【空海】深海生物(バケモノ)は船を飲み込む。
「『知ってるか?”船長さん”』」
俺を見下ろしながら、ニヤリと彼は笑った。
「『海って、怖いんだぜ?』」
ベルが最期に刺した三叉槍を、自らの腹から抜いて、*****は飛び降り台の先に立つ。
「『ほらほら。馬鹿デカい化け物が口を開けて此方を見ているじゃあないか』」
両手を大きく広げて、哄笑。
一体、こいつは…何を考えているんだ…?
前々から掴めない奴だとは思っていたが、まさか本当に、こいつらは同一人物だったっていうのか…?
「『ニンゲンなんて一飲みだと思うんだよねぇ?ほらぁ、君も見てみる??』」
人間の形はしているが。彼は人間じゃない。
というか。俺は今動けないのに。
「こと…わ………!」「『あぁ!はいはい、分かってるから口に出さなくていいよって!!』」
言った先に、俺の口からは大量の口が吐き出された。
あの時に強く打ち付けてしまったせいだろう。もう長くないのはわかってる。わかってるんだが。
「『でも。残念ながらただの”例え”なんだよね。化け物なんていないよ。』」
ふたたび口を三日月型に歪めたその顔は、何処か彼奴に似ている。
ああ、だから、俺はこいつを殺せない。
同じ顔が、同じ表情が、同じ声が、同じ身体が、………彼奴を思い出させるようで。
「『ま、でも!』」と踵を返し、高く飛んだ彼は、セシリオの上に着地して、目を細めた。セシリオは何の音も発しない。
「『とりあえず海は怖いんだよ。いつ水面下から化け物が現れ、俺らを喰らうのか解らないんだからさ。』」
その”化け物”は、まさしくお前だったってわけだ。
八重歯を覗かせ、彼は鼻の先にまで顔を近付けてくる。
「『勿論、化け物にとって、君も捕食対象だ。糧になるのならなんだっていいんだよ。』」
セシリオからどいた彼は、シュテルネンヒンメルを蹴飛ばし道を作る。
彼女も、何の音も発しない。
「『君達も、僕の悲願の為の犠牲者なのさ。まあ…特殊な記憶持ちである”主人公様”と人形使いくんから食べていきますか。下手したら悪魔に憑かれるから。早めにね。』」
ふぁーあ、と大袈裟に欠伸をし、彼は一瞬だけ表情を眠気に歪めた。
「『さて、……で。君が生き残り?な訳だけど。いつ死ぬの??まだ??????』」
もう声も出ない。血が口内に張り付いて、変な感覚がする。
俺も死ぬのか。みんなと同じように。
………それなら、せめて彼女の願いだけでも、助けて欲しかった。
「『は…ッ!?』」
視界は真っ白にフェードアウトしていく。
照明をあびた役者は、そのまま眠りにつくのか。
「『もう…!!憑かれ……!!ッチ!!!!』」
楽だなぁ。もう…呼吸も浅くなってきた…。
「『てめぇ…!もしかしてリリスか………!!』」
彼が武器を取る音を聴いた。
ああ、心地いい金木犀の香りがする。
それを最期に、俺の意識は沈んでいった。