第67話 牢獄から助け出されるまで!
俺の名前はハヤカワソウタ、日本の地方都市に住むごく普通の高校生であった。
『であった』というのも俺はゴールデンウィーク初日、楽しみにしていたゲームのお預けをくらって神さまだと名乗るキリに自分の代わりにこことは違う世界を平和にして欲しいと言われ、ゲームの中ではなく実際に勇者となったのであった。
そこから一筋縄ではいかぬ敵と途中仲間になったルナ、ティアラ、イヴと共に死闘を繰り広げてきたのた。
そして今、勇者として頑張ってきた俺はどうなったかというと、檻の中である。
どう転んだらそうなるかわからないが、俺は世界中の諸王たちが集まる会議でその諸王たちを殺害した極悪テロリストとして現在、拘留中なのである。
もちろん俺はそんなことやっておらず完全な冤罪なのだが、兎にも角にもこのままでは確実に死刑になること間違いなしという状況だった。
「最悪だ。 死んで生き返ったと思ったらまた死ぬって冗談でも笑えないわ」
俺はあの後、エディに連れられてアルシノエ王立図書館の地下にある拘留所に閉じ込められている。
ちなみにこの国では図書館が地方自治の権力を持っており、日本でいう市役所、警察署、裁判所がくっついたような感じだ。
ちなみに俺のいるところは王立図書館の名の通り王国直属の図書館のため、この国でも五本の指に入るほど権力の高い図書館だ。
まぁ極悪テロリストにはある意味当然と思える場所に囚われていた。
とりあえずここを出る方法を考えないと…
あ、そうだ!
「『逃走!!!』」
脱出の魔法を唱えたがなにも起こらなかった。
「なんでだよ!」
「ニーチャン、そりゃ無理だぜ。 その手錠は魔法を封印するようにできてる」
突然、向かいの部屋の男が話しかけてきた。
「マジか! やっぱ甘くはないかー」
俺は肩を落とす。
するとさらに向かいの男が話しかけてきた。
「ところでニーチャンはなんでこんなところ入ってんだ?」
男が聞いてきたので俺は答えた。
「国際会議で各国の代表を殺したテロリストとして捕まったんだけど、身に覚えが全くない。 完全に冤罪だ」
男は怖い怖いと笑う。
「そんで? あんたはなんでここにいるんだよ」
俺は男に聞き返した。
「俺か? ニーチャンからしたら大したことねーよ。 近所の女どもがうるさかったからな。 静かさせるために殺したあと、へへ。」
「…」
「なぁ? ニーチャンのに比べれば赤ん坊もいいとこだろ?」
「……」
「おい? どうしたんだ急に黙り込んで?」
「… だれか… だれかぁぁぁぁ!!!! タスケテクダサァァァァァァァイィィィィ!!!!!」
俺は格子をありったけの力で揺らす。
ガチでやべーじゃねーか!
清く正しく生きてる小市民な俺がなにをしたっていうんだ!!
お願いです! 神さま仏さまキリさま!
なんでも言うこと聞くからここから出してくださいっ!
