第2話 初クエストクリアするまで!
異世界に来た。
さっきまでいた寂れた地方都市とは全く違う光景が目に入る。
ただ1ついや、いろいろと思わぬ誤算があった。
「言語はあの看板とか読めるから大丈夫なんだろうけど、なにこの装備!」
ソウタ
職業 勇者
E ヒノキの棒
E おなべのふた
E 勇者の服
「勇者の服とかはともかくとして、ヒノキの棒って!おなべのふたって!!」
「なにが不満なんじゃ、最初から最強装備じゃゲームもつまならなかろうという配慮ではないか。感謝するがよい」
「いらないよ!そんな親切心!!」
「まぁまぁでも勇者の服はすごいのじゃぞ?その服を着用していれば歴戦の戦士のごとく身体を動かしてくれる代物だぞ?戦闘初心者の少年でも安心の品じゃ」
確かにそれはありがたい。だが、もっと重要な問題があった。
「ていうか、俺の持ってきた荷物はどこ!!」
「それは知らん。次元の狭間に落としてきたかの」
最悪だ。ひとの荷物を落としてきたキリだが本人は全く悪びれることもなく。ドンマイドンマイとかいっている。キリに対して並々ならぬ殺意がわく。やるしかない。勇者の服とかいうのの性能を試してやる。こうして再び神に対して闘いを挑むのであった。
結果は聞かないでほしい。
それからいろいろあってキリは再び扉を出現させ行ってしまった。ここの話は省略でも構わないだろう。あのアホ神はいってしまい1人取り残された。とりあえずいつまでも広場の真ん中にいては邪魔なので噴水前の教会に入ることにした。人がまばらな教会の端っこの方の席に座り状況を整理してみた。とりあえず装備は勇者の服とやら以外は最悪だ。しかし大きな街だ、それなりの装備も売っているだろう。所持金は…てか財布はあるが円はこの世界で使えるのか?あとはスマホと100均ライター、ポケットティッシュ、ビニール袋である。まぁこっちは使えそうだ。
1人でいろいろと唸っていると横から声をかけられた。
「旅のお方、何かお困りのことでもあるのですか?」
振り向くとなんと天使がいた。
いや、天使のようなシスターがいた。綺麗な紫色のロングの髪にとても優しいそうな顔そして何よりなにがそんなに入っているんですか?と聞きたくなるような大きな2つの…
「もし、大丈夫ですか?」
「大丈夫です。それよりもシスターさんのお名前を教えてください!」
俺は可能な限り理性を押さえつけていたが、こうも自分が欲に忠実だったとは17にして新しい発見だ。
「私の名前はセリアと申します。なにかお困りのようでしたが、私にお力になれることはありませんか?」
「俺の名前はソウタです。実は…」
求められていないが自分の名前もいい、これまでの経緯をセリアに話した。と言っても異世界から転生してきた神さま代理の勇者だとはいっても信じてもらえなそうなので遥か東の島国からきて右も左もわからないことを説明した。
「東からの旅のお方でしたか。しかし東の国の諸国は軒並み魔王軍にやられたと聞きます。あなたの祖国も…」
「はい、おそらく… ですから祖国のため魔王討伐をしたいと思いこの大きな街に来ました」
我ながらうまくアドリブできたと思う。
「なるほど、さぞや無念でしょうに…私にできることがあればなにとぞお申し付けください」
セリアにいろいろ教えてもらった。まず当然ながらここの通貨は円ではないこと、またいろいろな街の施設や簡単な国の法律〈つまりはやっちゃまずいこと〉などだ。
セリアと別れ、ひとまず教えてもらったギルドへ行くことにした。どうやらこの世界では魔王討伐には国から雇われる形となるらしく冒険者となりギルドで登録料を払い登録する必要がある。またギルドは酒場と一緒になっているらしく、俺と同じような冒険者から話も聞けるだろう。俺はとりあえずギルドの受付にて新規冒険者登録をした。登録料はセリアに恵んでもらったものである。なんと情けない…あとで必ず倍にして返すと心に誓った。
「それではソウタさんにはこのギルドカードを差し上げます。まずはそちらのカードの上に手をかざしてください。」
言われるがまま手をかざす。
「はい、ありがとうございます。このカードにはソウタさんの職業、ステータス、いままで討伐した魔物の数、現在進行中のクエスト、過去にクリアクエストが見れます。実際に見てみましょう。ステータスは新規冒険者にしてはそこそこ高いですね、ですが上はたくさんいますから頑張ってください! 職業は…あれ? 空欄ですね、すみませんもう一度手をかざしてもらえますか?」
魔法のカードにも印刷ミスはあるんだなーと思い、もう一度手をかざす。
しかし、なにも起こらない。
「おかしいですねー 失礼ですが、いまなんの武器を装備していますか?」
受付のお姉さんの質問になんのためらいもなく答える
「ヒノキの棒です。」
するとギルド内は笑いに包まれた。
「マジか!?お前、ひ、ヒノキの棒って子供の冒険者ごっこかよ」
