第88話 魔王の過去を聞くまで!
「え? どういう…」
「だから、最初の勇者から数えて三代目の勇者は今人間界を襲ってる魔王なんだって」
ルナ、ティアラ、ミーナの3人は絶句する。
「まぁその辺から説明した方が良さそうだよね。 ちなみに僕は天界は擁護しないよ。 いいよね? ガブリエル? あ、もし話聞きたくないんだったらソウタくん回収してきてくれないかな。 あそこに置いておいてもかわいそうだし。 あ、医務室に運んでくれればあとはやってくれるから」
ガブリエルは気まずそうな顔をしながらも頷き、ソウタの方へ飛んで行く。
「さぁまずはなにから話したもんか…。 そうだね、まずは魔王くんの勇者時代の武勇伝から話して行こうか。 と、その前にメル、起きてるんだろ? ここに寝てる3人運ぶの手伝ってくれ」
「その話私も聞かなきゃならないんですの?」
「いや、運んだらどこへいってもいいよ」
「言われなくてもそうしますわ」
アザゼルはゲートを開き、レイラとセリアを両脇に抱え、入る。 それに続いてキーナを抱えたメルが続く。 ルナ、ティアラ、ミーナもそれに続く。
ゲートをくぐるとそこはアザゼルの仕事部屋であった。
「あ、そこのソファーに寝かせておいて。 あれ? キーナどこもってくの?」
「医務室ですわ。 お姉さまに万が一があったらどうするのですの!」
「あはは、そ、そうだね。 うん、君も聞きたくないみたいだしどうぞ言ってください」
アザゼルは苦笑いながら部屋を出て行くメルを見送る。
「それじゃあお茶でも飲みながら話そうじゃないか。 魔王くんの武勇伝からとは言ったものの僕がなぜ必要にも人間たちの同盟を成立させようとしているかというところからの方が良さそうだね。 またミーナに怒鳴られても嫌だし。 それに僕のこれからのビジョンも話した方がいいよね。 ここは仲直り対抗じゃないか」
そう言って机の上のベルを鳴らすと女給のリアが紅茶と菓子を持ってきてくれる。
「本題に入ろうか。 僕が考える今後の展開としてはあんなことをしてなんだがソウタくんにはこれからはあまり戦闘に出てもらうつもりはない」
「どういうことですか?」
ティアラは恐る恐る聞いてみる。
「それはだね。 ソウタくんには今後旗印として活躍してもらいたいと思ってるんだ。 もちろん重要なとこでは戦ってもらうけど基本的には人間たちの、自分自身の力で脅威に勝って欲しいんだよ。 だれに頼るものでもなくね」
「自分たちの力で、ですか」
「そう。 今から120年ほど前だ。 三代目の勇者はみんなの代表として当時の魔王と戦ったんだ。 それが失敗だった」
遠い昔にを思い出すように話をし始めた。
三代目の勇者だった魔王くんはね、当時みんなのヒーローみたいな男の子だったんだよ。 みんな彼に期待したんだよ。 剣の腕もたつし、弱きを助け悪しきを懲らしめるとってもカッコよかったんだよ。 あ、そこはいい? まぁまぁともかく前の2人とは違って異世界から来たわけではなかったけどとても勇者としての資質があったんだ。 だから、みんな期待したんだよ。 魔王を倒してくれるのを。 あ、ちなみに前の魔王はあの変態吸血鬼なんだよ? 若い女の子片っ端からさらって自分のとこにメイドとしておいていたんだ。 あれ? ルナちゃんどうしたのそんなプルプル震えながら拳固めて? まぁともかく倒したというか説得して無事に魔王の人間世界での悪事をやめさせることに成功したんだよ。 まぁ説得といってもそれは激しい戦いを繰り広げたんだけどね? ともかく世界は平和になったんだ。 だけどね、物語通りにここでめでたしめでたしで終わらなかったんだ。 そりゃそうだよね、魔王倒したら勇者が死ぬわけじゃないんだから。
そこでアザゼルは一旦話を区切り3人に聞いてみた。
