第70話 みんなと再会するまで!
「あははー、ごめんね、ソウタ君。 今度こそついたよ!」
「ようやくかよ! ゲートってそんな難しいものなのか?」
「いや、普段はこんなことないんだけどねー。 なんかゲートの出口の方に問題があるのかもしれないかなー。 まま、そんなこといいからあそこくぐったらお待ちかねのみんなに会えるよ!」
俺とガブリエルはアルシノエ王国からゲートを使い、皇都のみんなのいるところまで帰ろうとしていたのだが、ここで問題が発生した。
何べんやっても、皇都に出ることができなかったのだ。
ガブリエル曰く原因不明で、どうしようもなくようやく21回目にして今回は大丈夫と言ってきたのだった。(ちなみにそれは20回聞いた)
俺は半信半疑でゲートの出口をくぐる。
すると、
「は?」
ゲートをくぐるとそこは満天の星空そして下に見えるは途切れ途切れになった雲そして所々弱い明かりのついた街並み。
「あー、ごめんね。 場所はあってるはずなんだけど、高さ間違えちゃったみたい。 許してにゃん♡」
「ふざけんなあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ゲートの扉は消え、俺はそのまま重力に任せて落ちていく。
終わった。 これはマジで終わった。
なんなら走馬灯が見える気がする。
そのまま落ちて、地面に叩きつけらると思い、もはやこれまでと諦めに入ったその時、俺は途中で何かによって支えられる。
「久しぶりだな、人間の小僧。 ところでどうしてお前は空から落ちているのだ?」
真っ黒な羽を広げた変態吸血鬼…じゃなかった、吸血鬼の中の吸血鬼、ルークだった。
「助かったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!! ああ! 神さま仏さま、ルークさま!!」
「何かは知らんが気色が悪いぞ。 まぁ待っておれ、 今下に降ろして… ん?」
そこまで言いかけてルークは俺が落ちてきた上の方を見る。
すると
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
なんと上から盛大な悲鳴を上げてガブリエルが落ちてきたのだ。
いや、お前は飛べるだろ!
その背中から生えてるのはなんだ!?
飾りか!?
落ちてきたガブリエルに呆然とする俺とルーク。 するとガブリエルは落ちながら器用にルークに抱きつく。
その落下の勢いを抑えきれず、俺とルークは巻き込まれるようにガブリエルと一緒にきりもみ状態で落ちていく。
「死ぬかと思ったよ〜!! ゲートの中で魔力使いすぎて疲れて飛べなくなっちゃったから!!」
「死ぬのはこっちだ! 馬鹿ども! 早く離れろ!」
「ふざけんな! 離したら、俺死ぬだろうが! お前らと違って羽生えてないんだぞ!!」
そんな醜い争いをしながら落下していく、勇者(仮)、天使、吸血鬼。
親方空から女の子が! ではなく、変人たちが! である。
そして、
ドカーンっと盛大に落ちた。
しかし幸か不幸か、落ちたのは建物の屋根でそれでも突き破って下まで落ちたが、一番最初に屋根に落ちたのがガブリエルで彼女がクッションとなり俺はかすり傷程度で済んだ。
つーか、思いっきり叩きつけられてたけどガブリエル死んだんじゃねーか?
どうやら俺は屋根を突き破って部屋に落ち、しかも柔らかいベッドの上に落ちたようだった。
ただ、暗くて何も見えない。
とにかく俺は起き上がろうと手をつく。
地面、正確には床か、ベッドの上についたと思った俺の手だったが、なんか違う。
妙に柔らかいし暖かいし?
