メンデル、5
なんでこうなった?
なんで私が牢に入れられなければならないんだ?
何だあの黒いローブは?
あんなの私の持ち物じゃないぞ。
買った覚えもなければもらった覚えもない。
私が本部からいなくなったのは確かだ。
だけどあれは夕飯を食べに行って、少し仮眠をとりに行っていたからだ。
この作戦自体がもっと長丁場になると思っていたからまだことが起こる前に指揮はオーネンスに任せてどちらかは休んでおこうと……。
でもまあ、結局のところそれを証明できる人はいない。
というかそもそもなんだ!
私が犯人を検挙できなかったのが実は私が真犯人だったからとか訳の分からん理由は……。
私だっていろいろと忙しいのだ。辻斬りなんて現場で対応しろって話だろ!
いつまでも捕まえられないから私が出てきたのであって、それまでの話は知らん!
人を何だと思っているんだ!
大体……。
……やめよう。
こんなこと考えていても不毛だ……。
第一、
「おい、お前!」
鉄格子の前で突っ立っている青年に声をかける。
「は、はい!」
その青年は驚いた顔でこちらに振り返る。
「名前は?」
「はい。ペデルです。」
おどおどした様子だったが、ここまできっちり聞こえるようにはっきりと言った。
こいつならいいか……。
「ペデル。お前は私が辻斬りだと思うか?」
一瞬、少し困った顔をしたが、しっかりと私の目を見て言った。
「いえ、僕は思いません。」
「すまない。それだけ聞きたかったんだ。」
そうだ。私はやってないし、周りもそう思っている。
今、きっと私の片腕であるオーネンスが無実の証拠を集めているころだろう……。
どうでもいいことをグダグダ考えるのはやめよう……。
時間の無駄だ。
「……だって、あの、僕はメンデル将軍のことすごく尊敬していますから!」
少しもじもじしていたペデルだが、やがて何かを決意したかのようにはっきりと言った。
「……ありがとう。」
青年がギラギラした目でこちらを見ていた。さっきので話は終わったと思っていたがどうやらまだ終わっていなかったらしい。
「メンデル将軍が実際指揮していたのですよね!ガルネシアの奇跡の本軍を!」
「……そうだが。」
何でこいつこんなに興奮しているんだ……。
「俺が自警団に志願したのもそう言う英雄みたいになりたかったからなんですよ!まさかこんなところでお話ができるとは思ってもみませんでしたよ!」
確かに私もこんなところに入れられることになるとは思ってなかった。
「メンデル将軍。よかったら、ガルネシアの奇跡の話をしてくれませんか?親とか親戚に聞いたことあるんですけど、やっぱり俺は、あっ、僕は当事者の話が聞きたいんです。」
……面倒くさいな、こいつ。
あまり昔の話をするのは好きじゃないんだ……。
確か机の上に書類が溜まっていたな……。
それをやっていよう。
「すまない、ペデル。ちょっと自警団本部の私の机の上に載っている書類を持ってきてくれないか?」
話を聞きたがっていたから、拗ねると思ったがなぜかすんなり聞き入れてくれた。
今の子はわからない。
が、すぐに戻ってきた。手ぶらで……。
「すみません。今はもうメンデル将軍は治安大臣じゃないからだめだって言われちゃいました。」
「そうか……。」
確かに私は牢に入っている身、そんな人物が国の重要なポストにいるままというのはおかしい話だ。
まあ、そういうことなら何もない今のうちに心を休めておくか……。
毎日毎日仕事仕事だったからな……。
って!
休めるか!
誰が今治安大臣のポストについているんだ?
……まさか!
「おい、今の治安大臣はオーネンスか?」
頼む、そうであってくれ!
頭によぎった人物ではなく希望を言ったが、
「いえ、あのゴルジオ将軍ですよ。」
すぐに希望は崩れ去った。
あのゴルジオ将軍かよ!
こんなところでゆっくりしている場合ではない!
誰か!
早く私の無実を証明してくれ!




