第96話 天下分け目の戦いが始まるまで!
「さて、いよいよか……」
モーデルはそう呟く。
ここはアラビア王国の港湾都市の1つダボエである。
現在この都市は人間諸国連合軍の前線基地として機能しており、ちょうど今後について話し合う会議が開かれていた。
天界と『戦争屋』が激戦を繰り広げられる『原始の森』から遠く離れたこの地でも人間諸国連合軍と魔王軍による熾烈な戦いが繰り広げられていた。
初戦は見事人間側の勝利で、アラビア王国へ攻めて来ようとする魔王軍の軍勢を各国の技術力を総動員してみごと撃退したのだ。
だが、議会には重い空気が流れていた。
「真打ち登場ってわけか。 相手さんも切羽詰まってるのかね」
タバコをふかした大柄の威厳のある初老の男がそう漏らす。
「呑気なことを言ってる場合じゃないですぞ、ルスラン殿!」
「そう熱くなるな、チュニジェのじーさん。 だからこれからどうするのかっていう話し合いだろ?」
タバコの火を消し声を上げるチュニジェの代表である老人に落ち着くようにいう。
今彼らがここに集められているのは次は魔王自ら戦場に立つという情報を得たからだ。
「にしても相変わらずアテルタのとこはすげーなこう言った情報集めてくるの」
ルスランと呼ばれた男は自分の隣に座る真っ白なドレスの上品そうな女性に皮肉まじりにいう。
「ふふ、直接の戦力にはなれませんけどこう言ったことならお任せですわ、ウラルの皇帝陛下様」
「ルスランさん、イリーナさん、今はそんな火花散らしてる場合じゃあありません!」
レイラは2人を止めるように声を上げる。
「はぁ連合とはいえ、やはり完全に1人にまとまることは無理なのでしょうか…」
モーデルの付き人として参加していたエディはそう呆れながら呟く。
そんな重い空気の流れる会議場のドアがバンっと開かれアラビア王国の兵士の1人が入ってくる。
「会議中大変申し訳ありません! ですが、緊急の要件です。 魔王軍がアシル海の東側に展開しています。 さらにその中央からは今まで感じたことないような強い魔力を感知、魔王であると思われます!!」
「よっし! きたか!」
ルスランは勢いよく立ち上がり会議中の皆に宣言するようにいう。
「さぁここが、正念場だ! ここで魔王を仕留めれば長き戦いは終わる。 負ければ後は滅ぼされるのみ! どっちに転ぶかわからんがきあいいれていくぞ!」
「なぜあなたが仕切ってるのかはわからないけどいいわ。 あなたそういうの向いてそうだからいいわ。 そういえばユタのあの砲撃はもう撃てるの、ダイアちゃん?」
ルスランに冷静にツッコミをいれイリーナはユタ王国の代表の小柄な、一見中学生くらいと見間違う女性に話しかける。
「え、あ、はい。 すみません。 一度撃ったら次撃てるまで72時間かかるのです。 なのであと4時間くらいかかります、すみません」
驚いて答えたかと思うと消え入るような声になってしまうダイア。
それの様子にチュニジェの代表のドレイクは、はぁとため息をつき、
「ダイア殿ももう少し王としての威厳が出てくれるといいんだがの…」
と呟く。
「す、すみません!!」
「いいんですよ、ダイアさん。 ドレイクさんもダイアさんを困らせることは言わないでください。 あとイリーナさん、ダイアさんは一国の代表なんですよ! もう少し呼び方を…」
レイラはダイアをかばい2人を注意する。
結局何の話し合いだったかわからなくなってしまったが、基本的にはルスラン指揮のもと戦うことに各国代表とも異存はなく、先の奇襲作戦の全体の指揮をしていたモーデルも彼に任せると言ったので次の戦いはルスラン指揮で何とかなりそうであった。
「さて、準備は完了か?」
エディは部下に対して聞く。
「は! 全艦戦闘態勢に入りました。 いつでもいけます!」
エディの目の前、湾の向こう岸は真っ黒に染まっている。
みただけで軽く10万は超える魔族たちがひしめき合っていた。
エディは無線からアルシノエが誇る艦隊の全てに檄を飛ばす。
「よいか! 我々は何としてでも4時間ここで耐え抜かなければならない! ウラル帝国の航空部隊やラーマ帝国の人造生物もこちらで戦うが彼らに頼るのでなく、自分自身だけで凌ぎきる覚悟でいけ!! 目標、目の前の邪悪なる異敵! 全艦、進め!!」
エディの合図に従い、50を超える艦隊はこちらへと向かってくる魔族に相対することとなる。
空からは先日の戦いで活躍したウラルの航空部隊がさらにはラーマの『人造天使』をはじめとする『人造生物』が魔物とぶつかる。
「おっと、もう始まっていたか」
魔王軍と人間諸国連合軍の2度目の激しい戦闘が始まってから少し経った頃ソウタたちパーティのメンバープラスミーナもアラビア王国についていた。
「本当に行くのかい?」
ミーナが俺に聞く。
「いっただろ? 後のことは後で考える。 魔王が攻め込んでくるというなら勇者だって黙っていられんでしょ」
「何というか、ソウタらしいったらソウタらしいね」
ルナが呆れたようにというかクスッと笑い、ティアラも同じように笑いルナに同意する。
「はい、本当に」
「それでこそ我がマスター(仮)です」
「イヴ、その(仮)いらなくない?」
そんないつも通りの俺たちは魔王討伐という勇者の一大イベントに望むのであった。




