第54話 師匠を見つけるまで!
「エサの分際で調子に乗るんじゃねー。 牛野郎」
ミノタウルスの後らドスの効いた声が聞こえる。
そこにいたのは外見はピンクの髪の可愛らしい女の子なのだが、そこからは圧倒的に不釣り合いな殺気と魔力を放っていた。
ミノタウルスはその貫通したその薙刀を自分で引き抜き、フーカの方を向く。
そして引き抜いたところの傷は先ほどのように氷で塞がってしまう。
グルグルグルグル…!
ミノタウルスは完全に標的をフーカに変えた!
そして、
グォォォォォ!!!!!
咆哮を一つあげると空中に氷の刃を出現させ、それをフーカに一斉に飛ばす!
しかしフーカは動じない! そして、
「『底を知らない食欲』
フーカは魔法を唱えた。 すると先ほどフーカをめがけて飛んでいた氷の刃は跡形もなく消えた。
何が起こったんだ!?
ミノタウルスも同じように動揺しており先ほどよりも大きな氷の刃を作り出し、それを再びフーカへ向けて飛ばした。
今度もフーカは動じることなくその氷の刃を迎え撃つ。
そして先ほどは見えなかったがどうしてフーカに向かっていた氷の刃がなくなったのか理解した。
フーカは食べていたのだ。
大きな口を開けて、吸い込むように…
その姿はピンクの髪も合わさって某ゲームに登場するピンクの悪魔そのものだった。
そして、氷の刃を飲み込んだフーカから冷気が溢れ出てくる。
そして、フーカは先ほどミノタウルスがやったように頭上に氷の刃を作り出す。
そして、それをミノタウルスの方へ飛ばす。
ミノタウルスは逃げようとするが、間に合うはずもなくあっけなく氷の刃の餌食になってしまう。 そして刺さった氷の刃は花のように広がり、ミノタウルスの行動を封じてしまう。
いやいやいや、何その技!? 完全に某ゲームのあれじゃん! もはや擬人化カ○ィーじゃん!
フーカは表情を変えることもなく、ミノタウルスに投げられた自分の薙刀を拾い、身動きの取れなくなったミノタウルスに近づく。
「本来自分の力じゃないものを得るからそんなことになる。 大人しくフーカの腹の足しになれ」
ここからはなんというかあまり表現できそうもなかったので省略しておく。
まぁ簡単に言えばフーカはミノタウルスを食ったのだ。
骨まで綺麗に。
「ふぅ、不味かったけどお腹の足しにはなった。 ソウタ大丈夫?」
フーカは先ほどのような殺気に満ちた口調とは打って変わって、最初に俺たちに会った時のようなのんびりとした口調でそう俺に聞いてきた。
「ああ、それよりさっきの魔力というか魔毒だよな。 フーカは魔物なのか?」
そう、前にも話しただろうが、人間には人間の、魔物には魔物の、天使には天使の、それぞれ違う種類の魔力を使っている。 まぁ人間世界で表すなら灯油かレギュラーなどのガソリンかディーゼルエンジンを動かす軽油くらいの違いがある。 つまりはお互い違う燃料では動けないのだ。 なのでその理論で言うと先ほどまで魔物の魔力(そのことを魔毒というらしい)を使っていたフーカは必然的に魔物ということになるのだ。
まぁミノタウルスを食べるやつはどう考えても人間ではないのだが…
俺の質問にフーカは変わらずの口調で答えた。
「フーカは魔物じゃないよ。 人間ではもうないけど魔物じゃないよ」
「もうってことは昔は人間だったということか?」
「うん、今は魔物でも人間でもない」
と続けて答える。
ということは元人間で今は違うということか? だったら今のフーカはなんなんだ?
俺はそれをフーカに聞こうとした時
「あ、ソウタさん! フーカさん! よがっだ、無事で! わだじ、じんばいで!」
うゎぁーんと顔をぐしゃぐしゃにしてクロエが抱きついてくる。
「ちょ、 クロエ離れて! 無事だから! 特に大事ないから離れて!」
誰も見てなかったら別にいいんだけどクロエと一緒に商隊の人たちも戻ってきたので恥ずかしくてしょうがない。
結局クロエたちが来たためフーカのことはわからずじまいだったが、悪いやつではなさそうだし大丈夫だろう。
「ソウタ。 フーカお腹空いた。 早くご飯食べに行こう」
さっきあの馬鹿でかい牛オバケ食っただろう…
とりあえず俺たちは街を目指すのであった。
とりあえずミノタウルスはフーカが食べたとはいえ、商隊が雇った傭兵の死体はまだ散らかったままなので、それはクロエと商隊の人たちが皇都から呼んできてくれた衛兵に任せるとする。
俺たちは商隊の人たちの馬車に乗せてもらい皇都まで帰った。
皇都の北の門に到達したところで商隊の人たちと別れた。
これから荷物検査があるらしい。
ちなみにだが商隊の人たちから助けてくれたお礼にと結構な額のお金をもらっていた。 なんでも、もともとあの雇っていた傭兵たちに払うものだったらしい。 傭兵の人たちにはお気の毒様というには不謹慎だが、ありがたく頂戴した。
「そういえば、俺たちはあの商隊の人たちみたいに荷物検査しなくていいのか? 明らかに出る時より荷物増えてるよな?」
「あ、それは私の持っているこの宮廷薬師のバッチがついてるので大丈夫なんですよ。 まぁ私の場合は結構外に出たりするので、このバッチつけ忘れた時でも顔パスで大丈夫なんですが」
と俺がふと思った疑問に答えてくれたクロエ。
今更ながらクロエは結構偉い地位の人なんだなーと実感する。
俺らはそこからクロエの家へと向かった。 ちなみに当然のようにクロエが迷子になったので、普通に行く時間の2倍かかったのだが…
もう夕方だよ…
「さぁ気合い入れて作ります! 待っててください!」
と意気込んでクロエはキッチンへ向かう。
あのクロエが作る料理かー。
なんだろう…
すごく不安なんだが…
俺は結局のところクロエが作ったものはフーカに食べられてしまったので食べてない。
なので完全に実力は未知数だ。
とりあえず食べられるものが出てくることを祈ろう。
クロエの料理を待つ間、再びフーカと2人きりになったので先ほどの続きというかフーカについてもう少し聞いてみることにした。
「そういえば、フーカは元人間って言ってたけど、どうして人間じゃなくなったの?」
「フーカは『みんな』に合わせたそれだけ」
みんな?