俺が騒いでいると見張りの人が来て、静かにしろと怒鳴られた。
もう嫌だ。
次の日俺は檻から出された。
そして、手錠をしたまま何処かへ連れてかれ、
両開きの大きな扉の前に立たされ中に入るよう言われた。
部屋は扉からもわかる通り大きな部屋で部屋には絵画や陶器などが並べられていていかにも大富豪の部屋といった感じだ。
さらにはバルコニーに通じる壁は一面ガラス張りでこれもまた金持ちらしいものであった。
そんな豪華な部屋に似つかわしい机でなにやら書きものをしている男性がいた。
男にしては長い髪を後ろで1本に結んでおり、部屋にあっているというか身だしなみも権力者といった感じだ。 あと悔しいながらとんでもなくイケメンである。
「あ、あの…」
「ああ、すまない。 まぁそこのソファーにでも腰掛けてくれ」
そう勧められ俺は言われるがまま座る。
そして、男が机に置かれていたベルを鳴らすとメイドらしき人が来て俺が座るソファーの前の机に紅茶とお茶受けを持ってきてくれた。
「遠慮はしなくていい。 ゆっくりとくつろいでくれ。 ん? ああ、そうだったね」
と俺に手を出すようにいうと、俺の手にかけられていた手錠を解除してくれる。
「自己紹介が遅れたね。 僕の名前はアザゼル。 君にはうちのミーナがお世話になったみたいだね」
前にベルンの街の事件で少しだけミーナから名前を聞いた。
確かミーナの師匠でミーナ曰くとても適当な男らしいのだが彼の見た目からはそんな適当そうには見えない。
「まぁ何度も言うようだが、悪かったね。 生き返って突然牢獄行きなんて。 あれはあれで仕方なかったというか、このまま行けばソウタ君は極悪テロリストとして斬首だったんだけどね」
とカラカラと笑う。
なんかしゃべり方といい、雰囲気といいどこかミーナに似ているような気がする。
まぁ師弟なんだしそんなもんなんだろうか。
「僕も本気で君がやったとは思ってないよ。 『戦争屋』だろ?」
「え?」
「なんで知ってるのか、みたいな顔だね。 こう見えても僕は元天使だよ? さらにはこの国の王族の次に権力を持ってるアルシノエ王立図書館の館長でもある。 それくらい知ってるさ」
ミーナもガブリエルも適当だなんて言ってたが肩書きからなにから全然そんな風には見えない。
「まぁ館長と言ってもお飾りだけどね。 仕事は基本的に副館長がやってくれるし、ソウタ君があったエディたちも働いてくれるしね。 それに身の回りは基本的にメイドさんたちがやってくれる。 最高の環境だよ、ここは」
前言撤回、ただのクズだった。
「本当、私たちがどんだけ大変な思いをしてると思ってるの? 私もここで生活したいな〜」
いきなり隣から声がして驚いてそちらを見るといつの間にか隣にガブリエルがおり、お茶受けに出されたクッキーをモゴモゴと食べている。
「なっ!? なんでお前がここに!?」
「私、天使だもん。 どこにでも現れるよ? それにしてもよかったー。 ドラゴン倒したあと行ったらソウタ君倒れてるしさー。 そしたらアザゼルが任せろっていうから」
と紅茶を飲みながらいう。
それ、俺のなんだけどなー。
というか簡単に言ったので流しそうになったが、あのドラゴン倒したのか。
「あ、そうだ。 ガブリエル、あの2人はどうしたんだ?」
俺は無事ではあろうが気になったので俺のことを手伝ってくれた『2人』のことを聞く、
「ん? 食いしん坊ちゃんとツンデレちゃん? あの2人なら帰ったよ。 まぁ最後までアザゼルに任せるのは反対してたけど、なんとか説得してね」
そう言いながらガブリエルは紅茶のお代わりを頼む。
「そうなのか。 なにはともあれガブリエルも含めあの2人も無事でよかった」
「私は天使だからね。 あの程度どうってことないよ! だけど、わかってると思うけど一応あの2人はソウタ君にとって敵だよ?」
と俺の言ったことに不思議そうにガブリエルは尋ねる。
「まぁ敵同士でもあの2人にはいろいろとよくしてもらったからな」
「そういうもんなのかなー。 というかニッポン…だっけ? に住んでる人がみんなそうなのかなー」
今の言い方だとガブリエルは俺以外にこの世界に来た人を知ってるのか? 俺がそう聞こうとしたちょうどその時、失礼します。 と昨日俺を牢屋へぶち込んだエディが部屋に入ってきた。
そしてなにやら書類をアザゼルに渡した。
「ああ、ご苦労様。 うん、これでいいよ。 それじゃあ進めて」
「はっ!」
そんなやり取りのあとエディが出てったあとにガブリエルはアザゼルがもらった書類を覗き込みに行く。
「アザゼル、君は考えることゲスいねー。 いいの? こんなことをして?」
「もともと死刑になりそうだった囚人だから問題ない。 それともなにか? ガブリエルは予定通りソウタ君に死んでもらった方がよかったかな」
「えっ!? それってどういう…」
なにやら不穏な会話を聞き逃すわけにはいかず、俺が聞こうとすると先ほどのメイドさんがお茶とお菓子を今度はガブリエルの分までもってくる。
「ガブリエルが勝手に話し始めてしまったからあれだけど、もともとはその辺を話そうと思って君をここへ呼んだんだ。 それじゃあ新しい紅茶とお菓子も届いたことだし、その辺を話していこうか」




