バルテニー、7
その場にいる皆が男に目が向く。
静寂の中、男が剣を抜く……。
私は武器を持って戦ったことはあるがここまで武に研ぎ澄まされた人間はみたことがない……。
私が武器に取ったのも戦場というような戦うもののための場所ではなく、賊に襲われたときに持った程度、その時一緒にいた男がすべて追い払ってくれたから実質戦った経験はない。
いや、そんなことよりこの男どこかで……。
思い出せない……。
「誰も動くな!」
男は剣を私たちに向けるように持つと声を張り上げた。
5人会議には常に一人衛兵がいるのだがそいつは実戦経験がないのだろうか、ガタガタ震えている……。スライルさんがいたころから衛兵が一人は配属されていたが、思えば当時から頼りがいのある人がいた試しがない……。
結局、私たちに剣を抜いた男にあらがうことなどできない。
国の繁栄だとかスライルさんの恩返しだとかそんなこと……、私ははじめから力不足だったのかもしれない。
ナートルちゃんやゴルジオがスライルさんを処刑しようと言っていた時はもちろん反対したが、半ば強引に決定してしまった時、私は若い人たちが考えて出した意見だからと……、新しい太陽ができるならそれでいいかと……、思ってしまった。
でも違った。彼らは幼かったのだ。あれはどう考えても国のためではない、自分のための主張だった。それを許してしまった……。
建国における正解なんて誰にもわからない。誰も知らないことをやろうとしているのだから……。
ただ、不正解はわかっていたはずだ。身に染みていたはずだ。欺瞞では何も変えられない。いや、むしろ余計な考えが大切なものを、本当に守りたいものを壊してしまうことは知っていたはずだ……。
結局のところ、私は本当にただの棒だったのかもしれない……。
棒の役目はこれから育ちゆく若草をまっすぐ太陽に届けること。
だけど、茎が棒に絡みつかなければただの独り善がりだ……。
どうすればよかった?
どうしたかった?
どうならよかった?
あの時、ナートルちゃんやゴルジオさんの言うことを本気で止めておけば……。
あの時、スライルさんを解職しようなんて言わなければ……。
あの時、自分が大統領になると言っていれば……。
あの時、ここでの自分の役割なんて考えなければ……。
今更になって考えれば考えるほど重要な選択肢が思い浮かぶ……。
今更だからか……。
私は何を間違えた……。
私の選択は何を間違えた……。
いや、それは今考えることじゃない。
今の私は、棒は棒でも用心棒。
悩むのはあとにしよう。
とりあえずこの状況が節目を迎えるまでは私の役割を……。
ここで折れたら棒ですらいられなくなる。
今は戦わなくては!
「お前の望みは何だ?」
向こうは剣を2本も抜いているというのにこっちは丸腰……。
正直怖いがここで引くわけにはいかない。
「俺の望み?世界平和だ。俺が剣を手に取ったその日からずっとな!」
男に迷いはなかった。
即答だった。
「それは何だ?今お前がやっていることは逆じゃないのか?」
「いいや、世界を託すだけの信頼はここにはない。俺の大切な人たちを守るだけの力はもうここにはない。それだけだ。」
……その言葉に私はただ息をのんだ。
この会議に参加している人間の中に果たして何人この国のことを自分以外のことを考えている人間がいただろうか……。
通りでうまくいかないわけだ……。
初めから新芽は……、太陽など目指していなかったのだから……。
もっと別の出会いがあれば私の中で何かが変わっていたかもしれないな。
今更になって志を同じくする者に出会えるとは……。
本気になるのが遅すぎたようだ……。
だが、私が今ここでこういう立場にいる以上、男の気持ちは認めたとしても、やり方まで認めるわけにはいかない。
「だが、――」
言いかけてやめた。
……この男、何かおかしい。
武に精通していることは素人目から見てもわかるのに、ここまで剣こそ抜いてはいるがまったく殺気を感じられない。
つまりは世界平和を望むものがそう簡単に人を殺そうとするわけがないということか……。
なるほど、彼は本当に懐疑的なだけだったのか……。
最初に言った一言もそんな感じのものだった……。
ならば私も無理に――。
「油断と隙だらけだなぁぁぁあああ!」
突如、大男が声を荒げて大矛を片手にテロリストもどきの男に突っ込んでいった。
ゴルジオだった。
なぜ?どこにあった大矛だ?
このまま何もしなければなにも起こらなかったのに……。
今までの均衡が一気に崩れ、会議場は懐疑場からただの戦場になった。




