第76話 会議に向けて調整するまで!
「魔王様、スタン公国は我々が完全に制圧しました。 デリー王国もあと一息です。 しかし、テムジン帝国が予想以上に粘っているためスタン公国を制圧した兵を援軍として回しました」
「ご苦労だったな、ルノ」
綺麗な銀髪をした女性、ルノが魔王と呼ばれる男に状況を報告する。
現在では魔王軍は人間の国々を次々に攻撃して攻略している。 魔王軍との最前線にあった3つの国、テムジン帝国、スタン公国、デリー王国へそれぞれ侵攻、スタン公国を滅ぼし、デリーのは陥落寸前。 テムジン帝国も大打撃を受けていた。ちなみに北方の獣人の国にも侵攻しているのだが、そこでは戦果はボチボチというところであった。 まぁ対象があの怠惰なのだから無理はないというものなのだが…
「それと裏切り者らに関してなのですが…」
とルノが話し始めると魔王の顔はすこし曇った。
「暴食のフーカと嫉妬のメルについては居場所が未だつかめていません。 しかし、色欲のアリーについては彼女が住んでいるアルシノエ王国に未だに潜伏しているようです」
「…そうか」
魔王は短くそう答えた。
「しかし、やることは変わらん。 我々は我々を裏切った世界への復讐を完遂させなければならない。 このまま行くぞ、ルノ」
「はっ! 仰せの通りに!!」
「明後日の夜会議だというのに! まったくなんでこんなに面倒ごとが立て続けに!!!!」
「落ち着いてください、宰相殿 。 起きてしまったことは仕方がありません」
苛立つ宰相と呼ばれる小太りの、初老の男をなだめるアザゼル。 現在、王宮にはこの国の主要な官僚たちが集められており、緊急の対策会議が開かれていた。
「とりあえず各国集めての会議は中止して、我々も魔王軍の侵攻に備えるべきだ!」
「それを中止したら、魔王軍ではなく諸国に我々の疑いが晴れず魔王軍が来る前に潰されてしまいますぞ!」
皆ああではない、こうではないといろいろな対策案を出すがまとまらずに時間だけが過ぎていった。
「アザゼルはどう対応する?」
ただ会議の成り行きを見守るだけだったアルシノエ王国の国王であるモーデルはアザゼルに意見を求めた。
「そうですね。 会議は予定通り開くべきだと思います」
いつの間にか話し合いの声は消え、皆アザゼルの意見に耳を傾ける。
「確かに我々も防備を固めるために会議などしている場合ではありません。 ですが、あの今まで魔王軍と互角に渡り合ってきた最前線の国々がことごとく撃破されています。 恐らく魔王軍は総力戦で人間たちに挑んできているのでしょう。 だとすると我々単独での防衛は難しいと思われます」
「し、しかし! 我々の国に攻めてくるまでに大国アラビア王国がある。 すでにデリー、スタン、テムジンで疲労した魔王軍ならあるいは…」
「それはアラビア王国を見捨てるということか!」
官僚の1人がそう言うとモーデルはバンっ! と机を叩き勢いよく立ち上がる。
「落ち着いてください。 モーデル様。 アラビア王国は我々と同盟関係にあり、親交も深い。 さらには王妃殿の祖国でもあります。 現にアラビア王国からは援軍の要請が来ています」
興奮したモーデルをアザゼルはなだめ、再び自分の意見を続ける。
「で、ではアラビア王国へ援軍を我が国から派遣するのですか?」
先ほどとは違う女性の官僚がアザゼルに尋ねる。
「いえ、我が国としては援軍を派遣しません」
「アザゼル! お主は!!!」
「ですから落ち着いてください。 『我が国として』は出しません」
再び声を荒らげたモーデルを落ち着かせアザゼルは皆に宣言するように言い放った。
「先ほどの話し合いでも出ていましたが、この度の会議に参加する国々で大同盟を結びましょう。 そして、連合軍として魔王軍に立ち向かいます。 もはやそれくらいしなければ魔王軍には勝てない」
「しかし! それは非現実的だと最初の方に…」
アザゼルの意見に宰相は口を挟む。
「ええ、確かに何度も同じようなことをしようという提案は出されたことや、そもそも前王が亡くなられたあの会議もそうしたことが話し合われていたのは知っています。 ですが、今回は違います。 同盟の『旗印』があります」
「は、旗印とは、いったい?」
「私に少しツテがあります。 この件私に任せてはもらえませんか。 必ずや諸国と同盟を結んでみせましょう」
アザゼルはニヤリと笑いそう皆にいう。
「あんな威勢良く行ったのはいいのだが、いったいどうするのだ?」
会議が終わり、警護のため一緒に会議の場にいたエディがそうアザゼルに聞く。
「どうするとはなにがだ?」
「とぼけるな。 『旗印』のことだ」
何かはぐらかそうとする言い方のアザゼルに苛立つエディ。 そんなエディに自慢げにいう。
「こう見えて僕は元天使だよ? それくらいのツテはあるし、なんなら君もあったことある人だよ」
エディは依然首を傾げ、わからないといった様子だ。 そんな様子をおかしそうにアザゼルは笑い、そうだとポンと手を打つ。
「エディ、僕の部屋に呼んできて欲しい人がいるんだけど。 えーっとね、繁華街にいるイケメンホステスなんだけど」
「なぜそんな人を?」
エディはジト目でアザゼルを見る。
「変な意味じゃないよ。 彼は今回の件については重要な人物なんだ。 まぁもし彼がいなければちょっと計算は狂うんだけどね」
なんだかわからないといった様子だが、とりあえず納得したようでエディは繁華街に向かう。
「さてもう1人読んでおこうかね。 僕、こんな働き者キャラじゃないんだけどなー。 よっこいせ!」
アザゼルはゲートを開きどこかへ行ってしまった。




