第75話 会議に出発するまで!
「あ、ソウタさん! よくご無事で!! 」
アルシノエ王国には夕方の船でいくことになったので、その前に俺はクロエのいる城内の治療院の薬部へ行った。
結局あのドラゴンと戦う前からうやむやにお別れしてしまった形になって心配させてしまったのでもう一度会うことにした。
そこからはクロエがお茶を入れてくれてあの後の武勇伝やフーカやサーニャの話に花を咲かせた。
「そうでしたか、なかなか大変なだったんですね。 フーカさんやサーニャさんも無事ならいいんですけど」
「あの2人は無事だよ、きっと」
「そうですよね。 大丈夫ですよね、 なんせ泣く子も黙る魔王軍の幹部なんですから、フフフ」
とクスクスと笑うクロエ。
ん? ちょっと待て、クロエはあの2人が魔王軍のやつだってしってるのか!?
「実はフーカさんに聞いていたのですよ。 最初は驚きましたが…」
とクロエは一旦そこで切って、
「私はたとえ相手が魔王軍だろうがなんだろうがわかりあえれば友達になれると思うんですよ。 だから、今、世界中がギスギスしてますけどきっとまた仲直りできると思うんですよね。 魔王軍の幹部と皇国の人間が仲良くなれたんですから人間同士が仲良くできないわけないじゃないですか」
と笑って答えるクロエ。 彼女も城内勤めのためその辺空気は察しているのだろう。
「そうだな、できるかもな」
俺も笑って答える。
すると、コンコンと部屋のドア側ノックされて初老の男性が入ってくる。
「コラ! クロエ何をサボってるんだ! 仕事が全然進んでないじゃないか!!」
「しょ、部長! すみません! 今片付けますから!!」
「もういい。 客人が来てるならそう予定表に書いておけ。 報告、連絡、相談は必ずしろとなんども…」
とクロエは所長さんからのお説教を受けてしまったのだ。 なんか、すこしかっこいいこと言っていたがそこはクロエ、大事なところでやらかしてしまう。
「ははは、すっかり連絡するの忘れてました」
とバツの悪そうな顔で苦笑いするクロエ。 俺は笑いながら、
「クロエらしいミスだな。 それじゃあ俺はそろそろ行くよ」
「え? あ、私のことはお気になさらず! 所長の許可もおりましたし」
「いや、俺も今日の夕方に護衛の任務でアルシノエ王国に行かなくちゃいけないんだ。 だから、その前にいろいろ準備あるから」
「そうなんですか。 名残惜しいですが、任務の方頑張ってください!」
「ありがとう。 それじゃあまたな!」
俺はクロエと別れ治療院を後にする。
「館長! 緊急の用件です!!」
部屋をノックもせずに慌てた様子で入ってきた若い兵士。 制服から見るに、ここの図書館の書員であることがわかる。 確かカインって名前だったかな。 そんなことを思い出していたアザゼルは特に咎めもせずその要件というのを若い兵士、カインに尋ねた。
「どうしたんだい? そんな血相を変えて。 またうちの王が何かやったのか?」
「い、いえ! ですが、モーダル様から王宮の方に来るようにと」
「ふむ。 どのような用件か君は知ってるかい? またどうしようもないことだったら…」
とまで言いかけた言葉を遮るようにバンッと扉が乱暴に開かれエディが入ってくる。
「館長! 緊急事態だ!」
「なんだみんなして… その緊急事態というのなら彼が伝えに来たよ。 で? なんなんだい? その緊急事態って」
呆れたようにアザゼルはエディにそう返す。
「魔王軍が侵攻を開始したらしい! 会議に来るはずだったテムジン帝国、デリー王国はその防戦のため会議を欠席すると先ほど王の元に連絡がきた。 さらにはスタン公国がすでに魔王軍によって落とされたという情報も出ている。 実際スタン公国とは現在連絡が一切取れない」
「なっ!」
ことの重大さにさすがのアザゼルも驚きを隠せない。
「確かに人間の国々を落とすなら先の事件で混乱している今このタイミングだろうが、『彼』が『戦争屋』を無視してこちらから片付けに打って出てくるとは…
