第104話 足止めするまで!
「さーてと、 私はこの世界にいる『魔王』って人と『勇者』って人に会いに行こうかな。 って、ありゃりゃ、ここにもいた」
ルーク達の元を離れ、先ほど自分の中にあるネットワークにつないでこの世界のことを調べていたヨハネは『魔王』と『勇者』なる面白そうなものを発見していた。 これについては彼女の持つデータの中にもなく、どんなものなのか直接見たいと思った。
なので、それらがいそうな、強い魔力がぶつかる方へ行こうとすると彼女は遅れてこの『生命の樹』のところまでやって来た天界の兵士たちと出くわす。
「なんなのだ、貴様は」
突然現れた奇妙な少女に警戒心を露わにし、ミカエルが尋ねる。
「うーん、もう一回名乗るのも面倒だし自己紹介はいいよね。 悪いんだけどそこ通してもらえる?」
「質問しているのはこっちだ。 なにものだと聞いている」
正直、こんな『天使もどき』の相手をしたくないヨハネはめんどくさそうに答える。
その返答にミカエルはやや口調を強め再び尋ねる。
周りの天兵達は各々武器を構える。
どうやら質問に答えなきゃ通さないと言うところのようだ。
それを察した彼女ははぁとため息をつく。
「そう。 そうやって通せんぼするんだ。 それじゃあ無理やり通させてもらうよ♪」
そう言ってヨハネは一気に間合いを詰める。
そこに先ほどリンとの戦いで消化不良になっていたラグエルがヨハネの前に立ちはだかる。
「へ! 何をしたのか知らないがさっきより面白そうになってるじゃないか!!」
外見はリンの身体を『依代』としているためラグエルはリンがなんらかのパワーアップしてきたのだと思っていた。 もちろんラグエル自身、いくらリンがパワーアップしてきたところで自分には敵うまいと思っていた。
つまりは油断したのだ。
もちろんこの油断は命取りである。
「なっ……」
パッと赤い血飛沫が天兵たちの目の前に散る。
「まずは1人目」
手刀でいとも簡単にラグエルを落としたヨハネは真っ赤に染まった右腕をペロリと舐め、笑う。
ラグエルがやられたことに天兵全体に動揺が走る。
何より1番動揺したのが部隊を率いていたミカエルである。
ラグエルがやられた?
こいつは只者じゃない!
彼女の中に危険を知らせる警鐘がガンガンと鳴る。
「さて、めんどくさいから一気にやっちゃおうかな」
そう言って先ほどと同様に光の剣を後輪のように展開させる。
「今、一本は使っちゃってるからなー。 今度はこれにしよ♪ 『第4の審判』 解放。 破壊の剣は太陽を、月を、星を砕き世界を暗黒へと落とす」
ヨハネが剣をかざすと辺りはまるで新月の夜のように闇に包まれていく。
「ふふ、この闇の中果たして脱出できるかな? うーんまたこいつらみたいなのと会ってもやだしゲート開いていこ」
ヨハネはクスクスっと笑い目的である『魔王』と『勇者』のいるところにゲートを開き目指す。
辺りは完全に暗闇となり、まさに一寸先は闇という言葉が比喩でもなんでもなく相応しい状況であった。
「くっ! これは、一体……」
ミカエルがひとまず状況の確認をしようとすると、
「ぐぁ!!」
と短い悲鳴が聞こえる。
それは間違いなく天兵のものであった。
それから次々にあちらこちらから悲鳴が聞こえてくる。
何かこの闇にいるのか!?
