第77話 師匠の依頼を聞くまで!
完全に気まぐれだった。
久しぶりに研究所で休みがもらえたので我が家に帰ってきたのだ。
ただそれが失敗だった。
まさか『あの男』がいるとは…
「いや〜、待ってたよ。 久しぶりだねー。 ミーナ」
「なんであなたがここにいるんだい? 師匠」
ベルンの街の研究所からお手製の転送装置を使って久しぶりにスイーンの街の実家に帰ってきたのたミーナはずっこけた。
そこにはある日忽然と自分の前から姿を消した師匠、アザゼルの姿があったからだ。
「なんでもなにもないよー。 久しぶりに君に会いに来たんだから。 そんな冷たいこと言うなよ」
恐らく勝手に出して使っているのだろう僕のお気に入りのマグカップを使い優雅にお茶を飲みながらそう答える。その態度にイラっとする。
「冷たいこともなにも、何も連絡なしに突然僕の前から消えてノコノコ帰ってきてよく言うよ。 乙女の部屋に不法侵入だ」
「それならさっきキーナに許可を取った。 今日帰ってくるのも彼女に聞いたんだ。 それよりも相変わらず片付けるの苦手なんだね」
アザゼルは部屋を見渡しそんなことをいう。
「…言いたいことはそれで終わりかい? なら、さっさと帰れ」
低い声でそういうミーナ。
研究で疲れているのにもかかわらずよりにもよって今このタイミングでこの男をあいてにしなくちゃいけないとは…
「待って待って待って! 冷たいこと言わないでってば! もう、昔はもっと素直で可愛かったんだけどなー。 君に用があるんだってばっ!」
アザゼルは慌ててミーナにすがる。
いつものような落ち着いたアザゼルの様子からは予想のつかない慌てっぷりだ。
「お願いだよ、話だけでも! 絶対ミーナも興味持つから!」
「お姉ちゃん、話だけでも聞いてあげたら?」
扉を開けて妹のキーナが入ってくる。
その手にはお盆に載せたミーナの分と自分自身のものだと思われるカップがある。
「…わかったよ。 話だけは聞こうか。 で、何の用があってきたんだい?」
ミーナは折れたようで、とりあえずアザゼルに話を促す。
「おお、ありがとう、キーナ。 話っていうのはまぁ単刀直入に言うと、ある古代遺産についてなんだ」
コホンと咳払いしいつものように落ち着き払った口調で話し始める。
「古代遺産?」
ミーナはもらったマグカップを手に、アザゼルに聞き返す。
「そう。 君は勇者の話しについては知ってるよね? あれだよ」
「ちょっと待って師匠。 それは『何代目の』勇者ののことだい?」
「2代目のことだよ。 そこまでいえば何について話したいのかわかった?」
「『奇跡の箱舟』のことかい?」
「そう、それ! じつはそれらしきものが見つかったんだ。 それについてこっちもいろいろ調べたんだけどね」
それを聞いたミーナはマグカップを落としそうになる。
「なっ!? そんな歴史的遺産を見つけた!? どこで!?」
驚くミーナとは対照的なアザゼルは平然とした顔で答える。
「アルシノエ王国のプトレサンドリアの地下にある遺跡だよ。 まぁどういう風にして使っていたのかとかはわかったんだけど動かし方がわからなくてねー。 だから君に協力して欲しいんだ。 もう魔法科学の技術と知能だったら君の方が上だと思うしね」
「…」
ミーナはアザゼルの誘いに沈黙し、うつむいてしまう。
「お姉ちゃん…」
キーナは心配そうにミーナに声をかけようとする。
すると、
「ふふふ、 面白いじゃないか。 天使っていうのはどいつもこいつも面白い誘い方をしてくる。 いいよ。 乗ろうじゃないか、その誘い」
顔を上げニヤリとアザゼルに笑いかけ、そう答える。
「さぁ、そうなれば準備しなきゃいけないね。 ベルンの街の研究所にしばらく休むと連絡入れないと」
「さすが、ミーナ。 やっぱ君は乗ってくれると思ってたよ」
「ねぇ、 アザゼル? それ私もついていっていい?」
キーナはアザゼルにそう聞く。
「君にしては珍しいね。 別にいいけどお店の方はどうするんだい?」
「ただの気まぐれよ。 お店の方は店長には長い休みをしばらくもらうっていって納得してもらうわ。 それに今、お店になかなか良く働いてくれる子が入ったのよ」
するとただいまーと誰かが帰ってきた。
「? 誰が帰ってきたんだい?」
当然のように疑問を呈したのはミーナである。 そもそもこの家はミーナとキーナの二人暮らしである。 ミーナは長いこと家を空けていたので、実質この家はキーナしかし住んでいないはずなのだ。
「さっき言ってた新しく入った子よ。 この家に下宿してるの。 ちょうどいいわ。 お姉ちゃんにも紹介してあげる」
そう言ってキーナは帰ってきたんた人物に声をかける。
すると単発の前髪をピンで留めた女の子がこちらへくる。
見た目からしてイヴと同じくらいかな? そんなことを思ったミーナであったが、アザゼルは入ってきた少女を見た瞬間ブーっと飲みかけていた紅茶を盛大に吹く。
「なっ!? なんで君がここにいるんだ!?」
「あら? アザゼル、知り合いだったの?」
「知り合いも何もなんで今君がここにいるんだい!? 魔王はどうしたの、メル!」
メルと呼ばれた。 少女は驚いたアザゼルからプイッと顔を背け、答える。
「あなたには関係ありませんわ。 私は今、このキーナお姉さまのところにいるんだから!」
「さて、厄介なお目付役からようやく解放されたと思ったら… やめておけ、お主らでは我には勝てんぞ」
ある建物の中、自称最強の吸血鬼、ルークは複数の相手に囲まれていた。 ルークの言葉に囲っている者たちは全く反応しない。
「ふん。 『戦争屋』などという頭のおかしい連中の下っ端は自分の力も理解できぬか」
無言のまま、ルークを囲っていた『戦争屋』の面々は
同時にルークへ襲いかかる。
しかし、ルークは全く動じずそれらの相手をする。
剣や、斧といった武器で襲いかかってくる相手をあしらい、ヒョイっと相手の1人の剣を奪い、それらを切っていく。
向かってくる相手を圧倒していくルークの頭上に大きな岩の塊が出現する。
見ると相手の魔法使いらしき人物が出現させたらしい。
「まさか仲間ごとやる気か?」
またしても魔法使いはルークの問いには答えず、仲間ごと大きな岩で圧し潰す。
「理性もない戦い方だな」
ただ、相手の魔法は結果としてルークを倒すには至らなかった。 ルークは驚異的な回避で敵の魔法を避けたのだ。
ルークはその魔法遣いをも剣で切り、あっという間に『戦争屋』の下っ端どもを倒してしまった。
「全く… ここに奴らの下っ端がいるっていうことはここにあるのか、『笛』は」
ルークはそんな独り言を漏らし、さらに建物の奥に進んでいくのであった。




