エピローグ1
ナートル
メンデルさんが反乱を起こし、スライルさん始め5人会議のメンバーのほとんどが殺されたあの事件はのちにイーリスの悲劇と呼ばれるようになる。
あの事件は後に世間でこう語られるようになる。
戦争のない、人が人を殺すことのない平和な社会に耐えきれなくなった乱世の雄メンデル元将軍はその平和な世の中に耐えきれなくなり、狂いだしたメンデルは陰で絶えず辻斬りを行うなどして人殺していた。その蛮行がついに発覚しメンデルは投獄される。しかし、数日後脱獄する。政府に対し自分が投獄されたことに対して憎悪を持ったメンデルはその恨みを晴らすために私兵を率いて王宮に攻め込んだ。その戦でスライルさんをはじめとする数名の政界の重鎮がメンデルの手によって殺害されるも、ゴルジオ将軍を中心とした政府軍が暴走したメンデル軍大将であるメンデル討つことに成功。メンデルの一連の暴挙に終止符を打った。
イーリスの悲劇から数か月がたち、世間ではそういうことになっている。イーリスの悲劇が起こる前に流れていたスライルさんの処刑の噂はメンデルが流したデマということになり、今では誰も信じる者はいない。
もちろんこれは新政府が流した情報である。
あれから私の周りも変わった。
あの時この場にいる人間は全員殺すとゴルジオが言っていたから当然私は殺されるものだと思っていた。だからキーデルがあのテロリストのこの首をはねた後すぐに私はひたすら、ひたすらキーデルに頭を下げて命乞いをした。
その時言われた言葉だ。
「お前は俺の思った通りの人間だったな。計画を実行する前に調べた結果通りだ。本当はお前が一番心配だったんだぜ、直接操作できないからな。だけどお前が自分の欲望にがめつい人間のクズ、ちょっと知能が高いだけの動物でいてくれたおかげで助かったよ。ありがとう。そこまで必死にお願いするなら仕方ない。これから俺の言うことに従順でいるなら命だけは許してやってもいいぜ。無駄な殺生はしない主義なんでね。」
その言葉は悔しくて苦しくて……でも何も言えなかった。
その言葉を言われて何も言えない私は惨めで無様だった……だけど何も言わずその言葉にうなずいた。
無駄な殺生……、私は生きていても問題がないということ……、あのテロリストは苦しそうに首をはねたのに……、あのあとバルテニーおじさんは数日後あっさり殺したのに……。
実際に私は何を言われても何をされても文句を言わずただ従っている。
彼の命令で私は事件の後大統領の職を辞めた。そしてその席には新しくこの一連の事件で悪逆非道のメンデルを討ち神格化されるようになったゴルジオ様が着いた。
そればかりか私の人生の数少ないよりどころだったクードル研究所の所長はおろか研究員でいることも辞めた。
今はゴルジオの、キーデルの奴隷のようなおもちゃのような、そんな毎日。
産業大臣よりも、大統領よりもはるかにつらくて大変な毎日。
これではただ人形使いが乱暴になっただけの一度捨てられたマリオネットではないのか?
いいえ、私はもうマリオネットではない。
誰かに用意された華やかな舞台はもう必要ない。
きっと私が生きていることに何か意味がある。
私が生きていることで何かできることがあるはず。
私が今まで生きてきたのは誰かに操られるため?
いいえ、それは違う。
それは違うということを私が決めた。
私が生まれた本当の意味が分かるときが必ず来る!
だから、生きよう!
そう誓ったあの日が私の本当の誕生日……。
私は生きて何がしたい?
私は研究がしたい、おいしいものを食べたい……。
でも一番したいのは私がマリオネットでしかなかったことで苦しんだすべての人に謝りたい、罪を償いたい。
そのために私はあの日生まれた……。
私は何?
マリオネット?
いいえ、私は人間。
私はもう逃げない。
父の傀儡でも研究の亡者でもない。
わたしはわたし。
自分の道は自分で決める。
そして、いつか本物の人間になる。




