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スライル、7

王宮の地下牢に入って5日目……。

静まり返った地下牢はただ冷たくたまの看守の足音が遠くで無常に響く……。

数日前にメンデルさんが脱獄したらしい。

彼へのお願いはちゃんと守られるのだろうか……。

まあ、人には人のやり方があるし、私も結局一番大切な約束は守れなかったし……。


過去にどんな偉業を成し遂げた人でも時代が変われば見方が変わる。結局最後はこんなものだ……。

誰に見送られるわけでもなく、一人静かに土へ還るのみ……。

私の余命はあと2日。


私の場合はこの世に残せるものがあっただけまだましだ。

今はこんなだが、この国が、世界が一つにできたことが私の最大の誇りだ。

きっとこれから向かう地獄でも自慢のネタになることは間違いない。

もう、この世に悔いはない……。




このままのんびりと死神を待っているつもりだったが、突如、耳にというよりも頭に響く大きくて重い音がして飛び起きた。

これは王宮の外からか?

音から察するにこれは大砲?爆弾?

何にせよ、私がこの世から消したはずの音には違いない。

なぜ今になって?

と思いつつ、それは一度きりだったがこれから旅立つ私には妙に心地よい音だった。

誰だ?なんだ?この王宮の外で、中でいったい何が起こっているというのだ?

メンデルさんが軍を起こした?

脱獄したくらいだ何か火急の用があったのだろう。

いったい何が……、もしかして私を……?


それから少ししてバタバタと牢の前の廊下を駆け足で走り回る音がする。

普段はほとんど物音がしない場所なのだが、今日はやはり何かが違う……。


一人の男が駆け足でこちらに向かってきた。

それはよく知った、見知った顔だった……。

「スライルさん!」

「フレロレ!なぜここに?」

「助けに来ました!」

助けに?何から?

「一緒に逃げましょう。」

フレロレは持っていた鍵束の中から一本選び、鉄格子を強引に開いた。

フレロレがこうも思い切りよく行動するところなんて見たことがない。

その勢いに押されてこの地獄行きの待合室を出てしまいそうになるが、私の思考がそれを止める。

私が再びここから出ることなんて考えてなかった……。

私はここから抜け出して再び生きてもいいのだろうか?

……いや、ダメ。私はもう一度死んだ人間。もう二度と太陽を拝むべきではない。

なにより、私がこれから生きていく上でやることがあるのだろうか?


「何やってるんですか!急ぎましょう。上でグレンたちが待ってます。」

フレロレが必死に急かす。

だけど、

「私は行きません……。私はもう死人だから……。」

「いいえ、死んでいるのはあなたではありません。この国です。こんなに腐りきった国や世界で誰が生きていて誰が死んでいるかなんて誰もわかりませんよ。再びこの国が、この世界が生きていくためにはあなたが必要なんです。」


フレロレにこの前会ったのはいつだったか……。

確かトルニエ事件を捜査したいって私に行ってきたとき以来だったかな……。

あれから……しばらく見ないうちに……、大きくなったような気がする。

上手い言葉が見つからないけれど、前より格好良くなった……。

若者は少し見ないうちに大きく変わっていく……。

ただどことなく焦っているようにも見える。

まあ、それが若者らしさか……。


だけど、それはそれ。

私は行かな……。

「スライルさん、行きましょう!さあ!」



気が付くと私はフレロレの後を追って走っていた。

その背中が以前より頼もしい。

……そんな気がする。



「フレロレ、私はこの世界に人間は二通りいると思っています。本物と偽物。あなた、見ないうちにだいぶ本物に近づいていますね。」

「えっ、ありがとうございます。」

フレロレは私にスピードを合わせて走っているせいか先ほどの切迫感はなくその表情には笑みがこぼれている。

「まあ、それでもまだまだ本物には程遠いですけどね。」

でもいつか彼なら……。


「スライルさんの言う本物ってなんですか?」

……まあ至極当然の質問だ。

私が定義する本物と偽物は……。


……あれ?

なんか私、今楽しんでいないか。

それはそうだ、私が元々したかったのは子供に教えを授けること。

そのために教師になったのだから……。

……あれ?

私は言ったいつから国をつくりたかったのだろう……。

いつからそれが私のすべてになっていたのだろう……。

……死ぬより先に私にはまだやれることがあったのかもしれない……。


「私が言った本物というのはですね――。」




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