第40話 ミーナの企みを止めるまで
俺らは次の日から街の復興作業を手伝った。
と言っても散らかった街の掃除が主な仕事の内容で実際に街を直しているのはベルンの街の魔導士である。魔導士の人たちは壊れたところもあっという間に魔法で直してしまう。
改めて思うが魔法って万能だよなー
でもこの世界の人が日本に行ったらそれはそれで科学が万能に見えるのかな。
「ほら、ソウタもサボってないで手を動かす!」
ルナに言われしぶしぶ働く。それにしてもここんとこ1週間瓦礫運ぶ作業ばっか。
俺、一応勇者なんだけどなー
ちなみにティアラは別作業というか、この街の役場での書類整理にかりだされている。
本人は俺たちと同じ街の片付けを手伝うつもりだったらしいのだが、ルナがまだ病み上がりなんだから!っといって肉体労働から外したのだ。
「はぁ、俺も書類の整理の方が良かったな」
「なに言ってんの! ふざけたことばかり言ってるとソウタの賞金全額返金しちゃうよ!」
それは困る。
俺は瓦礫運びの作業に戻る。
すると
「やぁ、ソウタ。 この暑い中大変だね」
そこには見慣れた白衣姿の少女… に見えるだけで実際は俺より年上のミーナが現れた。
「あれ? ミーナさん? なんでこんなところに!?」
ルナは驚いた様子だった。
そりゃそうか。 ルナはあの研究のこと知らないもんな。
「ティアラも久しぶりだね。 僕は用事があってちょっとこの街の近くまで来ていたんだ。 それよりソウタを少し借りてもいいかい?」
「え? 別に大丈夫だけど…」
なんと!
仕事をサボる口実ができた!
「それじゃあ行こうか。 ソウタ」
俺は仕事を抜け出しミーナの後についていく。
俺はあの廃墟に連れて行かれた。
「まぁ散らかってるけどゆっくりしてよ」
廃墟のミーナの部屋に入るとミーナは飲み物を入れてくれ、さらには魔法で氷まで作って入れてくれた。
ほんとこの世界の魔法、万能すぎだろ…
それぞれ適当に椅子に座り、さて、とミーナの方から切り出してきた。
「お陰様でイヴも元気になったよ。 相当ボロボロになったからね」
そう言いながら頼んだオレンジジュースの中を浮いている氷をツンツンつついている。
その様子はどう見ても子供にしか見えない。
「それは良かった。 でも大丈夫なのかよ? あいつも『人造天使』なんだろ? バレたらやばいんじゃないの?」
と俺は不安になって聞いた。
あの施設から逃げる際ミーナは憲兵がどうのこうのいっていた。 俺も同じ現場にいたので下手したら共犯、仲良くブタ箱行きだ。 そしたら魔王だ、 『戦争屋』だ、どこではなくなる。
そしたらまたあのクソ神にバカにされないからな。
それだけは我慢ならない。
「ああ、それなら大丈夫だ。 あの件はどうやら一部の科学者が勝手に造って『人造天使』が暴走、そして彼らが自爆したということになったらしい。 先ほどキーナの方から連絡が入った。 どうやら私に事件の調査の依頼が来たみたいでな。 私はそれに協力しようと思う。 イヴはまぁ表に出さなければ大丈夫だろう」
研究者の暴走と自爆か…
まぁなにはともあれ犯罪者にされる心配がなくなって良かった。
とりあえず一安心だな。
俺はホッと胸をなでおろす。
「そっか。 いやーこれで俺もミーナも疑いは晴れてめでたしめでたしといったわけだ。 とはいってもイヴの件はまぁどうしようもないけどな」
そんな様子を見ていたミーナは俺に何か言いたそうだ。
なんだろう? 俺は気になって聞いてみた。
「どうした? ミーナ。 まだなんかいうことあるのか?」
ミーナは言いづらそうに切り出す。
「…いや、ソウタは気にならないのかい? 僕の昔の話とかさ。 君はあの施設で読んだのだろう? 僕のレポートを」
「ああ、見たよ」
ミーナのいうレポートとはイヴを最初に見つけたあの廃墟にあったものだ。
「確かにあれは非道極まりない内容だった。 あんなこと許されることじゃない」
それに書かれていたのは『人造天使創造計画』のについて、つまりは『人造天使』はどうやって作られたかということだ。
まぁ簡単に言ってしまえば、人体実験やらなんやらの記録で、悪の組織とかがやってそうな内容だった。
ミーナは俺にそう言われただでさえ小さい身体が余計に小さくなったように見えた。
「返す言葉もないよ。 言い訳するつもりはないけど僕は何も考えずにひどいことをやっていた」
と俺に力なく行ってくる。
「自分のやってきた事はどれだけひどいことだったかわかってる。 君の言う通り許されることじゃないと思う。 戦争孤児とはいえ、身寄りのなくなった子どもを実験に使うなんて正気じゃない」
ミーナは続ける。
「これは私に対しての罰だと思う。 お父さんの研究を止められなかったこと、実験台にされた… 当時の僕とあまり歳の変わらなかった子たちを騙したこと、怖くなって途中で逃げ出したことまだまだたくさんある。 それにむしろ当時の僕は『人造天使』を造る実験が楽しかった。未知のものを研究し、前人未到のことを成し遂げる。だから、そんな他人のことも考えず自分の私利私欲に走った大バカ者にそれらの罪を清算する時が来たんだ。今回の件だってそもそも僕がそんな研究に関わってなければ起きなかったことなんだ。 だから…」
