第91話 それぞれの目的がぶつかるまで!
ベアトからの攻撃を受け止めたアザゼルはそのままふんっと剣を返して剣を振るう。 しかしベアトは大きく後ろに飛びアザゼルの剣は空を切る。
「これで3対3でいい感じだね。 どうせみんな『終末の笛』狙いなんだろ? それにそれの『本当の使い方』もみんなもう知ってるんじゃないのかなー?」
「なんや、本当の使い方って! あれは世界を破壊するもんやないのか!?」
全てを滅ぼす確かルークから聞いていなかったエスタはアザゼルに聞く。
それにはアザゼルでなく、ルークが答えた。
「本来の『終末の笛』の力は『願いを1つ叶える』ことだ。 その代償として『世界が滅ぶ』が正解だ。 まぁ我はやろうと思えば欲しいものならほとんど何でも手に入るから必要ないがな。 最初に言ったであろう? 我の目的はこの笛を破壊することだと。 欲深な連中に世界を滅ぼされても困るのでな」
それを聞いたベリアルは笑いながら話に割り込む。
「伝説の吸血鬼様はなんでも手に入るのか。 それは羨ましいな。 はっはっは! アザゼルは殺された恋人の復活か? カマエルは神さまの回復、ベアトは天使として返り咲く、大方他の奴らのそれぞれの願いはこんなところなんでしょ? 私らの願いはカマエルの願いが叶えば叶えられるからね」
「まぁ僕の願いはそこまでして叶えたいものじゃないし彼女も喜ばない。 それよりももっと僕には大切な約束を彼女としている、そっちが優先さ。 だから僕はこの自称最強吸血鬼様に協力するよ」
「誰が自称最強だ。 我が最強であるかどうかその身に味あわせてやってもいいんだぞ。 だが、それは後にしてやろう」
ベリアルにの言葉をさらっと流し、代わりにルークに毒づいたアザゼル。
ルークはその言葉にピクリと反応しアザゼルに向かって凄む。
「くっくっく、己の願いを叶えようとするものたちとそれを阻止しようとするものたちか…。 実に分かりやすくていい。 どうする? やめてくださいで引く私たちではないぞ?」
その様子を面白そうに見ていたベリアルがそういうとそれにルークはフッと笑って返す。
「なら、答えは1つだ。 こい、ならず者天使ども。 この最強の吸血鬼にして史上最強の生命体である我がまとめて相手をしてやろう」
書斎にある時計はすでに日付が変わったことを知らせる。 作戦の見直しをしていたエディはうーんっと体を伸ばし一息つく。
すると部屋がノックされ、アリーが入ってくる。 その他には2つのグラスとワインがあった。
「あまり遅くまで気を詰めると病むぞ。 明後日なんだろ? 今は決戦に備えて身体を休めるべきじゃないのか?」
「ああ、アリー殿。 お気遣い感謝します。 確かにそうですが、最後の最後まで作戦に不備がないかチェックしておきたいので。 いざ戦いが始まったら何が起こるかわかりません、念には念を入れていくつもパターンを考えておかないと落ち着かないのです」
「はは、それはアザゼル譲りか?」
エディはお酒を辞退しようとしたがまぁまぁとアリーに押し切られグラスにワインを注がれ渡される。
仕方なく一旦見ていた資料を机の上におき、乾杯をかわす。
「人間性はともかく、館長には学ぶべきところがたくさんあります。 今回私が指揮を任せられましたが、館長のようにうまくやれる自信がなくて…」
エディはぐいっとお酒を流し込む。
そんなエディの様子をにこやかに見ていたアリーはそれに答える。
「何も彼のようにうまくやる必要はない。 君には君なりのやり方があるはずだ。 さっき僕も作戦の内容聞いて今君がにらめっこしているパターンもちらっと見たけど心配しなくても大丈夫だよ」
その言い方は全てのものを魅了するような甘い響きで何気ない一言だった今の言葉でさえエディの心に響いた。
「なるほど、あなたがあの歓楽街でNo. 1である理由がなんとなくわかった気がする」
エディは突然湧いた場違いな感情を押しとどめ悔し紛れに皮肉をいう。
もちろん幾多の女性を相手にして来たアリーにはバラバラでははっと笑いながら見透かされてしまった。
「おいおい、僕に惚れたのか?」
「ご自由にお受け取りいただいて構わないですよ。 とは言ってもアリー殿が大丈夫と言ってもアリー殿も一応魔王軍ですからね、 100%信用せずに参考程度に考えておきます」
