第112話 一発逆転の魔法を使うまで
大戦当時、日本の危機に数々の連合国側の船や航空機を海の底に沈めてきた軍艦 睡蓮。
70年の、こちらの世界では約200年の時を超え、再びこの世界の危機にその姿を現し、そして圧倒的数の敵を打ち滅ぼしたのだ。
これはヨハネも完全に予想外だった。
バカな! この世で最強の軍隊だぞ!?
それをいともたやすく!
何だあの攻撃は!!
神の使いでもある4人の使徒を、完全無敵を誇る神の軍隊を、あっさりと蹴散らされてしまった。
ヨハネは完全に正常な思考ができなくなっていた。
この先を見逃すほど人間側も甘くはない。
「よし、今だ! 全員ありったけの魔力を打ち込め!!」
アザゼルがミーナ特製の通信装置に怒鳴る。
「全く、我が男なんぞの命令を聞かないといけないとは」
「そんなこと言っても仕方ないやろ! よっしゃ! 一発かましたるで!!」
「これ、みんな一言言わないといけない流れなのか?」
「それなら私が締めるよ、ツンデレちゃん! ガブリエル、いっきまーす!!」
配置についていたでかい魔力を持った、天使、魔王軍幹部とそのほか最強の吸血鬼が配置についた場所からありったけの魔力を決められた場所に流し込む。
するとヨハネの真下の海の上に大きな魔法陣が浮かび上がる。
ヨハネはさすがに正気を取り戻し、その魔法陣から離れようとするのだが一歩遅かった。
魔法陣からは無数の鎖が飛び出しヨハネを縛り付ける。
「クソッ!! っ!?」
ヨハネはそれを振りほどこうとするのだが、なぜか振りほどけない。
魔力を使って拘束している限り、魔力を無効化できる彼女にそもそも拘束系の魔法も聞かないはずなのだだが、その鎖はヨハネがいくらもがいてもビクともせず、ヨハネを強く縛り付ける。
「無駄だよ。 その鎖は君自身を縛るものじゃない。君の周りの『魔力を妨害する魔法』を縛る鎖だ。 だから君がそれを出るには魔力を妨害するそのバリアーを解かなければならない。 でも、そんなことしたらみんなから総攻撃だよ。 さて、ルナちゃん、あとは頼んだよ」
アザゼルは再び通信装置で、今度はルナに向かってメッセージを送る。
僕の仕事はあとは見守るだけか……。
あ、神様に祈るってのもいいけど、今、あそこにいるけどね。
もがくヨハネを見上げながらアザゼルはルナが成功するように生まれて初めて神様に祈った。
「ルナさん!!」
「わかってる!」
ティアラは自分の胸の前で手を握り祈るようにルナを見守る。
ルナは大きく深呼吸をして、目を閉じ精神を集中させる。
やれる。
私ならやれる!
これを当てたらソウタに思いっきり褒めてもらうんだから!!!
ルナは目を開け、弓を引く。
ギギギィっとしなる弓。
狙いを定め矢を握る手を離す。
スッと放たれた矢は真っ直ぐにヨハネに向けて飛んでいく。
そしてそれは寸分違わず、ヨハネの胸に打ち込まれる。
「ガッ!!! ウガァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッ!!!!!!」
激しい断末魔を上げ、ヨハネが苦しみだす。
まるで毒を打ち込まれたように空中でのたうち回る。
そして、強直ケイレンをおこしたようになったかと思うと今まで支配していたリンの身体からヨハネが出てくる。
その姿は今までやってきたこととは対照的にこの世と思えぬ、まさに女神のような容姿。
支配から離れたリンの身体は真っ逆さまに海に落ちていく。
それを済んだのところでキリがすくい上げる。
「少年!! 何をぼさっとしてる!! 離れるぞ!!!」
キリの言葉に弾かれるように俺らはその場から急いで離脱する。
そう、ここまできたということは最後に『高出力星間圧縮粒子砲』がくる!
