第53話 怪事件の犯人を見つけるまで!
「あ、お、お腹が空いてるんですか? ちょっと待っててください!」
とクロエはリュックの中をゴソゴソし始めた。
俺はその間に腹ペコ少女に聞いてみた。
「えーと、とりあえずどうしてこんなとこに倒れてたんだ? お前も薬草探しに来たのか?」
「違う。 倒れていたのはお腹空いたから。フーカは笛を探してる。 草じゃない」
腹ペコ少女はなんというか間の抜けたというか力が入ってないというか、初対面だというのに緊張感とは無縁なのんびりとした口調で答える。
「ちょっと待って! えーと、フーカっていうのは君の名前であってる? それと笛って落し物か何か?」
「そう、フーカはフーカの名前。笛のことは内緒って言われてるから内緒」
「そっか」
どうやらフーカと名乗る少女は誰かに言われて笛を探しに来たらしい。 最近は物騒だというのにこんな小さい娘に誰が頼んだんだろう?
俺はさらに気になったことを聞き出そうと再びフーカに聞こうとした時、
「あ、ありました! これ、どうぞ!」
とクロエが叫んだため中断されてしまう。
クロエが出したのはランチボックスに入ったサンドイッチだった。
それに目の色を変えたのは他でもない、フーカであった。
「いいの? フーカがこれ食べていいの?」
「本当はソウタさんのお昼のために持ってきたんですけど、困ってるならいいですよ。 食べてください!」
ちょっと待て!
それが俺の昼飯なら俺は昼飯抜きか?
俺はどうでもいいってか?
しかし俺に有無も言わさず、フーカはもらったサンドイッチをペロリと食べてしまった。
こいつも食うのに躊躇ねー!
つーか、食うの早すぎだろ!
ギュルギュルギュル〜
「…お腹空いた」
「「…」」
言葉を失った。
さっきのサンドイッチ結構量あったぞ? どんだけ食うんだ、この娘…
結局、これ以上ないことに納得してもらってクロエが
「あはは、街に戻って私の家に行けば材料はありますからよければこのまま街に行きませんか?」
といったのでとりあえず俺たちは街を目指すことにした。
「いいのか? まだ薬草取り足りないとかないのか?」
「いえ、ソウタさんが手伝ってくれたので量は十分です。 それにお腹すかせたままだとフーカさんが可哀想ですし」
とクロエはいう。
ちなみに薬草の入ったパンパンになったリュックは俺が背負っている。 いや、背負っているというか、本来とは逆の前向きに背負っている。 なぜかと言うと
「ソウタの背中あったかい…」
フーカをおぶっているからである。
街へ戻ることになったのはいいが、フーカがお腹が空いて歩けないというので、俺がおぶることに、さらにはクロエがリュックにパンパンに詰めたはいいが重くて持てないというので俺が持つことに、結果としてよく中学生とか高校生とかがやっている荷物持ちジャンケンをして負けたみたいなことになっているのだ。
俺なんかクロエにあってからいいことなくないか?
しかしこれは序の口だった。 前にも言ったが不幸は連鎖するのだ。 よくないことはより良くない方へコロコロと坂を転げ落ちるのであった。
俺らは森から出てようやく皇都につながる街道に出る。 街道と言っても広いものではなく日本でいう林道のような道である。
すると皇都とは逆の方の道から悲鳴が聞こえた!
「なんでしょう!? まさか怪事件を起こしてる化け物でしょうか」
と見るからにガクブルのクロエ。
一方のフーカはすんすんと匂いを嗅いでいった。
「血の匂いがする。 あとなんだかわからない… 魔物みたいだけど魔物じゃない匂いも」
そういうとフーカはおれの背中から飛び降り悲鳴のした方へ走って行ってしまう。
「おい! ちょっと待てって!」
すぐ追いかけようと思ったが、戦闘能力のないクロエも一緒だ。 それに本来これはクロエの護衛の任務なんだからそれを放棄してフーカを追いかけるわけには…
「あ、あの! フーカさん! 待ってくださーい!」
走って行ったフーカを追いかけるクロエ。
自ら危険に飛び込んでいく雇い主を見て今度から感情で仕事引き受けるの辞めようかなと考える機会になった。
俺は無謀にもフーカを追っていったクロエを追いかける。
森の中の道の先にあるちょっと開けた場所にいたのは横たわるのは変わり果てた兵士たちと神へ命を懇願する商隊の人たちそして、
グォォォォォ!!!!!!
