだろう。


いやはや炎命者の皆は逞しい事だ。女性しかいないが、俺を旅に招く時に抵抗は無かった。しかし本当に炎命者というのは女性ばかりなのだろうか。そんな事を考えていると、ラティアの声が聞こえてきた。


『ま、程度の低い高位存在の中には、おなごの方が好き、という輩もいる。そういった一部の高位存在が、炎命者に成りに来た男達を弾いたせいで、高位存在皆がおなごが好きと思われたのじゃろう』


ラティアは男だとか女だとか、特に気にしないのか?


『性別などで決めたりせんよ。お前さんに魅力を感じたから、力を与えただけの話。お前さんに惚れた、と言えば良いか?』


率直なラティアの言葉に、俺は少し照れてしまった。どうも俺はこういう素直な態度に弱い。よせやいと戸惑う俺を、ラティアは、何を恥じる必要があるか、とからかうように笑った。どうもラティアには敵いそうにない。



馬車が揺れる。どこからか腹が鳴る音がした。リリィがえへへと笑いながら、芝居掛かった口調でお腹が減ったなあと言って、ちらちらと辺りを見渡した。どうやらさっきのは、彼女の腹の音らしい。空腹から飯を要求しているようだが、ミカノに、もう少し我慢してと戒められると、リリィは不満気に頬を膨らませた。


確かに外を見てみると、何か街のようなものが見える。結構大きそうなので、自然と胸が弾んだ。しかし、どうにも拭いがたい違和感がある。何だろう、初めの街と比べて何か足りないような……



その街に近付く度にその違和感は大きくなり、そして街までは目前、とまで迫ったところで、俺は思わず、ああっ、と大きな声を上げた。どうかしましたか、とカレンや皆が不思議がっているので、俺は汗が滲んだ指で街を差して言った。


「結界が、無い」


「……確かに。でも、そういう街もありました。結界など張らず、街の防衛は全て炎命者が担当する、というような街が。そういった街は長くは続きませんが」


カレンはそう説明してくれたが、俺はどうにも嫌な予感がした。俺の勤労な勘が、必死にアラートを鳴らしている。気をつけろと俺に告げている。




果たしてその予感通りに、街は異常だった。それも入った瞬間に分かる異常。街に入り、その様子を見た炎命者の皆は、見たくないものを見たような苦い顔をしている。馬車を引っ張っていたラーハも、異様な雰囲気に気圧されてか、どうも落ち着きがない。



街は血に染まっていた。街というキャンバスに、人の鮮血という絵の具を無造作にぶちまけたような、ひどい様だった。

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