ブローム、5
「新体制に入るにあたって……暫定的に新しい大統領を決めなくてはなりませんね。」
あの騒ぎの後、あの部屋に残ったそれぞれがそれぞれの席に着き何もないまま、それぞれ思うところがあってかそれぞれ何もしゃべらずにただ座っていたところバルテニーさんが話し出した。
……確かに。
5人会議とは言っても今は、私、バルテニーさん、ナートル、ゴルジオの4人で進行しかいない。解職請求するならはじめから準備しておけって話だろ。
とは言っても5人目を探すより今は大統領を決めることの方が先決だ。
しかし、この中から大統領が……、というか私の上に立つ人間が生まれるのか……。
嫌だな。
今まで上に立つ人はスライルさん以外考えたこともなかった……。
あの人が私の唯一の理解者であり、唯一、私が忠誠を誓った男……。
その人なき今、この国に一片の興味もなく私も辞めてしまってもいいと思っているが、それをしたらきっとスライルさんが戻った時に困る。バルテニーさんはいずれスライルさんをここに戻すと言っていたし。
それまで私が私自身を守るには……、私が大統領になるしかない。
現状、私が大統領になるに際して最大の壁になりうるのが、当然バルテニーさんだろう。
スライルさんを追い出した張本人だ、この人なりの野心があるのだろう。
金にがめつい人間は権力にもがめついと相場が決まっている。
残りはバカばかり放っておいても問題あるまい。
この人をどうするか……。
「バルテニーさんはやっぱり大統領になりたいのですよね?」
恐る恐る聞いてみた。この人の出方次第で私の取るべき立ち位置も変わる。
私も大統領になりたいが可能性が低いのならこのままでもいい。
しかし、バルテニーさんは私の質問を聞くと予想に反してゆっくりと首を横に振った。
「いえ、私がスライルさんをこの役から追い出した張本人。他に誰もなりたい方がいなければもちろん私が引き受けます。ただ、私の本当の役目はあくまでも棒なんですよ。」
「棒?」
この人は時々わからないたとえ話をする……。
「ええ、植木鉢に刺さっているあの棒です。つまり、成長の直接要因ではないんです。こういう重圧のかかるけどもやりがいのある仕事は、若い芽に……。そうすることでより豊かな国になる、そう思っているので。」
……。
何を言っているのかさっぱりだが、とりあえず他に立候補者がいれば大統領選を降りるということだな。
と言うことはもう敵はいない。
「そうですか!そうですか!バルテニーさんにそのような強い決意があるのでしたら無理にとは言えませんね!そうですか!」
まあ、正直何を言ったのか全く分かってないけど結果がわかればこっちのものだ!
「ここは仕方がない。私が――。」
「私やります!」
「俺が大統領やってやるよ!」
私が立候補しているときにナートルとゴルジオが一斉に手を挙げる。
……お前らに務まるわけないだろ。
「何だと小娘!」
「ふん、脳みそ筋肉のくせに政治の何がわかるのよ!それにあなた代理じゃない!」
「はん、俺が大統領になったらメンデルがこれやればいいだろ!何の問題もない!」
二人は一向に止まる気配がない……。
私もいるんだけど!
それにお前らどっちもどっちだろうが!
「おい、私を置いて話をするな!馬鹿どもが!」
バカな若者共に渾身の一喝をいれてやった。
どうだ参ったか!
私の喝が届いたのかゴルジオがこちらに振り返り
「おい、おっさん!黙ってろ!調子に乗んなよ!」
その声に激しさはなかったが低くて重く、有無を言わさぬ圧倒的な力があった。
さらにゴルジオの殺気を帯びた眼光に私はすっかりおびえ何も言えなくなってしまった。
なんだあいつ、なんであんな顔ができるんだ……。
これだから武人は嫌いなんだ……。
心の芯から震え上がってしまった。私はもう大統領選に参加する元気はなかった。