ヨハネは打ち込まれた『エルフの秘薬』のダメージからまだ回復していなかった。
だが、頭上にキラッと光るものを見つけ慌ててその場を離れようとする。
しかし、当然間に合うわけもなく依り代を失った彼女に宇宙空間からの高エネルギー弾が直撃する。
激しい爆音とともにあたり一帯が光に包まれる。
宇宙より放たれた光の矢はその着弾地点の全てを焼き払った。
放たれたエネルギー弾はその真下の海を蒸発させ、大量の蒸気を発生させていた。
人々は、この戦いに参加したものたちは固唾を飲んで見守る。
これで終わった。
誰もが圧倒的エネルギーの『高出力星間圧縮粒子砲』が打ち込まれた地点を見ながら確信する。
やがて、蒸気が晴れて見えるようになると人々は知らされた。 自分たちがどんな存在に手を出したのかを。
「忌々しい虫けらどもめぇぇぇぇぇ!!!!」
ヨハネは黄金の巨大なドラゴンに姿を変えていた。
そして、天空にをじっと睨み、そしてその身体に魔力を込める。
魔力を極限まで高めた黄金のドラゴンは口を大きく開く。
するとどこぞの特撮怪獣も顔負けの高威力の熱線を空高くへ向けて放つ。
熱線を放った後、少し間があり、空高くで一瞬何かが光り、すぐに消えたのが見えた。
「おいおい、正気かい? はるか宇宙空間にある兵器を撃ち落としたよ」
さすがのアザゼルも万策が尽きたという諦めの表情になる。
『依り代』から切り離したヨハネは弱体化すると思っていた。
だが、現実は違った。
人類は、とんでもない化け物を産み出してしまったのだ。
「これを、倒せというのか……」
ユーリはただ立ち尽くす。
その圧倒的戦力を目にして今までのはだだの遊びだったのかとただただ無力感に苛まれる。
「クッ! ここまでか……」
流石のキリもこんな相手には出会ったことがないらしく動くことができない。
そんな2人の様子を見て、俺は少し冷静になる。
そうだ、俺は勇者なんだ。
ここで立ち上がるのは勇者である俺しかいない!
今、ここにいるのは引退した元勇者たち。
現役の勇者は俺ただ1人。
考えろ、俺にしかできないことがあるはずだ。
俺だけが持つ、俺だけの武器。
考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ!!!!!!!!!!!!!
「キリ、俺、行ってくる」
「バカ! 少年!! 1人で突っ込んでも無駄死にするだけだぞ! おい、まっ………」
止めるキリの声を背中に俺は化け物と化したヨハネに突っ込む。
そして、俺だけが使えるあの魔法を、
数多くのピンチを救ってきたあの魔法を唱える。
「『後は野となれ山となれ』!!!!!!!」
俺が最後の最後で唱えた魔法は勝利の魔法でも滅びの魔法でもなんでもない。
何が起こるかわからない、ギャンブル魔法。
この世界に来た時からいろいろなピンチから救い出してくれたり、いろいろなピンチに叩き落としてくれた、俺だけが使えるとっておきの魔法だった。
それをこの世界が滅びる瀬戸際で俺は使った。
はたから見れば何をトチ狂ったのかと思うだろう。
だが、目には目を、トチ狂った相手にはトチ狂った魔法を!
「あ、あれは……まさか!!」
「ふん。 私のあげたギャンブル魔法で最後の最後であれを引き当てるとはな。 なかなか持ってるじゃないか、少年」
元勇者2人は驚きのあまり、絶句する。
それもそのはずである。
俺の背にはまるで後光のように光り輝く七つの剣が現れたのだから。
「貴様っ! その剣は!!」
ヨハネの方も驚きを隠せないでいた。
先程まで自分が使っていた最強の7本の剣が目の前に現れたなんの変哲も無い人間の後ろで光り輝いていたからだ。
「さて、終わりにしようか。 もう十分だろう、こんな茶番は」
俺は背後の剣を一つ手に取る。
不思議なことに手に取った時からそれがどんなものか頭の中に入ってくる。
俺は冷徹に、無慈悲に、その剣を起動させる。
「『第7の審判』 解放。 神に逆らう反逆者は1人の英雄によって討たれる。 全ては栄光の光とともに」
その言葉とともに光は輝きを増す。
「させるかぁぁぁ!!!」
ヨハネは先ほどの熱線を俺に向けて放った。
はるか彼方の兵器をも撃ち落とす威力の熱線なのだが、俺の前にできた光の壁によって簡単に弾かれてしまい俺には届かない。
「いくぜ、 うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
俺は勢いをつけて一気にヨハネの胸元へ飛び込んだ。
「私は神の代理なのだ。 私こそが腐った人類からこの世を救う救世主なのだぁぁぁぁ」
地獄の底まで響くような叫びとともにヨハネも俺を縊り殺さん勢いでこちらへ向かってくる。
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「ギャァァァァァァァァスッ!!!」
あたりはまばゆい光に包まれる。
この度は1週間ほど開けてしまいすいません!
次回ついに最終話です
投稿は20日の夕方ごろを予定してます!




