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テオとエナの異界巡り  作者: P男
20/26

バタフライ・エフェクト

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 小さな女の子は、勇気を出して父に言ってみた。

「お願い、もうお酒はやめて」


 禁酒した男は、実家に帰っていた妻と復縁し、一人の男の子に恵まれた。

「もう二度と、家族は手放さない」


 愛情を注がれて育った青年は、教会の炊き出しを手伝うようになった。

「どうぞ、温かいスープを」


 炊き出しで生きながらえた物乞いは、社会復帰し、詩人となった。

「主よ。感謝します」


 神を讃える詩集は国内で流行し、人々は敬虔に祈りを捧げた。

「隣人を慈しみましょう」


 平和を望む世論に押され、戦争は回避された。

「互いに助け合い、困難を乗り越えましょう」 



        「あなたの小さな勇気が、世界を救います」

          世界幸福基金・広報部


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「皮肉なコマーシャルね」

 映像筐体を眺めていたエナが、ポツリと呟きました。

「ああ、綺麗事だ。現実は報われないことの方が多い」

 テオは苦々しげに吐き捨てます。

 窓の外では、湿った雨が降っていました。

 しとしと夜通し降り続けています。

 それはまるで、誰かの流す涙のようでした。

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