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テオとエナの異界巡り  作者: P男
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弔い2-2

 草原の真ん中に小さな街があった。

 街の傍には小高い丘があって、丘の上には大きな菩提樹が生えていた。

 そして菩提樹の木陰には、一組の男女が立っていた。

 

 男はフード付きの黒い外套を身に纏い、細い樫の杖をついていた。まだ青年と呼んでも差し支えのない幼さを残しているが、その碧眼は死んだ魚のように生気がなく、黒い髪をボサボサに伸ばし、無精髭を生やしていた。

 

 一方、女は年若い少女で、柔らかい金髪を背中まで伸ばしていた。くりくりとした紅い瞳は、強い好奇心を如実に物語っている。しかしその格好は歳不相応に露出が多く、街角に立つ娼婦のように扇情的で、どこかチグハグな印象を与えた。


「みんないなくなっちゃったね。テオ」

 少女がぽつりと呟いた。

「ああ」

 テオと呼ばれた男が小さく頷く。

 

 二人の足元には白い墓石が立っていた。

 刻まれた碑文は「最愛の君 ここに眠る」。

 墓石の前には真新しい花束と、年代物の葡萄酒の瓶が供えられていた。


「これでよかったのかな?」

 少女は頭二つ分は高いテオを見上げて言った。

「あのじいさんが自分で決めたんだ。俺やエナが口出しすることじゃないさ」

「ふうん、そっかぁ。......安らかに眠ってね。おじいさん」

 二人はどちらからともなく手を合わせ、静かに黙祷を捧げた。

 

 やがて目を開けると、エナがニカッと笑みを浮かべた。

「さあ、湿っぽいのはこのくらいにして、葡萄酒を頂いちゃおう」

「おい、じいさんとお別れしたばっかだぞ。ちょっと不謹慎じゃないか?」

 テオが渋面を作るが、

「大丈夫。大丈夫。酔っても咎める人なんていないから」

 エナは特に気にした風もなく飄々としていた。

「それにこれは弔い酒でもある」


 エナはパチンと指を鳴らすと、宙からグラスを二つ取りだした。

 鋭い犬歯で瓶のコルクを引き抜き、赤い葡萄酒を注ぎ入れる。


 テオは「これだから悪魔は」とか「見た目、未成年の癖に」とかぶつぶつ独り言を唱えていたが、ほのかに酸味のある芳醇な香りを嗅ぐと、少し悔しそうな顔で差し出されたグラスを受け取った。


「何に乾杯する?」

 テオはへそを曲げた子供のように投げやりに言った。

 うーん、とエナは首を傾げ、目の前の菩提樹に視線を止めた。

「立派な菩提樹と亡くなった人たちの冥福に」


 涼風の吹く丘の上で、ガラスを打つ澄んだ音が響いた。


「「乾杯」」

 








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