フーカの他にも元人間の仲間がいるんだろうか?
「みんなって?」
「フーカのパーティのみんな」
パーティってことはフーカは冒険者なのか?
そしてパーティのメンバーはみんな人間じゃない?
どんなパーティなんだ、それ。
「そういうソウタもあの剣も普通じゃない。 漏れ出す魔力にクラクラした」
とフーカは俺の剣を指差す。
「ああ、これ? まぁこれも特注品なんだよ。 確かに普通の人間じゃこの刀は抜けないからな。 でも俺が持ってる限りは大丈夫なはずなんだけど、もしかしたらフーカは魔物由来の魔力だからクラクラするのか?」
「わからない。 それよりお腹空いた…」
とダラんと机に突っ伏すフーカ。
本当にこいつは…
そんなフーカに呆れてると俺の鞄の中で懐かしいあの独特の音と振動を感じる。
俺は鞄の中から『アレ』を取り出す。
「うわっ! やべー、 ものすごい着信来てた」
鞄の中から取り出したスマホの画面には着信があったことを伝えるメッセージが何件も表示されていた。
俺は怒られるの覚悟でそのスマホを取り、連絡を取る。
「なんですか? 誰もいないところにペコペコ謝ってしかも独り言まであのミノタウルスとの戦いで悪いとこ打ったんですか?」
俺が謝罪の電話が終わる頃すでにクロエは料理を作って持ってきてくれていた。
持ってきてくれた料理はどれも最初の予想とは違いとても美味しそうだ。
そして不思議そうに首を傾げ俺の怪しげな?行動について聞いてくる。
確かに、ケータイ電話知らない人から見たらおかしな奴にしか見えないか…
俺は持っているスマホをクロエに見せる。
「これはな、『ケータイデンワ』と言って遠くの人とでもリアルタイムで話ができるっていう便利な魔法道具なんだよ。 ベルンの街で知り合いに貰ったんだ」
「そうなんですか! 私も欲しいなー。 誰と話してたんですか?」
「俺のパーティのやつさ。 なんでも今お城の方で頼まれごとされたからこないかーってね」
「お城ですか? なんの依頼でしょう? そういえばなんでソウタさんはパーティのお仲間さんとは別行動なんですか?」
「まぁいろいろ訳あって話すと長いんだが…」
「そんなことより、早くごはん!!」
とフーカがバンバンと机を叩く音で中断される。
あ、ごめんねーとクロエはテキパキと準備を整える。
「それじゃあご唱和ください! いただきまーす!」
「「いただきまーす!」」
話はごはんを食べながらすることにした。本来ならあんな凄惨な現場見た後じゃ、食欲もわかないだろうが、 俺もさすがに昨日の昼から何も食べてなかったので、腹が減ってしょうがなかった。
とりあえずパスタのような麺料理から手をつける。
ん! これはうまい!
普段俺らパーティの食事を作ってくれるルナもものすごい腕なのだが、クロエの料理もどれもこれもお店で出てくるようなうまい料理だった。
「私、基本何やってもダメなんですけど、薬のことと料理のことだけは自信あるんです。 さぁどんどん食べてください!」
フーカはというと目の前の料理に目の色を変えてがっついていた。
俺はクロエの料理に舌鼓をうちつつ、先ほどフーカに遮られてしまった話の続きをする。
「なるほど。 確かにそれはお気の毒でしたね。 で、どうするんです? お仲間さんたちとはこの後合流するんですか?」
「近衛兵の連中は気にくわないけど俺だって今回のミノタウルスでレベル上がったし、まだまだパーティの連中よりレベル低くて不安はあるけど合流しようかなーと思ってる」
「そうなんですか、でもお城での仕事ならまた会えるかもしれませんね」
とクロエと和やかな会話をしていると、フーカが話に割り込んできた。
「ソウタは『師弟制度』を結んでくれる冒険者を探してるのか?」
「ああ、まぁそれが強くなる近道だからな」
ふむ、とフーカは一旦食器を置く。
というか机の料理ほとんどなくなってるじゃねーか。
「それならフーカがソウタの師匠になってもいい。 フーカのレベルは169ある」
マジか! まさかこんなところでレベル100を超える冒険者に出会うとは思えなかった!
「いいのか? お前もなんか探し物してるとか言ってたじゃないか」
「うーん、多分大丈夫。 『みんな』が頑張って探してくれてると思うし。 美味しいごはんをくれたクロエとここまで連れてきてくれたソウタへのお礼」
とフーカいうと残りのご飯を平らげるべく、再び食卓に向かった。
ちなみにここまで連れてきてくれたお礼というのはミノタウルスを倒した後、お腹空いて歩けないというフーカを再びここまでオンブしてきたことだろう。
ルナやティアラ、イヴと早く合流したいのは山々だが、ここでレアなレベル100の冒険者を見逃すのももったいない。
ということは答えはもう一つだった。
「お願いできるか、フーカ?」