「あっはっはっは、ヒノキの棒しか買えない貧乏冒険者かしら」
「ガハハハ、おとなしく田舎に帰った方がいいんじゃないか?」
ギルドの皆さんからいろいろな祝福の言葉を投げかけられた。
泣きたい。
「そ、ソウタさん、大丈夫です!職業欄が空欄でもちゃんと冒険者としては働けますから、それでは他の表示は実際に体験してもらうのがいいと思いますのでギルドから新規冒険者用のクエストを出していますのでまずはそちらの方をやってみてください、」
受付のお姉さんは笑いをこらえるのに必死そうだ。
もはや泣きたいを通り越して死にたい。
なにはともあれ無事に冒険者となれた。受付のお姉さんから仲間を探して一緒に行った方がいいとのアドバイス…を受け早速探してみるのだが、先ほどのことがあるからだろう誰も見つからない。見かねたギルド内の酒場で働いているウェイターさんが声をかけてくれた。
なんだろう、異世界まで来て日本の学校の体育の授業とかであるペアが見つからずに見かねた先生と組むみたいな仕打ち…
いつかレベルを上げて必ずあの神さまを倒すことを心に決めた。
ウェイターさんは見た目同い年くらいのこちらも美人さんで金色の髪に翡翠のような綺麗な瞳をしていた。うーん、この世界に来ていままで唯一いいと思ったことは美人さんに声をかけてもらえるといったところか、リアルではありえないことだが…
「それじゃ、初心者クン。一緒にクエスト行こうよ! 私の名前はルナ、一応冒険者の資格を持っていて職業は弓兵だよ!」
「ソウタです。よろしくお願いします。ルナさん」
「ルナでいいよ、みたところ同い年くらいだからさ。とりあえずクエスト行こうよ、場所はこの街の西の森だよ。準備してくるから待ってて!」
そういうとルナは店の裏にかけていった。
ルナを待ち早速街の外へ西の森には歩いて1時間だ。その途中戦闘の初歩的な動きなどをルナに教えてもらった。
「えーと、このクエストでは『デビルラビット』ってヤツを10匹倒せばいいんだよな? 名前からして雑魚モンスターぽいような気もするんだけどもどうなんだ?」
「まぁ確かに防御力や体力は少ないから簡単に倒せるんだけどね。なにぶんすばしっこくてそれにたくさん集られると今のソウタじゃきついかも」
ヒノキの棒装備の冒険者以外なら余裕といったところか。
森へ到着し早速中へ入る、するとデビルラビットはすぐ見つかった。見つかったはいいが、1匹どこではなかった。軽く10はいる。
デビルラビットとはウサギの背中から悪魔のような羽の生えた魔物で名前の通りだった。こっちを敵とみなしたウサギたちは襲いかかってきた。それはもうすばしっこくそこらじゅうを飛び回るのである。俺はこの時どうしてウサギは匹ではなく羽で数えるのかわかった気がする。
「ソウタ! なにをボーッとしてるの!? いくよ!」
ルナがそう叫ぶ。さすが先輩冒険者、いきなりの襲撃でもなれてるなー
感心する間もなく1匹のデビルラビットがこちらへ突進してきた。そこでヒノキの棒で野球のボールを打つように飛んでくるウサギを思いっきり打った。飛ばされたウサギは地面に転がり光の粒となって消えた。なるほど、これがルナの言っていた魔物を倒した状態か。こんな調子で何回かウサギの体当たりは食らったがどうにかルナと協力してウサギの群れを倒すことができた。
「おめでとう、 ソウタ! クエストクリアだよ。ささ、ギルドに報告しに行こうよ!あ、待ってその前に傷治してあげる。 『ヒール!』」
先ほどの戦闘で負った、アザやらかすり傷やらが跡形もなくなくなった。
「すごいな、ルナ。弓兵だっていうから弓矢で戦うのかと思ったら短剣もつかえるのな!それに回復魔法まで!」
「初歩的なものばかりだけどね。クエストやるにはいろいろとあった方がいいかなと思って」
褒められて嬉しいのか、照れるルナ。
「ソウタもすごかったよ! ヒノキの棒でデビルラビットを4匹倒したじゃん。 なんかこううまく飛んでくるデビルラビットにタイミング合わせてさ」
「あーあれは野球の応用というかなんというか」
「ヤキュウ?」
どうやらルナは野球を知らないらしい、ということはこの世界には野球はないのか?
「俺のいた国の競技さ、本当はゲンコツくらいの大きさの丸い玉を棒で打つ競技なんだけどね」
「ふーん、よくわからないけどとにかくすごかったよ!なんていうかソウタって目がいい? あんなすばしっこいウサギに棒をあてるなんてやっぱすごいよ、なんかそこそこ経験のある冒険者みたいな身のこなしだったよ!」
ルナはそうやって褒めてくれる。目は人並みくらいなのだが、確かに戦闘中は身体が自然に動いてた気がする。なるほど、キリとのケンカの時はわからなかったがどうやらこの服の効果は本物らしい。ていうかそんな補正付きでも勝てなかったのか?俺は
ひとまず俺の異世界での初クエストは無事に成功したのであった。