「厳しいな、君は。 最初の頃より態度が軟化したと思ったけどまだダメかね。 それどころかホスト相手に売り言葉に買い言葉なんてなかなか肝が座ってる。 こっちが惚れそうだよ」
「私は同性愛者ではないですよ?」
そんな冗談を言い合ったところで話は途切れしばらく沈黙が周りを支配する。
「しかし、実際のところあなたがここまで私たちに協力してくれるとは思いませんでした」
沈黙を破りエディが思っていたことを素直に切り出す。
「なんでだい? 最初に言っただろ? 人間を滅ぼされたりあの歓楽街を壊されるのは困るって。 僕はあの仕事が結構気に入ってるんだ。 いろいろな人の話を聞けるし。 大変なこともあるけど楽しいことも多いんだ」
「その人間たちに裏切られたのにですか?」
その言葉に乾いたグラスに追加のワインを入れようとしたアリーの手が止まる。
そして少し間が空き、語るようにこたえる。
「確かに僕らは助けた人間たちから仇で返された。 だけどそれは一部の権力者たちの欲から来たものだ。 実際勇者一行である僕らをなんの欲もなく祝ってくれる人たちも大勢いた。 素行の悪い国があったとしても実際そこに住んでいる人たちは素行の悪い人たちばかりでなくいい人だって大勢いる。 僕は大勢の人と関わって来たからそれがわかっていたけど彼は… 魔王はそれがわからなかったのさ。 そこに来て天界の老害どもも本来の立場があるのに人間と同じように欲をかいた。 そりゃ彼が魔王になるのも無理ないね。 僕も天界の連中には好意的な感情なんて一切ないよ」
「魔王を生み出したのは他でもなく汚い欲ということですか」
「まぁ権力を持ったものの大半はそんなもんだ。 天使でも結局人間と同じというわけだな。 ただ僕らを助けてくれた前の神さまは最後まで僕らの面倒を見ようとしてくれていたみたいだけどね」
「その神さまのことは前にガブリエル殿の話に出て来ていました。 なんでも失踪してしまって今は新しい神さまがいるとか。 私にはとても信じられる話じゃありませんでしたが」
「そうらしいね。 もし彼女がどこかで今の光景を見ているならきっと悲しむだろうね」
そう話すアリーの顔はどこか悲しそうであった。
それを見たエディはこれ以上話を掘り下げるのは無粋だと思い話を切り上げた。
「なら、その神さまが戻って来たときのために今の醜い戦いを終わらせなければいけませんね」
エディがチラッと時計を見るとかれこれ2時間近く経っていることに気づく。
「それでは私はアリー殿のいうとおりそろそろシャワーを浴びて休みます。 今日はいろいろとありがとうございました」
そう言って机の上に散らかっていた書類を片付け席を立つ。
「いいや、こっちこそ久しぶりに昔のことが話せて楽しかったよ」
と、礼を言って飲み終わったグラスとバトルを片付けるのであった。
「とは言ってもどうすんねん。 ここ魔力使えんねんぞ?」
「それはわかっていたことだし各々対策はいてあるんじゃないの?」
といってアザゼルはどこからか大きな鎌を取り出す。
それに大声でエスタは突っ込む。
「おい! 待てぃ!! それ、うちのやないかい! なんであんたが、それ持てるねん!!」
「うん? ソウタ君が面白い魔法で召喚してね。 これは使えるなーと思って持って来た」
「返せ! ほんまなんなん、勝手に人のもの召喚して今度あったらぜったい文句いってやる!」
そう文句を言いつつ、アザゼルから鎌をふんだくる。
「仕方ないなー。 それじゃあ、こっちで。 ソウタ君のひーおじぃさんの船で見つけたんだ、かっこいいでしょ」
とまたどこからか細く鋭い刃先の刀を取り出す。
自慢げに見せびらかすアザゼル出会ったがエスタは興味なさそうに返す。
「なんでもええわ。 さて相棒も帰って来たことやし。 借りは返させてもらうで、カマエル!」
「ふん、魔力がなくともお前ごときに遅れは取らぬ」
「ということは僕の相手はベアトかな。 あっちの2人はなんか勝手に始めちゃってるし。 てかなんであの2人は魔力使えてんの?」
先に始まっていたルークとベリアルの戦闘はなぜか2人とも魔力全開に戦っていた。
アザゼルはやれやれとその光景を見ていた。
相変わらず長い前髪の下の表情が見えないベアトは静かに口を開く
「……。 殺す」
すると一気に距離を詰め、アザゼルに襲いかかって来た。 アザゼルはそれを軽く受け止める。
こうして『笛』をめぐる戦いの幕が上がったのであった。




