第89話 開戦するまで!
「少年の様子はどうじゃった?」
一面に広がる白い砂の砂漠。 見上げれば満天の星空。
この世界の現神さまであるキリはソウタを助けに行って戻ってきたガブリエルにたずねる。
「大丈夫だったよ、キリちゃん」
ただその返事にいつものような元気はない。
「全くあの少年はほんとろくな目に合わんな。 こっちだって忙しいと言うのに… どうしたんじゃ? そんな暗い顔をして」
「…ねぇキリちゃん。 私たちって本当に『正義の味方』なのかな?」
「どうした、急に。 何があったんじゃ?」
ガブリエルは下でアザゼルが言っていた計画を話した。
「なるほどのー。 まぁアザゼルの策が良いか悪いかはともかくあやつがそう思うのも無理ないじゃろ。 前回あったことはここに就任するときにある程度聞いておる。 もちろん最初は元老院の一方的な見解じゃったがいろいろ調べるうちに大体のことは把握した。 なんとも救えない話よの」
きりの話に無言でガブリエルは頷く。
「ここからは私の自論になってしまうがの。 正義など人によって違う。 私たちが正義だと思い今からしようとしている『戦争屋』のアジトに乗り込み彼らを壊滅させようとしていることも向こうからしたら悪じゃからの。 向こうは向こうで自分たちの正義を信じて動いてるのじゃから。 結局のところ人それぞれ違うんだから自分の正義を押し通すなら1つしかない」
「どうするの」
「強くなることじゃ。 誰よりも強くな。 弱き者がいくら正しいことを言っても周りはついてこん。 強者のみが正義を貫ける」
「でも、それじゃ今弱い人はただ強者に従えってことでしょ? そんなの…」
「じゃからそういう弱き者に手を貸すのが私たちの仕事じゃろ? 自分たちの利益や名誉のためでなく、困ってる人に手を差し伸べる。 弱き者が理不尽な力によって生を脅かさたり、迫害されるようなことがあれば助けるのが神の役目じゃ。 それが100なん年前できればこんなことにはならなかったじゃろうがの」
そう言ってキリはニコッとガブリエルに笑いかける。
「さて、それじゃ私たちなりの『正義』を執行しに行こうかの。 準備はできておるか」
いつのまにか現れた天使にそう聞くキリ。
「はっ! 出撃の準備は完了しています。 あとはキリさまの命令待ちです」
「うむ。 それでは作戦開始じゃ! 手を抜くんじゃないぞ。 どうやらやたら色々な種族と同盟を結んでおる。 しかも厄介なことにエルフまで。 激戦が予想される最初から全力で行け。 天界しいては初代勇者を怒らせたこと後悔させてやれ!」
「御意に!!」
キリの命令を受けた天使はゲートを使いどこかへいってしまった。
「ふむ。 頼むからうまく言ってくれよ」
キリはそう小さく呟いた。
「さて、ここにいる方満場一致でアラビア王国へ救援を送るでいいですね?」
アザゼルは今、アルシノエ王立図書館にある大会議室にいた。
円状の机には各国の代表がすでに集まっており、人間側による魔王軍討伐連合軍の是非が問われていた。
「まさかあんなことになるとはな。 確かにあの少年は勇者なのだろう。 そうなっては我々も協力せねばなるまい」
「そうですね。 我々も協力しますわ」
「わが国も総力を挙げて!」
「しかし、この場にはレイラ殿下の姿がないが?」
「殿下は体調不良のため、現在部屋でおやすみ中です。 彼女はもともと同盟に賛成だったので大丈夫でしょう」
こうして人間側の国は魔王軍という敵の前に団結することとなった。
「それではみなさん出し惜しみなどせずに行きましょう。 うちも最新鋭の船を出しますよ。 くれぐれも遺跡から発掘した技術で作った、火を吐き動く鉄の塊や、空飛ぶ鉄の鳥、敵陣を一瞬で焦土とすることのできる玉、あとは『人造生物』など出し惜しみしないようにお願いしますよ」
アザゼルは、にこやかにそう言い放つ。
各国の代表ほとんどは頭の上にはてなが浮かんでいるようだが、一部の国は苦笑いでアザゼルに答える。
「ここからが本番だねー、エディあとは任せたよ。 艦隊の指揮は大丈夫だよね?」
「館長は行かないのですか?」
アザゼルの他人任せのような発言にエディは驚く。
「僕は僕で別件があるしね。 それに悪役買っちゃったから僕がいてもギクシャクするでしょ?」
「ですが! 私より館長の方が指揮能力はあるので私より適任ではないのでは」
「そうかもしれないけど僕は僕で、『戦争屋』の案件があるしねー。 アリーから聞いたんだけど、これからその『戦争屋』と天界の大規模な戦争があるらしいよ、エルフの国で」
「ブリテンでですか!? 彼女は一体どうやってそんな情報を」
「諜報活動は彼女の十八番だからね。 すごいんだよ? 彼女直伝のハニートラップ。 今度エディも教わるといいよ」
「… セクハラで訴えますよ」
軽く茶化したつもりだったがエディからのさっきのある返答にアザゼルは舌を出してごめんごめんと謝る。
「そんなわけで僕はそっちの様子見に行くから。 まぁそれ以外にもあそこには用があるんだけどね」
「はぁわかりました」
「あ、あとアリーは行くのやだっていうからアルシノエの防衛頼んでるからあとメルもおそらくそうなるだろうからうまいこと使ってよ」
「魔王軍幹部二人を使うなんてわたしは魔王ですか」
「でもさっきのエディ魔王みたいだったよ」
エディが剣に手をかけた時すでにアザゼルの姿は目の前になかった。
「ちっ! 逃げ足だけは早い…。 仕方ない、私は私で各国の戦力を考えて艦隊の編成をしないと」
イライラしながらも仕事には忠実な彼女は気分屋の上司が増やした。 どでかい仕事に取り組むべく自分の仕事部屋に向かうのであった。




