第103話 終末の笛の正体がわかるまで!
時は少し遡り魔王と勇者がちょうど対峙した頃、エルフの国にある巨大な森、『原始の森』の奥深くにある湖の中島に佇む『生命の樹』。 その周りを舞台に天界と戦争屋そして元魔王とその部下による激しい攻防が繰り広げられていた。 しかし、その戦いは突如現れた少女によって止められた。
「ふむ、この娘、『依代』としては悪くないね。 でもなんでこんな傷ついてるんだろ」
エルフの少女、リンはいきなり物騒なことをいい先程まで恐ろしい顔をしていたのだが、急にけろっと口調を変え、側から見てもわかるくらい明らかに人格が変わっている。
それはどう考えても元のリンの人格ではないだろうというのがわかる。 『彼女』はゆっくりと自分を凝視する者たちを見渡す。
「えーっと、 白い服着てる人たちが『天使』なのね。 あれ? でも、そこの黒い魔力持ってる人も同じように感じるな。 それと… そっちの人が『吸血鬼』ね」
と一人一人確認するように口にする。
そしてエスタを見るなり急にテンションが上がる。
「なんなのだ、 貴様は」
突然現れた少女に警戒心を強めたままルークが聞く。
少女はさも聞かれたことが嬉しかったかのように嬉々として答える。
「ふ、ふ、ふ、そこの御仁、知らざあ言って聞かせやしょう。 私こそが君たちが『終末の笛』と呼ぶ『審判』の管理者であり、執行者であるヨハネちゃんなのだ!!」
バーンっと決めポーズを決めるヨハネと名乗る少女。
だが、そんな彼女に突っ込むものは誰1人としていない。
ここにいるのはいずれも名の知れた実力者たちなのだ。 ふざけた態度をとっていても彼女が強大な力を有していることは肌で感じ取っていた。
「その『審判』とやらの執行者さんは何をしてくれるのかしら? 文字通り世界を混沌に導いてくれるのかしら?」
ベリアルが面白そうにヨハネと名乗る少女に聞く。
「うーん、『この世界』で私がどう伝わってるのかはまだよくわからないけど、私は世界を滅ぼしにきたんじゃないんだよ? むしろ救済しにきたの」
「救済だと?」
カマエルが眉をあげ聞き返すとヨハネは両手を広げ大げさに身振り手振りをしながら答えた。
「そう! 私はこの『依代』の娘がかわいそうだから助けてあげるの。 私は『エルフ』という種族を救済する。 『エルフ』は私によって『選ばれた』の」
「へー? それじゃあ選ばれなかった他の種族はどうなるの?」
ベリアルは再度聞く。
エルフが選ばれなかったのはまぁ彼女のいう『依代』がリンだったのでわかる。 そのエルフだけを救済するというのだ。 だとしたらその他の種族はどうなるのか。 『終末の笛』など異名がつくくらいだ。 皆、大体は想像できていた。
「そんなの決まってるじゃん! 『選ばれなかった』種族は皆殺しだよ♪」
見事に期待通りの回答。
これには質問したベリアルも目に見えて嬉しそうに見える。
エスタはそんなのベリアルを見て呆れる。
だが、さらにもう1人この状況を楽しんでいる人物がいた。
「なるほど……。 つまりお主は我らの敵ということでいいんだな?」
「そうだね。 全員でかかっておいでよ。 自称『世界最強の吸血鬼』さん。 君がどれだけ世界を知らないか教えてあげる」
そういうとヨハネはまるで後光のように光でできた7本の剣を出現させる。 それは神々しくまるで神のような存在感があり、この場にいる全員を威圧する。
もちろん自分よりはるかに強いことを感じ取っていたがルークは自然と笑みがこぼれた。
「くっくっく、 我も500年以上生きているがここにきて世間知らずと言われるとは思わなかったぞ!!」
ルークは先ほどよりも魔力を強め、ヨハネの神々しい魔力に負けない闇よりも深い黒い魔力を放出させる。
