フレロレ、7
隠密行動でスライルさんを処刑台から救い出すことはできる。
今はないけどキーデルから完璧な情報が手に入ればできないことはない。
優秀な人材もいる。僕はともかく、グレンはそう言う動きは得意だ。
段取りが物を言うがただスライルさんを救い出すこと自体は不可能ではない。
だけど……、この作戦が成功したあと、スライルさんはどうなる?
成功した後スライルさんは間違いなくイキ場を失う。
それどころか僕たちもこの先日陰暮らしだ。
ただでさえ今の国の中枢は腐っているというのにこれではスライルさんは救えてもグレンのお姉さんが安心して暮らせる世界は来ない。
そこまで守るにはスライルさんを助けたうえで5人会議を失墜させ、頭を挿げ替えなければならない。再びスライルさんを中心とした新しい国を!
そのためにいまするべきことはスライルさんが国の中枢に戻ってもおかしくない状況をつくっておかなければならない。つまり、スライルさんは性根が狂った現5人会議メンバーに処刑されそうになったという事実を広めておくのは必須だ。
だが、それをすれば5人会議の耳に入り、力をつける前に武力をもって制圧されるのがオチだ。特にスライルさんの処刑を中心になって進めているのが軍の最高指揮官であるゴルジオ様が黙っていないだろう。反乱をみすみす見逃すわけがない。
じゃあ、どうするか。
考えられるのは一つ、力をつける期間を短くする。彼のように……。
これがスライルさんを処刑台から救い出すために残された唯一の方法……。
「いいかい、グレン。今のままじゃ無理だ。けどやる方法はある。人を使うんだ。」
「人を?誰?」
「トルニエ様さ!」
そう。トルニエ様なら一声で何人もの人を集めることができる!トルニエ事件がそれを物語っている。一番の適任は彼だ。
「よしさっそく打診してこよう!急ぐぞ!」
「いや、待て!」
今にも駆けだしそうなグレンの肩を抑え、キーデルが言った。
「トルニエ様より適任の人がいる。」
「誰?」
「メンデル様さ!」
「単純な知名度だったらメンデル様よりトルニエ様の方が上だし、何より今は辻斬りとして捕まっている。それを抜け出して兵を起こしても誰もついてこないよ!」
メンデル様も確かに適任者だ。だけど……、ここはトルニエ様の方がいい。
「いや、戦の話なら問題ないだろう。何せ王宮を警備する軍は全部とはいかなくても一部は俺が指揮をとれるからな。穴は作ってやる。確かにトルニエ様がここで兵を起こせばある程度集まる。だけど烏合の衆だ。メンデル様には私兵が1000はいる。意思を統一させるのならはじめから軍としてまとまっている方がいい。1000では少し少ないかもしれないが短期戦なら問題ないだろう。」
それはそうだが……。だけど。
「トルニエ様は秘密裏に人を集めたのが1500人。もっと大々的に人を集められればもっと集まるはず……。事情を説明すればメンデル様の私兵も協力してくれるかもしれないよ。」
「集まる人数が多いに越したことはないがまずはスライルさんの奪還を成功させないといけないだろ!おそらくこのままだと処刑場、もしくはスライルさんが囚われている王宮の地下牢に乗り込むことになるだろう。もし、敵が多すぎて籠城作戦をとったらどうなる?適度に少なくないと王宮から出てきて殲滅という展開にならない。俺にも発言力はある程度あるけどすべてうまくいくとは限らないんだぜ。」
それもそう……。
「それにトルニエ様を連れ出すのにしてもただ往復するだけで一日かかってしまう。さらにトルニエ様が牢から出るための交渉、もしくは脱獄の準備にもそれなりにかかるだろう……。たった一週間しかないのにそんなことに時間を使っているわけにはいかない。」
それもそうだ……。
「メンデル様が今、犯罪者扱いされているのだって最終的に現5人会議に嵌められたとすればどうにかなる。キーデルが言うように本当はメンデル様の方がいいのかもしれないね……。」
僕は震える声でそう言った。気づくと頬を涙が流れていた。
「ただ僕は助けたい。そして本当の意味でそれができるのは……。」
そのままむせ返し黙った。涙だけが静かに流れ続けた。
これは臆病者の涙だ。
「ああ、そう言うことか。やっとわかったよ。フレロレ。だけどな、お前は戦の経験がないからそう言っているだけだ。心配ないよ。戦とはそういう世界なんだ……。」
ただ隣で泣いているだけの僕の肩に手をのせ、グレンが静かな声で僕に言った。
グレンは僕とは違い、ガルネシアの奇跡で前線に出ていた。人を殺したことはないとは言っていたけど、戦争は知っている。
「そう、戦争は勝てばいいんだ。戦うということは敗者を否定すること。勝てばすべてうまくいく。勝った方がルールになる。あの人たちならきっと生きている限り何度でもやり直せるさ!これから3人でメンデル様にこの話をして協力を頼んでみようぜ!」
キーデルが場の空気を変えようとしてか、ハツラツとした声でそう言った。
そう僕は本当の戦なんて知らない。
だけど僕は知っている。
グレンが何もわかっていないことが……。
キーデルが何もわかっていないことが……。
そして、やっぱり僕は何もわかっていないことが……。