俺たちの身長の3倍以上はあるんじゃないかと思わせる巨体と、岩のように硬く隆々とした肉体、頭には二本の角、そしてこちらを刺し殺そうかというほど鋭い眼、何より目を引くのがこの恐ろしい化け物に立ち向かった兵士の血で真っ赤に染めあげられた化け物の身長と同じくらいではないかというほど大きく太い棍棒ーーー
俺はこの化け物を知っている…
RPGでボスクラスで出てくる魔物…
ミノタウルスだった。
「あわわわわわわわわわ」
クロエは完全に腰が抜けてしまっている。
クソッタレ! 最悪の展開だ!
とりあえず俺は商隊の人たちとクロエに叫けぶ。
「おい! おっさんたち! 俺が時間を稼ぐからそこの腰抜かしてるメガネの女の人つれてさっさと逃げろ! 俺のことはいいから、早く!」
商隊の人たちは弾かれたように馬を鞭で叩き、馬車を動かす。 そしてクロエは商隊の人によって馬車に放り込まれ商隊の人たちと逃すことに成功した。
最悪でも5分は粘りたいな…
でもおそらくあの商隊の人たちが雇ったであろう傭兵はこの有様だし、きついかな。
まぁ『後は野となれ山となれ』や『逃走』があるしなんとかなるだろう!
俺は刀を引き抜き、ミノタウルスに対して構える。
「ソウタ。 フーカも戦う。 サンドイッチとオンブのお礼」
どこから取り出したのかいつの間にかフーカは槍というか薙刀を持って構えていた。
「お前、 いけるのか?」
「愚問。 フーカはこれでも強い」
「そうか、 じゃあ行くぞ!」
意気込んでみたもののやはり強敵は強敵だった。 ミノタウルスが棍棒を振り回すたび、土はえぐれ、木々はなぎ倒されていく。
あんなの当たったらおしまいだな。 てか、このデカブツなんでこんな動きがはえーんだよ!
俺は振り回される棍棒を紙一重で避ける。 避けるだけで攻撃を与える暇がない。 フーカの方もうまくミノタウルスの攻撃を避けているのだが手が出せないといったところだ。
あいつもあいつで良くあの化け物に食らいつくな。 ただの大食い娘かと思ってたらタダモノじゃねー。
ただ、2人でなんとか攻撃をかわしつつ反撃のチャンスをうかがっているとミノタウルスの方もスタミナ切れを起こしたのかそれとも俺の眼が慣れてきたのかだんだんと相手の攻撃に慣れてきて、反撃できるようになってきた。
「やぁぁぁぁ!!」
グォォォ!
「…」
グルグルグル…
深くはないが次々と身体に傷をつけられていくミノタウルス。
よし! 動きも鈍ってきた。 あと一息だ!
俺とフーカが同時に攻撃を仕掛けた時、
グォォォォォ!!!!!
ミノタウルスは咆哮を上げ周りの空気を震わせる。
そして驚くことにミノタウルスの傷に氷が張り始めて傷が塞がり血が止まるではないか。
なんてやつだ。 魔法までつかえたのかよ!?
俺とフーカはアイコンタクトでもう一度ミノタウルスに攻撃を仕掛ける。
今度はもっとダメージを…
すると、ミノタウルスは棍棒を振り回す。 その速度は初めの時と同じくらい早いものに回復していた。 そして、つっ込もうとした俺とフーカはなんとか棍棒を自分の武器で受け止めるが、相手のパワーの方が何倍も上で軽く吹き飛ばされてしまう。
「がはっ! くっそ! なんて馬鹿力してや… なっ!?」
俺は吹っ飛ばされ木に叩きつけられる。
フーカも同様で叩きつけられたのだが、ミノタウルスは先ほどまで振り回していた棍棒を捨て、目にも止まらぬ早さでまだ衝撃から立ち直ってないフーカに対して追い討ちのタックルをかましていた。
その威力は凄まじいもので、フーカの身体は木々をなぎ倒しながら吹き飛ばされてしまう。
「フーカ!!!!! ちくしょっ!! うぉぉぉぉ!」
俺は先ほどのダメージが残っていたが刀を持ちミノタウルスに向かう。
「てぇぁぁぁぁ! うぐっ!!!」
向こうもこちらへ向かってくるのだが、俺は相手に攻撃を与える前にミノタウルスから回し蹴りをもらい吹っ飛ばされてしまう。
そして俺を吹っ飛したミノタウルスはさらに追い討ちをかけるべく俺の方へ突進してくる。
今回はやべぇー。 マジで死ぬかも。
覚悟を決め、目をつぶる!
あれ?
待てど、攻撃は来ない。
おそるおそる目を開けると、そこには背中から腹にかけて薙刀を貫通させたミノタウルスの姿があった!




