ナーラ、5
「ねえ、テンチョー。私前回とばされたの?何で?」
「ナーラちゃんは何を言ってるの?」
何でわからないかなー。
「ほら!あれよ!順番よ!」
「なんの?」
もう!
「なんでわかんないのかしら。とにかく聞いて!トルニエ様はいいのよ別に、だってあの人いつも一人だから一人語りになるだけだし。でも私にはテンチョーがいるじゃん!」
「いや、ナーラちゃんも一人語りみたいなものじゃない?」
「あー、そうだ!前回ここのバイトがお休みだったせいじゃないの?いきなり休みにするなんて……。」
「それはごめんってば。有給扱いでいいからって言わなかったっけ。」
「いい、テンチョー……。私が欲しいのはお金じゃないのよ。それはグレンが何とかするからいいの。私が欲しいのは暇つぶしよ!」
「おっぉぉ、雇い主にそれを言うの?」
まったくテンチョーは何もわかってない。
そもそもなんで休みになったんだっけ……?
「テンチョーはさ、どこ行ってたのよ!」
「ちょっとね。馬を走らせて大陸を回ってきた。時々やらないとダメなんだ。僕が僕じゃなくなっちゃうんでね。」
「……、なーにかっこつけてんのよ!」
テンチョーったらチョーシにのっちゃって……。そんな安い言い訳が私に通用すると思って!
「すみません。ああそうだ。この話知ってる?メンデル様が捕まったって話。あの人が辻斬りだったらしいよ。」
あたふたした様子で話を変えようとするテンチョー。まあ、ここは乗ってあげるか……ってちょっと待って。
「え?メンデル様ってたしか……、なんだっけ?」
「なんだっけって……。ええっと、三大将軍の一人で治安大臣だった人だよ!」
「治安大臣?誰だっけ?」
「逆だよ!治安大臣は国を統治している役職の一つだよ。いわば最高権力の一つだね。」
最高権力者の一人が捕まるか……。
「ふーん。でも世の中そんなものじゃないの?この世界は今まで権力や軍事力がある人間が得する世界だったじゃない。王様とか戦いが強い人は何をやっても許され、平民や戦えない人は何もしてなくても虐げられる。その世界が変わっていってるということは私たちにとっていいことじゃないのかしら……。」
「おお、……まあそうだね。ナーラちゃんが思っていた以上に考察してたからびっくりしたよ。」
「何よ、私だってちゃんと考えてるんだから。そんな世の中がちゃんと浸透すればこの前の客みたいにお代を踏み倒されることはないわ。ちゃんと払わないなんて!結局権力を前にテンチョーが屈しちゃったけどね。間違っているものは間違っていると言える世の中にならなくちゃダメなのよ。」
「いや、あれはナーラちゃんがレジ打ち間違ってたせいだよ……。ナーラちゃん、人のせいにしちゃダメだよ……。そうそう、前から言おうと思ってたんだけどね。ナーラちゃんレジ……」
店員さーん!
「あら、お客さんが呼んでいるわ。行かなくちゃ!」
「ちょっ!」
「テンチョーもおしゃべりばかりしてないで働かなきゃだめよ!」
「え!」
キョトンとしたテンチョーを横目にせっせと今日もお仕事に精を出す。
私は今日も一生懸命頑張ります!