「くそ! 一体どうなって………………」
「くっ! なんて強さや! こんなんめちゃくちゃやろうが!!」
「そう言っても仕方ないでしょ、 いたた、 僕たち生きてることが奇跡だよ。 前線で戦ってるあの2人がいなかったら終わってただろうけどね。 まぁその前線ももう守ってはくれなさそうだけどね」
ヨハネが出現させた馬頭の化け物は想像を絶する強さだった。
4対1で挑んだにもかかわらず、歴戦の強者が揃いに揃って戦ったのにもかかわらずその強さはまさに奈落の王、破壊の王にふさわしく圧倒的であった。
『生命の樹』がこの馬頭の化け物の出現により焼失し、魔力がいつも通り戦えるようになったのであったが、そんなもの嘲笑うかのようにまるで虫けらのように蹴散らされてエスタもアザゼルもすでに小さくはないダメージを負っており、まともに戦えるような状態ではなかった。
だが、2人よりももっと深刻なダメージを負っている者がいた。
「……………」
「……………」
ルークとベリアルはピクリとも動かない。
ルークの闇より深い漆黒の鎧はボロボロに砕かれ、その腹部には大きな穴が開けられている。
ベリアルの方も左足は腿から下が消失しており、腕はあらぬ方向に折れ曲がっている。
「あれでも瀕死ではあるけど死んでないってところがあの2人のやばいとこだけどねー。 ところでエスタちゃん? 君は後どれくらい魔力残ってる? というか魔王くんのところまでゲート開いていけるかい?」
アザゼルは遠目に一応2人は魔力は風前の灯火だが、あることを確認し、突然そのようなことをエスタへ尋ねる。
エスタはなにやこんな時に、と文句をつけるもアザゼルの質問に答える。
「うち1人分ならなんとか持つやろうけど、あんた連れてはさすがにないで」
「そうか。 それだけで十分だ。 それなら今すぐ魔王くんとおそらく僕の忠告無視して出てきちゃったソウタ君のとこ行って彼らにすぐにそこから離れるように言ってきてもらえる?」
「ゲート開いても逃げられんことあんたもわかってるやろ!? あの化け物ゲート開いて元神様連れ出して逃がそうとした天使2人引きずり出してなぶり殺しにしたんやぞ!?」
エスタはルークとベリアルが転がっているところとは別のところを指差す。
そこには先ほど馬頭の化け物に無残にもやられたカマエルとベアトの姿があった。
先ほどのことだった。
化け物は何か感じ取るや否や自分の真横にゲートを作り出し、その丸太のように太い腕をゲートの中へ突っ込み元神様を連れ、逃げようとしていたカマエルとベアトを引きずり出したのだ。 そして彼らは抵抗も虚しく赤子の手をひねるように簡単にやられてしまったのである。
「それならちゃんと見てたよ。 元神様というか様は僕が緊急回避用として持っていた転移魔法陣でアルシノエの僕の部屋に飛ばしたけど、まさかあんなこともできるなんてね。 さすがは世界に破滅をもたらす兵器だ。 やれやれ、頃合見て逃げ出そうとしたんだけどな」
アザゼルは計画が崩れた、とため息まじりに愚痴をこぼす。
「で? うちにもあそこで転がってる奴らと同じようになれって言うんか?」
「いや、そこは僕に任せてよ。 うまく時間稼ぎするから」
そう言ってエスタを早く行きなと急かす。
だが、エスタはそれを無視し、アザゼルに尋ねる。
「で、時間稼ぎするあんたはどうすんねん」
「……まぁなんとかうまくやるよ」
やや間があってからアザゼルはそう答える。
それで全てを察したエスタはゲートを開き、本人もなんでそんな言葉をかけたのか、普段のエスタなら絶対に言わないような言葉をかける。
「死なんときや」
「…………ありがとう」
それを聞いたアザゼルはふっと笑い剣を抜く。
エスタはゲートを通り魔王とソウタのところに向かう。
もちろんそれに化け物は反応し、先ほどと同様にゲートを作り出し腕を突っ込む。
「おっと、させないよ」
それを見たアザゼルはそう言うと指をパチンと鳴らす。
すると化け物が出現させたゲートは消失し、化け物の腕は消失したゲートとともに肘から先がなくなった。
その千切れた腕からは噴水のように血が噴き出し、辺りをより赤く染める。
「やれやれ、ようやくそれらしいダメージを与えることができた。 やっぱり僕の仮説は当たってたね。 と言うよりあんなこと魔力も無しにできるわけないんだけどね」
化け物はなにが起こったかわからないとような表情と痛みによる苦痛が混じったような顔をする。
それを見たアザゼルは化け物に通じるかどうかはわからなかったが、化け物に聞かせるように言う。
「なにが起こったかわからないって顔してるね。 今、この空間では一切の魔力を使えないよ。 『生命の樹』については僕も昔から研究していてね。 いや、よかった。 あの樹は君に倒されてしまったけど僕が『生命の樹』と同じ効力のある魔法が使えて…………『正々堂々真剣勝負』 ほんと、僕の人柄じゃない魔法だ。 ……だけどたまにはいいよね」
そう言い終わるとアザゼルは切先を化け物に向け、らしくなくカッコをつけてまるでどこかの、未熟者の勇者のように化け物に言い放つ。
「来な、 元天使第4位の力思い知らせてあげるよ」




