第39話 ギルドに帰るまで!
研究施設から外に出てみると街はあちらこちらボロボロになっていたものの一応火の手は消え、混乱は収束しているように見えた。
「それじゃあ、俺はみんなが心配だからギルドに戻るけど、1人で大丈夫か?」
俺はイヴを背負うミーナに尋ねる。
「平気平気。 それよりもここを憲兵に嗅ぎ付けられる前に急いだ方がいいかもね。 下手したら僕たちは死罪だよ」
確かに今回騒動を起こした『人造天使』を暴れさせてたのはミーナではないが、おそらく製造者のミーナも何らかの形で罰せられるだろう。 それに同じ『人造天使』であるイヴも回収、処分されてしまうだろう。
「それもそうだな。 俺もミーナが捕まるのはやだし、さっさとづらかろう」
するとミーナはキョトンとした顔で
「おいおい、捕まるのは僕だけじゃないぞ? ソウタもこの場にいるんだし、イヴ使って街で色々やったんだろ? 君もただじゃすまないぞ?」
「うぇ!?」
信じられない!
まさか自分の知らないうちに犯罪の片棒をかつがされてたなんて!
こんなの詐欺だ!!
「なにはともあれ、ここから立ち去るぞ。 ついでにこの街にもしばらく寄り付かない方がいいかもな」
と笑いながら走り出すミーナ。
俺もここで捕まりたくはないので納得はいかないが、俺はミーナの後を追う。
てか、イヴ背負いながらよく走れるな…
こうして俺らは途中で別れミーナは例の廃墟へ、ルナたちがいるであろうギルドに向かった。
周りを見渡しても一面の砂漠。そして上を見上げれば満点の星空。
そんな寂しい空間にポツンと場違いな家具の類いが置いてある。 それらはどこの部屋を一式くり抜いてきたような絶妙な配置に置かれている。
そこにはベッドに横になり上下ジャージ姿でマンガを読む少女の姿があった。
するとその部屋の近くにゲートが開かれる。
現れたのは背の高い女性だった。
「はーい! ガブリエルちゃん、ただいまご帰還でーす!」
「毎回毎回、おまえはもう少し静かに戻って来れんのか? 」
「そう言わないでよ。 キリちゃん♡」
ガブリエルにキリと呼ばれた少女はよっこらしょと面倒くさそうに起き上がる。
「いまのキリちゃん見てると神さまの威厳なさすぎだね。 また怒られちゃうよ? 他の天使や天界に使えてるものに示しがつかない! って。 それにこれどうしたの?」
ガブリエルはそう言ってその場違いな部屋を見渡す。
「あの脳筋どものところへ行くならともかくここではいいじゃろ。 ああ、これか? これは日本のソウタの部屋を丸々転送してきたんだ。 暇を潰すものが腐るほどあるからな」
とジャージ姿キリはゲームやマンガをガブリエルに見せびらかしながら答えた。
ガブリエルは、はぁとため息をつきなんでカマエルがこの神さまに使えず出て行ってしまったのかわかるような気がした。
ただ自分にとってはいまの神さまの方が好き放題やれるから好きなのだが。
「ともかくソウタ君に伝言のことは伝えたよ」
「ポテチとコーラ?」
「そっちだけじゃないでしょ!? ほら『戦争屋』の!」
「ああ、あの『バグ』のほうか。あれにも困らされたものじゃ。 ほれ、今月だけで下界からの以来案件がこんなにも」
キリはファイルを取り出し、ガブリエルに渡す。 中には大量のA4ほどの大きさの書類が入っている。
その中には下界の人間からの悲痛な願いが書かれていた。
ガブリエルはしばらくパラパラとめくり、再びため息をつく
「いたたまれないねぇ。 みんなの平和を望む声に応えられないなんて。 天使だなんだと言ってるけどここまで無力なんだね。それにこのページ」
と言ってガブリエルはとあるページを開いてキリに見せる。
キリは差し出されたファイルを覗くとどうやら小さな女の子からの願いのようだ。
『神さまお願いです。お外で思いっきり遊びたいです』
そしてページをめくる今度は男の子からの願いだった。
『もう1度お父さんと遊べるように、無事に戦争から帰ってきますように』
どちらの子も『戦争屋』が関わったせいだと考えられる内戦の激戦地に住む子供たちだ。
キリはパタンとファイルを閉じ、同じようにため息をつく。
「私も同じじゃよ。いくつか手を打ってはおるが、打つ手なしじゃ」
「斥候の方も報告なし?」
「いくつか連中のアジトを見つけたんじゃがな、 やはり大元を叩かないとダメじゃな」
「そういえば魔王く…じゃなかった。 魔王は連中について何か知っているみたいでしたが、どうしますか? 聞き出しますか?」
ガブリエルはキリに提案してみる。実はガブリエルはあの場所に登場する前魔王幹部である彼女らとカマエルの会話を盗み聞きしていた。どうやら魔王幹部の彼女らは『戦争屋』のボスについて知っているような口ぶりだった。
しかしキリは首をよくに振る。
「無理じゃろ。 あの男がいくら神が変わったからといって天界に協力するはずがあるまい。 それだけのことを天界は彼にしたんじゃからな」
と言ってキリはファイルをしまうと指をパチンと鳴らす。
するとジャージ姿だったキリは一瞬でちゃんとした巫女服姿になる。
「それじゃあ私は脳筋どもに定例報告しに行くからの。 ガブリエルももう休んでいいぞ」
そう言ってゲートを開くキリ。
「わかりました。 お疲れ様です」
残されたガブリエルは満点の星空を見上げ、ただただ誰かがこの状況を打開してくれるのを祈るだけであった。そしてある男の子の顔を思い出す。 この神さまに異世界から連れてこられて文字通り手足のように働かされている彼を。
「もしかしたら本当に彼ならやってくれるのかもね。 期待しちゃってもいいのかな」
そういいガブリエルはクスクスと笑い、遠くの彼に思いを馳せてみた。
「あ、ソウタ! 無事だったんだね!」
ギルドへ戻るとルナがそう言って駆け寄ってきた。
「なんとかな。 そういえば? ティアラは?」
ギルドの中には連合パーティの面々を始め沢山の冒険者のやつらが宴会を開いていた。なぜ宴会を開いてるのか謎だがそれよりもいくら見渡してもティアラの姿が見えなかった。
「ああ、ちょっとティアラちゃんは無理しちゃってね、 本人は大丈夫って言ってるんだけど一応大事をとって今日は病院の方に泊まることになってるんだ」
「本当にそれ大事なのか!?」
「うん。 私も見たけどそこまでひどくはないみたいだったよ」
それなら良かった。
俺はホッと胸をなでおろす。
「ところでなんでみんなこんなの馬鹿騒ぎしてんだ?」
ああ、それはね、とティアラが説明してくれた。
どうやらベルンの街の領主から今回の騒動鎮圧のお礼として戦ってくれた冒険者に対して報酬金が支払われたそうだ。 それで、みんなで戦勝祝いとして馬鹿騒ぎをやっているということだ。
「んでいくら払われたんだ?」
「それが驚きの一人当たり一万ゴルド!!」
「一万!? 太っ腹だな、領主さま!」
つまり日本円にして一人当たり100万円の支給である。
そりゃお祭り騒ぎにもなるわな。
「まぁ一応受け取ったら明日から始まる街の復興作業を手伝わなきゃいけないんだけどね」
なるほど。 やはりギブアンドテイクか。
「まぁなにはともあれお疲れ様。 ソウタも飲もうよ!」
とルナは俺の手を引く。
こうして俺もこの馬鹿騒ぎの喧騒の中に加わるのであった。




