第95話 封印が解けるまで!
「さて、こっちは片付いたんだけども…」
一仕事終えて一息ついたアザゼルが漏らすように言う。
少し離れたところにはボロボロになったベアトが転がっていた。
「ぐっ……」
「まぁこうなるのは仕方ないさ。 なんせ僕は天使やめたとはいえ君とはそもそも階級が違うからね。 まぁ君が天界に戻りたいと言うならガブリエルあたりに頼んで今の神様にお願いするやつに口添えしてあげてもいい。 だから、おとなしくそこで寝ててね」
そう言うとアザゼルは他の2人が戦っている方に目を移す。
「えーっと、 最強の吸血鬼さんの方は…まぁ助太刀はいらないでしょう。 エスタちゃんの方もなんか頑張ってるしいいかな。 それじゃあ僕はその『笛』のところに行こうかね。 ん?」
アザゼルが木の方に目を移すと1人のボロボロの姿のエルフの少女が目に入る。
「あの娘、なにしてるんだ? っておいおい本気かい?」
後ろからの気配にふたたびベアトの方に目を戻すとそこには立ち上がったベアトの姿があった。 しかし、先ほどまでなかった魔力が身体から溢れ出しており、さらに傷という傷が塞がり服装もロリータの様な服から黒いトーガ姿へと変わっていた。
「天装… いや、違うな。 これはどちらかというと… 」
そんなベアトの様子に驚きはしたもののアザゼルはニヤッと笑い自らも魔力を高める。
「なるほど。 そっちがそうくるならこっちもその気で行かなきゃね。 僕だってこの時のためにオリジナルの天装の手段考えてあるんだから」
そう言ってアザゼルは真っ白なトーガ姿に変わり、大量の魔力溢れる羽を広げベアトに向かっていく。
「はっはっはっはっは! まさかその様な方法で魔力を得るとはな!」
楽しそうに笑いながら剣を振るいベリアルと激しい攻防を繰り広げる。
ベリアルもクスクスっと笑い、涼しそうな顔でそれを受ける。
「そういうあなたこそそんな魔力全開でいるじゃないですか。 さすがは最強の吸血鬼かしら」
2人は魔力の得られないこの空間で外で戦う時と変わらぬ魔力で戦っていた。
ベリアルは先ほどのベアト同様黒いトーガに身を包み、 背中からは漆黒の羽が生えている。 一方のルークは禍々しい鎧に身を包み鋭い牙や爪はさらに鋭くなったいた。
「ふむ、天使どもが使う『天装』に似ているが明らかにその溢れ出してるのは魔毒だ。 貴様、『天装』をいじくったな?」
「そうだよ。 私のは天使が使う『天装』と魔族が使う『魔装』を合わせた『堕天』。 今の私にぴったりでしょ? そう言うあなたこそ『魔装』とはちょっと違うじゃない?」
「そもそも貴様の知ってる『魔装』は我が魔王だった時代に部下に覚えさせたもので、ある程度誰でも使えるように改悪した劣化コピーであるからな。 これはそのオリジナルというわけだ」
「なるほど。 ふふ、じゃあそのオリジナルとやらがどれほど強いのか試させてもらうわ…… ん?」
ベリアルは『生命の樹』に近づく人影に気づいた。
「あれは… リンちゃん? なんであんなところにいるのかしら」
ルークもそちらを見る。
すると樹に近づき何かを始めるエルフの少女が見えた。
「? あれはエルフ… しかも『純血種』か? 何をしているのだ?」
「わかんないけど、 今の私には関係ないわ!」
そう言って2人はベリアルはルークに攻撃を仕掛け2人はまた激しい攻防を繰り広げるのであった。
「……… うぐっ…!」
「まぁ魔力の使えんあんたと魔力の使えるうちが戦ったらこうなるわな」
以前はただカマエルに圧倒されたエスタであったが今回はその立場が逆転、カマエルは膝をつき、エスタは相棒の鎌を担ぎ余裕の表情であった。
そのエスタの姿はルークと同じ禍々しい鎧に身を包んでいた。
「少しそこで大人しくしとけ。 さて、あの変態2人に加勢することもないやろうし、うちはここいらで退場してのんびりサボるかな。 ん? あの娘、何してるんやろ?」
エスタの目線の先には『生命の樹』の根元の祠で何かしているエルフの少女が見えた。
「あれは、ベリアルの下の…」
カマエルもそれに気づく。
「にしてもなんであの娘あんなボロボロなんやろ? この森の外で何が起こるんや?」
「はぁはぁ、 首長、ごめんなさい。 この森を侵略者から守るため私は封印を解きます」
先ほどのラグエルとの戦闘で傷つき、また自分に使ったドーピングの薬の影響でまさに満身創痍の状態であった。
そんな状態の彼女は『生命の樹』の根本にある小さな祠の前にたち呪文の詠唱を始める。
「我を求めれば憂ひの都あり、我を求めれば永遠の苦患あり、我を求めれば滅亡の民あり義は尊きわが造り主を動かし、聖なる威力、比類なき智慧、第一の愛、我を造れり永遠の物のほか物として我よりさきに造られしはなし、しかしてわれ永遠に立つ、我を求めるもの、その己の醜い欲望のみを叶えようとするものよ、汝等一切の望みを棄てよ」
すると大地を震わすようなゴゴゴという地響きが起こる。 そして祠は砕け『生命の樹』はまるで大きな穴によって切り裂かれたように真っ二つに切り裂かれてしまった。
さすがにその衝撃的な出来事に、それぞれ戦っていた三者はそちらの方に目を向ける。
そこにはスーッと宙に浮かぶリンの姿があった。
そして彼女はこう言い放つ。
「我こそは終焉の執行者。 不信心者には絶望を。」