もちろん全力の戦闘体勢になったのはルークだけではない。 この場にいる各々がそれぞれヨハネの強さを理解し出力全開になる。
「あなたに一番乗りは渡さないわ!! 彼女は私のもの!!」
先陣を切って突っ込んでいったのはルークとベリアルの変態紳士と変態戦闘狂の変態コンビだった。
だが、その攻撃はヨハネには届かない。
ヨハネの周りには何やら特殊な結界が貼られておりルークとベリアルは弾かれてしまう。
「君たちの攻撃は効かないよ? あ、でもこれじゃあ不公平だよね? ちょっと待っててね」
そういうとヨハネは何やら呪文を唱える。
するとヨハネを包んでいた結界がユラユラと目に見えるようになり、そしてその光の結界は溶けるようになくなっていく。
「舐めた真似してくれる!」
吹っ飛ばされたルークはゆっくりと起き上がり悪態をつく。
「そうね。 舐められて戦われるのは好きじゃないわ」
同じく服についた砂埃をポンポンとベリアルは払いヨハネに対してそういう。
ヨハネはその様子を見てうーんと悩み、そうだ!と何か思いつく。
そして後光のようになっているうちの剣の1つを取る。
「『第5の審判』解放。 地を穿つ星槍よ、永劫の封印に眠る奈落の王の鎖を断ち切り地上に破壊の絶望を与えよ!!」
そういうと持っていた剣を思いっきりこちらがいる方へ投げつけてくる。
もちろんみんなそれを避けるのだがその剣は地面に突き刺さるどころかまるで沼に沈むかのようにズブズブと地面に沈む。
「な、なんや?」
すると、 激しい地鳴りと共に地面に大きな穴がぽっかりと開く。
その穴から大きく巨大な溶岩の火柱が上がる。 周りの森はその溶岩によって延焼してあっという間にまわりは火の海とかす。
そして、その地獄の釜という形容がふさわしい大穴から大きな陰が現れる。
馬のような顔に頭には黄金の冠をかぶり、隆々とした筋肉はまるで岩山のようであり、蠍のような鋭く硬い二本の尻尾をユラユラと揺らしている。 その堂々たる様はまさに王の名のふさわしい貫禄を感じさせるものであった。 奈落の王は自分の目の前にいる小さき者たちを見渡して大きく吠える。
グォォォォォォォォッッッッッッ!!!!!!!
それはこの場にいる全ての者の戦意を挫くような恐ろしいものであり、誰も足がすくんで動けない。
「この子を倒したら相手してもいいかな? それじゃあ頑張ってね」
ケロッとした態度でそう言い残すとヨハネはどこかへ行ってしまった。
「あっはっは、すごいねー。 終末の笛のことはある程度調べてたけどここまでとは。 あれ? カマエルとベアトは?」
アザゼルは自分の何倍もある目の前に現れた化け物を見上げ呑気にそんなことを言う。 それに上がったテンションが抑えられないといった様子のベリアルが早速自分の武器を構えアザゼルの質問に答える。
「元神様のところにいったわ。 このままじゃ巻き添えになっちゃいそうだからってね。 でもそんなのどうでもいいわ。 この馬頭を倒せば彼女と戦えるのでしょ? ワクワクしちゃう!!」
一方でもう1人興奮が抑えられないといった人物がいた。
「馬鹿者! 彼女は私と戦うのだそして彼女に勝利した暁には私は彼女に婚姻を申し込む! ついに見つけたぞ! まさに理想の女性だ! あの髪と肌の艶、まさに奇跡に近い存在、我は彼女のような存在を探していたのだ!! 奈落の王だかなんだか知らないが地上の王たる我に楯突こうなど笑止千万。 我の愛は誰にも止められぬ!」
「何をこの後に及んでまだそんなことをいってるんや!! それにいつからあんたは地上の王になったんや、変態の王の方がお似合いやろうが!!」
と化け物を目の前になんとも緊張感のない口論を繰り広げるルークとエスタ。
そんな様子にやれやれとアザゼルは肩を降ろし呆れるがどこか楽しそうに腰の剣に手をかける。
「まぁ何はともあれ目の前のこいつを片付けるのが先かな?」