「ミーナは、ミーナだろ? 親父さんがどうこうってのは関係ないだろ」
「え?」
俺はミーナにそういう。
歳上の女性に説教じみたことを言いたくはなかったがいった。
「過去は過去だ。 今とは違う。 確かにミーナがやってたことはお世辞にも褒められたことじゃない。 むしろ批難されるべきだ。 だが、昔はどうだったか知らないけど今のミーナは罪の意識を持って反省している。反省したら子どもたちは帰ってくるのかとか、その子たちは許してくれるのかとかそんなことはないかもしれない。それにやってしまったことはもう取り返しはつかない、だけどこれからはその子たちのためにも今よりも住みやすい世界を造ることがミーナが明日から始められることじゃないのか? 戦争もない平和な世界を」
「平和な世界を造る…か…。 それは僕の自己満足じゃないかい? 僕のやったことを誤魔化してるっていうのかな。 それはズルでありイカサマだ。 それより僕がやることはこっちの方があってると思わないかい?」
ミーナの目線は俺より後ろを見ている。
後ろを振り返ると音もなく扉が開き、イヴが現れる。
しかし様子がおかしい。
外見は変わりないのだが、雰囲気が違う。
無機質な…とはいっても、もともと人ではないので無機質な感じはあったのだが、今のイヴの目はとても生気の感じられるものではなく冷たく鋭い目線をこちらに向けていた。
いや、見ているのはある一点だけだった。
まずい!
俺はとっさにそう思い腰の刀に手をかける。 それとほぼ同時にイヴも右腕の肘から下を刀に変えこちらをに突っ込んできた。
狙いはわかっている。
俺はミーナとイヴの間に入りイヴの斬撃を止める。
「くっ!」
さすがに攻撃が重い!
イヴは鍔迫り合いを嫌い俺から一旦距離をとった。
「おい! なんでお前マスターであるミーナを殺そうとしてるんだよ!」
「命令実行に障害発生。 現状、命令実行は困難と判断。 命令実行は一時放棄し障害排除を優先します」
命令? 誰から?
「じゃあ、仮のマスターである俺からの命令だ! 今すぐ剣を納めろ!」
「その命令は了承できません。 命令優先度は仮のマスターであるあなたより本来のマスターであるミーナ様の方が上位にあります。 ゆえにその命令実行のために妨害するあなたを排除します」
マスターからの命令!?
俺は驚き後ろを見ようとした瞬間、首筋に痛みを感じる。
途端に全身から力が抜けその場に崩れ落ちる。
「どうし…て…」
見るとミーナは注射器をもっている。
どうやら何か薬を打たれたようだ。 全身に力が入らず、立ち上がることもできない!
「いっただろ? やるべきことはこっちの方だと。 こんなマッドサイエンティストは死ぬべきなんだよ、 その研究の成果も一緒にね」
ミーナはイヴと一緒に死ぬつもりか!?
「さぁ障害を排除したよ。 一思いにやってくれ」
イヴはそのやり取りの様子を見てミーナの元へゆっくりと近づく。
そして剣化している腕を振りかぶる。
「おい、イヴ。 お前はそれでいいのか」
最悪の展開は絶対に避けなければいけない!
身体に力は入らないものの、口は動く。
なら唯一と言ってもいい動かせるところを使って意地でもイヴを止めるしかない!
「これはマスターからの命令であり、私に決定権はありま…」
「マスターからの命令だなんだは関係ねぇ! お前自身はどうしたいんだって聞いてるんだ!」
俺は叫ぶ。
ミーナを殺そうとするイヴに必死に叫ぶ。
「イヴ、お前が作られたものだとか、そんなことは関係ない! ずっと待ってたんだろ? 10年も長い時間待ち続けたんだろ!? その間たった1人でただ朽ちていく建物と一緒だったなんて悲しかっただろ? 怖かっただろ? なのに、せっかく再会できたのに、その待ち焦がれた人を自らの手で消すつもりか! お前はそれで何も思わないのか!」
「私には人間でいう感情が欠如しています。 ゆえに私個人がマスターを殺害することになんの感情もありません」
「感情がないなんて嘘だ。 最初は確かになかったかもしれない。 でも、ミーナと過ごすうちに少しずつそれが芽生えてきたんじゃないのか? もし感情がないというなら、なんで俺の話を聞く? なんで今ミーナを斬ろうとした手を止めている? そしてなんで今お前は涙を流しているんだ?」
イヴは腕を振りかぶったまま涙を流していた。
「エラー、身体に予期せぬ以上が発生。 命令の実行ができません」
「それはエラーでもなんでもない。 それが人間の感情だ。 お前はもう操り人形なんかじゃないれっきとした『人間』だ」
イヴは腕を下ろし、剣化した腕を元に戻した。
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