エディ、魔王軍に関して何か他の情報はあるか?」
アザゼルはブツブツとつぶやきながら頭をフル回転させる。 そしてもっと情報を得ようとエディに再び尋ねる。
「会議に欠席するのは先ほど挙げた2カ国以外に、アラビア王国も欠席するそうだ。 それ以外はまだ何も。 ただ、テムジン帝国もデリー王国も防戦一方どころかかなり押されているらしい。 おそらく魔王軍は総力戦だと思われるぞ」
「あの大国二つが押されてる? なるほどあながちスタン公国が陥落したというのも嘘ではなさそうだな。 もし、スタン公国が魔王軍によって落とされたなら当然アラビア王国も会議どこじゃないだろうな。 わかった、それでは私も王宮の方へいこう。 エディ、君もついてきてくれるかい?」
「はっ!」
アザゼルは先ほどの若い兵士と、エディとともに国王のいる王宮へ向かった。
「ところで、なんでさっきからタメ語なの? エディ。 僕だけの時はいいけどみんなの前では示しつかないって言ってるじゃん」
「示しも何も威厳なんて普段の行動からとっくにこの図書館の書員からは無くなってます。 なんならそこのカインにでも聞いてみてはどうですか?」
エディはそうピシャリと不満を漏らすアザゼルを一掃するのであった。
「あ、いや、えーっと…」
「僕、よくこんなんでここの館長なんてやってこれたな」
急に話題を振られたカイルは言葉を濁し、アザゼルはさらにショックを受けるのであった。
皇都の港。
ここには多くの船が行き交う。
そんなところから俺たちはアルシノエ王国で行われる会議のため皇族専用の船で目的地へと向かう。
俺たちが最初に皇都に来た船とは明らかに豪華さが違う。
俺たちはレイラ様の側近の護衛を担当し、それ以外の警護は皇都の兵士が担当する。
そう思うといざって時に幾分楽ができるかもしれない。
「それじゃあ行きましょうか。 よろしくお願いしますね、みなさん」
「「「「はい!」」」」
「ってなんでセリアさんがいるんだ?」
「それはねー…」
なぜかいつの間に船に乗っているセリアさんに疑問を抱くとルナが説明してくれた。
俺がクロエと話している間ルナたちは準備のためメインストリートに買い出しに出ていたらしい。 そこでセリアさんに出会い、ぜひ同行したいということなのでうちのパーティのサブリーダーであるルナ(勝手にそういうことになっていたらしい)が俺の代わりにギルドの方にパーティ臨時加入の申請を出してくれたらしい。 ちなみにルークは笛について思い当たるところがまだ一か所あるらしくそこへ向かったらしい。 なんでもレベル100を超えるセリアさんでも危ないということなのでセリアさんはこちらに強力してくれることになった。
こちらとしてはとてもありがたかった。
特に魔法に関しては攻撃も回復もルナに任せっきりだったからなー。
「そういえばガブリエルのやつもどっかいったのか?」
「はい。 ガブリエル様は昨晩私を散々可愛がった後、今朝早く天界に戻られました」
と今度はイヴが答えてくれる。
「てことはお前徹夜かよ! あれだったらこの船に乗ってる間すこし休んだ方がいいんじゃないか?」
「ご配慮感謝します。 しかし、私は大丈夫です。 それを証拠に今朝の問題解決にも正常に…ふぐっ!」
俺は慌ててイヴの口を塞ぐ。
「うん! 確かに正常だな。 まぁ一応心配だったからさ。 大丈夫ならいいんだ、大丈夫なら。 でも無理はするなよ? あははは」
するとルナはこちらにジト目を向けてくる。
「なんか怪しいな〜。 ねぇティアラもそう思わない?」
「あ、そ、そうですよねっ。 ソウタさんなにか、おかしいですよねっ」
突然話を振られたティアラは顔を真っ赤にし、そういうのだがこちらの方もなかなか怪しい。
「ふふ、なかなか楽しそうなパーティですね」
そんな様子にクスクスと笑うセリアさん。
何はともあれ船は錨を上げ出航するのであった。