「この後勇者はどうなったと思う? ルナちゃん?」
「うーん、無職になった?」
「…勇者の取り合いになったかい? 師匠?」
「うん、ミーナのいう通りだ」
「え? なぜですか?」
「なんでだと思う? ティアラちゃん?」
「えっと… わからないです」
「各国の利権のためだろ? 当時最強と呼ばれていた勇者さえいれば魔王という絶対的な力を持った存在がいなくなったその空席に座ることができる。 当然どこの国もそこの席に座って世界の覇権を握りたい。 そこで勇者を巡った醜い争いが始まったってところだろ?」
「そんなっ!」
「驚くのも無理ないがミーナのいう通りで大方あってるよ」
そういって紅茶のお代わりをもらい、話の続きを始める。
まぁ魔王亡き後世界の覇権を握るべく人間同士の醜い争いが始まったんだ。 勇者はどうしようもなかった。 勇者が戦争を止めるために戦に介入したら勇者が人間に弓を引いたと人間側から叩かれる。本当は勇者はなにもすべきではなかった。 だけど正義感の強い彼だ。 片っ端から争いを止めに行ったんだよ。 もちろんそんなことをしたから人間側からヒーローから一転厄介者扱いさ。 さらにめんどくさいのはそこに天界が入って来たことさ。 彼らも勇者に助けられた身ではあるんだけど人間たちと同じ勇者の偉功にあやかろうたした。 もちろん、勇者は人間に裏切られたことで心に深い傷を負っている。 助けてくれると手を差し伸べるものには藁をもすがるつもりで手を握るさ。 ちなみに助けたのは神さまだったんだ。 可愛いんだよ? まぁそこは置いといて、これでまぁめでたしではないけど話しが終わるかといえばそうでもない。その天界には元老院というところがあるんだけどその連中は巨大な力を持つ勇者がだんだん厄介になって来た。 そこで元老院は勇者一味に対して異端者の烙印を押したのさ。 神さまはもちろん反対したけど当時は元老院の力が強かった。 まぁいまも昔ほどじゃないけど強いままなんだけどね。 天界は勇者は討伐を人間たちに命じた。 討ち取ったものは世界の覇権を握る権利をやるといってな。 二度も裏切られた勇者はもはやなにも信じられなくなりそして魔王となった。 その後暴れに暴れまわって世界を滅亡一歩手前まで追い込んだんだ。 最後には神様が命をかけて封印したんだけどね。 で、神様は心労がたたって長い眠りにつき、魔王くんは散々裏切られて封印されるしで全くもってバッドエンドで終わったんだよ。 もちろんこんな失態天界として隠したいから人間みんなの記憶から魔王くんのことは消したんだよ。 だから誰も覚えてない。 で、つい最近封印から解かれた魔王くんは復讐のため暴れまわってるってわけさ。
「そんな…ひどい…」
ルナもティアラも黙り込んでしまう。
「そうならないためにも僕は人間たちの力だけで魔王を倒そうとしているんだ。 自分たちのことは自分たちで、何かに依存するとろくなことがない。 だから今回人間側同士で力を合わせる必要がある。 そのためにソウタくんはあんなボロボロになってもらったわけさ。 僕だって好きでやってるわけじゃない」
「だったら最初っから僕たちに話してからでも良かったんじゃないのかい?」
ジト目でアザゼルを睨むミーナ。
そんなアザゼルは悪びれもなく答える。
「話したところで納得してくれないだろ? それに黒幕っぽく装いたいってのもあったし。 まぁ本人の同意はちゃんと取ってたしね」
アザゼルの話しが終わる頃にはあたりはすっかり暗くなってしまっていた。
「それじゃあ後はこっちの番だからみんなはゆっくりと休んでてよ。 もう出番はほとんどないはずだよ。 あ、あとそこで寝ている人たちには君たちから説明して置いてくれる? じゃないと僕殺されそうだし」
そう言ってアザゼルは部屋を出て言った。