俺は背中にビッチョリと汗をかく。
柔らかいというかこの手の感覚… この地面についているであろう手の感覚がなんだろう、まるで…
雲の切れ間から月が顔を出し、俺らが開けた天井の穴から部屋を照らす。
そして同時に俺は背筋を凍らす。
「あ、あのー、これはなんていうか、事故であってその…」
「っっっっっ!!!!!!」
グーでぶっ飛ばされた。
「ルナさん、何事ですか!? 大きな音が… なんなんですか、これ?」
ティアラはルナが寝ている部屋から少し離れた部屋にイヴと寝ていたのだが、何かものすごい音がルナの部屋の方からしたので、慌てて飛び出してきたのだ。
そして、今、目の前に広がる世にも奇妙なというかなんともカオスな現場をイヴと呆然と見ている。
顔に大きなアザを作った男性が顔を真っ赤にした病院の服をきた女性に土下座。 そして真っ黒い服を着た男性は頭が天井に埋まっているという、どうやったらそんなことになるんだという体制でもがいている。 そして真っ白い翼の生えた女性は全身傷だらけになりながらわんわん泣いている。
どう考えてもティアラやイヴの手に負える状態ではなかった。
「ソウタさんはやっぱりえっちな人です。 なかなか帰ってこなくて人がどれだけ心配したか」
「やっぱってなに!? これは事故だし! それに連絡の件についてはごめんって、ティアラ!」
「事故だって許されないよ。 どんな起こし方してんのよ!」
「『乳を揉んでではなく、口づけで起こして欲しかった』か?」
「ななな、なにをそこの変態吸血鬼はっ! そんなことおもってないしっ!」
とりあえず、俺は今度はティアラのほうに土下座。 家臣が殿様に話すかのごとく低姿勢で状況の説明をする。
と言ってもルークやガブリエルに関しては簡単に説明できないのだが、なんとかその辺も信じてもらって説明した。
「まぁなにはともあれ、ソウタ君もみんなに会えたし、よかったよかった」
イヴに手当てしてもらって元気を取り戻したガブリエルがのんきに締めのようなことを言う。
「とりあえず状況はわかりました。 なるほど一人で大冒険だったんですね。それで、先ほどまでイヴさんに手当てしてもらっていたのが天使のガブリエル様で、ルナさんといがみ合っているのが吸血鬼のルークさんと」
ティアラは状況を把握するためなのか俺が言ったことを再び自分で口にする。
そこへガブリエルが口を挟む。
「ティアラちゃんは私見てもそんな驚かないんだね」
「はい。 すでにイヴさんがいるので『人造天使』がいるのなら本物もいらっしゃると。それでも、 まさか本当に聖典の中に出てくるあのガブリエル様に会えるとは思いませんでした」
ガブリエルの問いかけにかしこまったようにティアラは答える。
この国の宗教信じる人にとってはこんなんでも崇める対象なんだなー。
「そもそもソウタさんが失礼すぎますよ。 仮にも神様の使いでいらっしゃる方なんですよ?」
…やっぱ第一印象は大事だな。
そういえば、第一印象といえば、
「そういえばルークお前はなんで皇都なんかいるんだ? 」
「どうせ、またくだらないことやってるんでしょ?」
まぁこの吸血鬼ならルナの言う通り自分の『趣味』に没頭しているという可能性が高いのだがこいつがわざわざセリアさんのいるポルタの街を離れてこんな遠くまで遠出してくるとは思えなかった。
「変なこととはなんだ! 貴様らにはわからん高尚な趣味なのだ。 まぁだが、我がこの皇都にいる理由はお前らにも関係なくはないぞ」
とルークは何か意味深なことを言う。
「ほれ、貴様らは困っておるのだろ? あの『戦争屋』とかいう物騒な連中のせいで。 もしかすると我の探してるもので貴様らの問題も解決できるかもしれんがな」
まず、こいつが『戦争屋』について知ってることに驚きだが、このいつ戦争が起こるかもしれない状況を解決できるとは一体なんなのか。
俺はそれを聞いた。
するとルークは
「だが、教えるならば条件がある」
と言い出した。
「情報を教えるのに条件をつける。 この世の中そんな甘くはないからな」
「なんなんだよ。 その条件てのは」
…こいつが提示する条件なんて大体予想できるんだが俺は聞いてみた。
「ふむ。 そこの茶色の短髪の人間の少女よ。 お主の髪を少し分けて欲しいのだ」
ほら、予想通り。
すると本人が答えるより先にルナが反論する。
「やっぱろくなもんじゃないじゃない! ティアラ、ダメだよ? この変態に髪なんか渡しちゃ!」
というルナに対し、ルークは
「でも良いのか? 相当有益な情報だぞ? なんならこれから何かあったら我が力を貸すという特典もつけても良い」
「いらないよ! 変態吸血鬼の手助けなんか!! どうしてもって言うなら私のを取っていきなさい!!」
「いや、イカれたエルフのはいらん」
「誰がイカれたエルフよ!!」
ルナとルークは再び取っ組み合いになる。
まぁ情報のため髪を上げるっていうのは俺も反対だ。 いくら情報が得られると言っても仲間を売るのはどうかと思う。 たかが髪だとはいえ女性にとって髪は命だというし…
これも本人次第なのだが…
やっぱこの件はなしでとルークに言おうとした時、ルークはルナから距離をとり、俺の方へ近づいてきた。 そして俺に対して耳打ちをする。
「人間の小僧も協力はしてくれまいか? 前にも言ったが我は女性の髪だけではなくありとあらゆる情報を集めている。 我は目がいいから服の上からでも大きさがわかるのだ。 どうだ? 協力する気にはなったか?」
なんの大きさが? などといった野暮なことは聞かない。
だが、ダメだ。 パーティの仲間であるティアラをそのような目で見ては…
必死に心の中の何かに抵抗する俺に対し、ルークはさらに追い討ちをかけるように囁きかける。
「あの人間の少女、着痩せするタイプで、脱いだらかなりのものだぞ。 それでもダメならシスター・セリアの情報もつけようではないか」
「ティアラ? どうやら重要なものらしいからできればお願いできるか?」
俺の理性は男の本能には勝てなかった。




