第102話 ついに決着がつくまで!
魔王はその姿を一度見たことがあった。
彼がかつて勇者だった時戦った魔王と同じような禍々しい鎧に鋭い牙と爪。
「まさか貴様、あの吸血鬼の眷属に…」
驚きながら独り言のように呟く。
こちらが驚いている隙にソウタがもう一撃当てようと迫ってくる。
とっさに魔王は咄嗟にガードするが、
「らぁぁぁぁぁッッッ!!!」
「ぐぅッッッ!!」
魔王が受けようとした剣に交わる前にソウタは刀を翻し剣を持つ利き腕の方を斬りつける。
すると傷口から激しい血しぶきが吹き上がり2人を真っ赤に染める。
魔王は痛みに顔を歪め、持っていた漆黒の剣を落としてしまう。
「よくもっ……!!」
魔王は斬りつけられた腕を回復させようと魔力を集中させらため大きく距離を取る。
ソウタはゆっくりと呼吸を整え、こちらをまっすぐと見据える。そして再び剣を構え、その剣先を真っ直ぐ魔王に向ける。
「悪いが、お前の復讐劇はここまでだ。 今の俺には守らなきゃいけない約束がある。 だからこれ以上人を行かせはなしない!!」
ソウタの目には強い意志がこもっているように見える。
ただ、『吸血鬼化』に不慣れなためか鎧が所々ボロボロと崩れ、本人も肩で大きく息をしている。
しかし、その懸命に巨大な敵に挑む姿に魔王はかつての自分が重なる。
「……めろ」
その姿は平和を願い、人々のためにかけがえのない仲間たちと奔走していたかつての魔王に瓜二つで…
「やめろ…」
何故自分は今こんなことをやっている。
何をどこで間違えたんだ。
そんな今のソウタを見ると魔王は激しい後悔と自己嫌悪に襲われる。
いや、俺は絶対に間違っていない!
ここまでやって来たことが間違いだったなんて認めてなるものか!
俺は裏切られ酷い仕打ちをされて来た、こうなっても当然じゃないか!
だからやめろ、これまでの俺を否定するような……
「その目をやめろぉぉぉぉ!!!!」
魔王は壮絶な叫びと共にまだ回復しきっていない腕を振り上げ突っ込んでくる。
剣を落としたといえ、先ほど折られた鋭い爪は復活している。
そんな魔王に対してソウタも全力でぶつかる。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
一瞬激しくぶつかり合い勢いそのままお互い通り過ぎる。
2人はまるで時が止まったかのように、まるで西部劇の決闘のシーンのようにお互いの武器を振り抜いたまま動かない。
そしてやや間があって最初に動いたのはソウタだった。
「くっ…」
空中で膝をついた形になり、右腕腕を抑える。
利き腕である右腕が魔王の鋭い爪によって傷つけられていた。
「みごと……」
魔王は一度振り返りソウタを見てそういうと、そのまま海へ落ちていってしまう。
だが、完全に落ちきる前に、綺麗な銀色の長い髪をした女性によって拾われる。
女性はこちらへ明らかな憎悪の感情を向けている。
やばいな……
身体がもう動かない。
俺ももういつ魔力が切れて落ちるかわからない。
俺がもはやこれまでと覚悟した時、
「ルノ、待って」
聴き覚えのある声が聞こえた。
「フーカっ!?」
目立つピンク色の髪の背の小さな女の子。
魔王幹部の1人である暴食のフーカである。
彼女とは皇都での一件以来だったので久しぶりである。
「貴様!! 裏切ってなおいけしゃあしゃあと!!!」
ルノと呼ばれた女性の俺に向けていた憎悪の対象がフーカにも向けられる。
だが、フーカは全く気にも留めない。
「ルノ、ルノも今のままでいいの? あの頃には戻れないの?」
「何をいまさら!! そんなこと……!!!」
フーカは言い返そうとするルノの言葉を遮り、さらに続ける。
「今更じゃないよ、まだ間に合うはず。 私は魔王がうんうん、ユーリのことが好き。 でも、今は好きじゃない」
フーカのしっかりとした口調を魔王ことユーリは黙ったまま聞く。
「……」
「今のユーリは嘘つきだ。 フーカとの約束を忘れてる。 今やってることがユーリの本当に思う『正義』なの?」
フーカの言葉に先程まで激しく反論していたルノまで黙る。
「……」
やや間があったから魔王はポツリと呟く。
「俺は勇者になるべきじゃなかったのか……。 お前のように異世界から来ていないから、勇者になるのは間違いだったのか」
そんな魔王に俺は言う。
「俺が、こんなことを言うのもなんだけどそんなことはないと思うぞ? 確かにここまでくるのに辛かったことがたくさんあっただろう。 だけどそれだけじゃないだろ? 勇者になってたくさんの人と出会って色々なものを手に入れただろ。 そもそも誰もあの変態吸血鬼に立ち向かおうとしなかったんだ。 立ち向かってあいつを追い払っただけでも『勇気ある者』だ」
そこで俺はニコッと笑い、言う。
俺と同じ使命を帯び、必死に平和のために、大切な人たちのために足掻いた先輩に生意気にも俺は言う。
「もうこんなことはやめよーぜ。 そんなことよりうちのパーティはこういった大きな仕事終えたらかならずお疲れ様会やることに決めてるんだよ。 お前らもそれにこいよ! まぁともかくお前らもこのままじゃ行くとこないだろうから後のことはキリに頼むし、あいつならどうにかしてくれるだろ!」
その笑顔に魔王、いやユーリも憑き物が晴れたように笑う。
「本当に貴様は……」
これで一件落着。
キリとの約束も果たし、これでようやくゲームクリアである。
この後の俺はどうなるんだろ?
元の世界に戻るのかな? 向こうよりちょっと不便なことはあるけど案外こっちの世界もいいんだよなー。
一仕事終えた開放感からこれからのことを色々考えているとスマホから着信を知らせる振動が伝わる。
「ザザザ… ウタ、ソウタ聞こえる!?」
ノイズ混じりではあるが誰から来たのかはわかった。
「ああ、聞こえるぞ、ルナ。 こっちは片付いた今からそっちに合流する……」
きっと心配してかけて来たのだろう。 俺はそっちに合流することを伝える。
魔王と一緒に戻ったらびっくりするだろうなー。
俺はそんなことを考えながらルナに伝えるが、向こうは俺のことを確認するとこちらが話し終える前に矢継ぎ早に話す。
「よかった、よく聞いて!! 今こっちに来たら! ザザザ、ジー!!」
だが、途中大きな爆音が聞こえたかと思いきやいきなりノイズ混じりになりなにも聞こえなくなってしまった。
「!? おい! ルナ!? 何が起きたんだ!! 返事しろ!!!」
俺は必死に電話口の向こうのルナを呼ぶ。
同じように魔王軍の通信機器のようなものを手にルノも叫んでいる。
「なに!? 魔王軍の舞台が全滅だと!? 詳しい状況を報告させろ!? おい、 聞こえてるのか!? おい!!」
どうやら向こうも何かあったようで必死で通信相手に向かって叫ぶ。
そこへゲートを開き、何者かが俺らの前に現れる。
「はぁーい♪ あなたたちがあの虫ケラどもの親玉なのね」
ゲートをから出て来たのは薄藤色の髪にこの世と思えぬ美しい白い肌の少女。
その少女は容姿に居合わぬ物騒な言葉を口にする。
「それじゃあ、死んで?」




