第105話 終末の笛vs魔王幹部
「いやーここまで来るのに大変だったよ。 天使とかいう連中に邪魔されるし。 でね、めんどくさいから一気にゲートでこようかなと思ったら出口間違えちゃって変な人たち片付ける羽目になっちゃったし、もう疲れちゃったよ」
でも、とそこでとびきりの笑顔になり少女は言う。
「あはっ♪ 君らが『勇者』と『魔王』という人たちなのね。 うんうん、なかなか強そうだね。 この時代は私の知らない武器や戦士がたくさんいてとっても嬉しいよ!」
突如現れた少女は俺たちにそう告げると後ろにまるで後光のように光でできた7つの剣を出現させる。
その様子は明らかに狂気じみており、底知れぬ恐怖を覚える。
ただ、戦おうにも俺もそして魔王もすでに魔力も体力も切れかけている。
「なんだか知らんが、ふざけたことを言うのはそこまでだ」
そんな俺たちに変わってルノが弓を出現させて少女に向かって言い放つ。 さらにルノは俺がやっていた『天装』にも似た、だけれども真っ白ではなく真っ黒いトーガ姿になる。 溢れ出す魔力も魔毒のような威圧感もあるし、天使の魔力のような抱擁感もある不思議な感じであった。
「ふふん、白い魔力と黒い魔力を合わせた技ね。 さっきもそれは見たからつまんない」
そういうと少女は興味を失ったような顔になり、そして光の剣の1つを手に取る。
「『第一の審判』解放。 その一撃は炎の雹となり、地上を焼き尽くす!!」
少女がなにやら唱えると光の剣は高熱を発する緋色の剣となる。
その熱によって少女の周りは揺らめいており、どれほどの温度なのかを物語っている。
「さぁ私を楽しませてね? いくよ!!」
少女が剣を振るうと大量の火の玉がこちらへ飛んで来る。
とてもじゃないが魔力の少なくなっている今の状態じゃ避けることも防ぐこともできない。
すると
「任せて。 『底を知らない食欲』」
フーカが俺たちの前に出てきて火の玉をすべて食べてしまう。
さすがリアルカー○ィの2つ名(俺が勝手にそう言うことにしている)は伊達じゃない。
放たれた火の玉をすべて食べたられたことに少女は感心したように、まるで面白い芸を見たかのような表情でフーカのことを見る。
もちろんそんな遊び半分で追撃もしてこない相手を見逃すほど魔王軍幹部も甘くはない。
フーカが食べ終わると同時にルノが魔法の光の矢を放つ。
「『拡散する矢』」
放たれた光の矢は無数に別れた矢は寸分の狂いもなく少女に命中する。
以前にルナが同じ魔法を使っていたが、そんなものとは比べものにならないほどの威力で当たった瞬間少女は大きな爆音と爆煙に包まれる。
避ける様子もなかったことから攻撃を受けた少女はタダでは済まないだろう。
そうここにいる誰もがそう思った。
だが、次の瞬間である俺たちは驚愕のものを目にする。
爆煙が引き、少女の姿が見えるようになったのだが、彼女は服が多少煤埃で黒くなっていたものの全くの無傷であったのだ。
「あははっ! すごいね、すごいね! 今の2人にはびっくりしたよ」
まるで子供が遊んでいるような、そんな風に楽しそうに笑う少女。
嘘だろ……
あんなすごい攻撃を受けて無傷だなんてどんな化け物だよ……
もちろん固まって動かないのは俺以外の奴らも一緒であり、なにが起こったのかわからないという表情であった。
「ふざけた真似をっ!! 叩き斬ってやる!!」
魔法が効かないと見るやルノは剣を抜き、一気に詰め寄る。
「はぁっっっっっ!!!!!」
横一線剣を振り抜くのだがそれを少女は陽炎に揺らめく灼熱の剣で受けることなくそれを簡単にかわす。
もちろん、それでルノは手を抜くことなくさらに一撃、二撃と攻撃を加える。
「君は剣の腕も経つんだね。 うんうん、この時代にはたくさんの強い人がいて面白いよ。 それじゃあこっちもそろそろいくよ!!」
ここで少女は初めて剣を振るう。
赤く燃えるその剣を普通の剣を受けるようにルノは剣で受けようとする。
だが、受けたルノの剣はまるで水飴のようにドロっと溶けてしまう。
「!?」
「あはは、まずは1人♪」
「『獅子王の一撃』」
炎で出来た大きな獅子が横から少女に襲いかかり吹っ飛ばす。
こちらも以前見たことある魔法だが、やはり魔王軍幹部ともなると威力は桁違いだ。
だが、あんな攻撃を食らってもおそらくあの少女はピンピンしているに違いないことが想像できた。
ルノは少女が吹っ飛ばされた隙に大きく距離を取り、俺らの元へ帰ってくる。
「すまない、フーカ」
「礼には及ばない。 でもなにあれ。 ルノの剣を受けるどころか避けることができるなんて」
確かにルノの剣術はちょっと見ただけだが、ちょっと前まで素人だった俺でも惚れ惚れするものであった。
だが、彼女はそれをいとも容易く避けていた。
遠距離もダメ、近距離もダメじゃどーすんだよ!!
「ふーん、吸収した魔力を自分のものとして使える能力なんだ」
思った通りというか当然のごとくというか、少女は想像の通り無傷であった。
「それじゃあこれならどうかな?」
そういうと少女は剣を頭上にぽいっと投げる。
「これがこの剣の本当の使い方だよ? 本当はつまんないから使いたくなかったんだけど君たちの力は大体わかったし、『勇者』や『魔王』も戦えないみたいだしもういいや」
冷酷にもそう俺たちに告げる。
気づくと宙に浮いている俺たちのさらに上、まるで夜が来たように当たりが真っ暗になるくらいに厚くドス黒い雲に覆われる。
「さぁショータイムだよ♪」
すると先ほどの剣を振るった時に出て来た火の玉が、それこそ雨のようにあたり一帯に降り注ぐ。
まさに絶望の光景だった。
暗雲の下にある全てを焼き尽くさんほどの火の玉が降り注ぐ。 そこに慈悲はなく、全ての生物が死を覚悟する。
流石のフーカもこれは吸収しきれない。
もはやこれまでと思った時、
「よかった、間に合った!!」
「アリー!?」
そこにはフーカやルノと同じ魔王軍幹部の1人であるアリーがゲートを使って現れた。
「逃走!!!」
アリーは俺もよく知る緊急回避用の魔法を唱える。
「あれー? どこか行っちゃった。 まぁいいや、さて、私は私の『仕事』をしないとね」




