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トルニエ、王宮テラスにて

「トルニエ、本当に国を離れるのですか。」

ただ何となく流れる雲を目で追っていると不意にスライルが呟く。

それは前から言っていたことだ、大陸全土を一つにしたら俺が国を離れることは……。スライルが俺にこの国に残って共によりよいものにしていく手伝いをしてほしがっていることは知っていた。だけど悪いな、

「ガハハ、政は俺の性に合わねぇ。前から言ってるだろ!あくまで俺は武人。もう戦いの中でしか輝けないのさ。」

「そんなことはないと思いますよ。あなたの才能なら何をやらせてもきっとうまくいきます。」

「そう言ってくれるのはうれしいがお前は俺を買いかぶりすぎだ。それに余生を過ごすのにいい場所を見つけたんだ。ここからずっと西に行ったところに自然に囲まれた大きな湖があってな。そこで釣りとかやって少しのんびりするにはうってつけの場所なんだが、なんならお前も一緒に来ないか?」

「いえ、私にはこの国の生みの親として成長の手助けをしなくてはなりませんから。」

「そうか……。残念だ。」

これが最後のチャンスだったのに……。

我が強いのはお互い様か……。

そうじゃなきゃ、ここまでこれない。


「今は生まれたばかりで一番手のかかる時期ですので……。ただ落ち着いたら必ずお呼ばれしましょう。その時は一緒に釣りして安酒かっくらっいましょう。」

「……ああ、楽しみにしている。」


その日が来るのはいつになるだろうか……。



再び長い沈黙の後、スライルはまた語りだす。

これからのことを、俺が見ることはない夢の続きを……。

「これから忙しくなりますよ。これからイーリス共和国の政治は手始めに5人議会を中心に行っていきます。たった15年で天下を統一できるとは思っていませんでしたから、政府としての地盤はまだしっかりしていません。今は力ある人間だけで政治を行い、ゆくゆくは国民の中から選抜された優秀な人材にこの国を託せる制度にしていきたいと考えています。」

「その5人議会ってのには誰がなるんだ?」

「行商人として我々の活動を経済面で支えていただいていたバルテニー殿には財務大臣として経済面での政策を画策していただきます。そして、この街をこれほどまで発展させてくださったブローム殿を建設大臣として政府に必要な建造物や住みよい街を作るための道づくりを主に考えていただきます。産業大臣として道具や技術の開発で食料や鉱物などの分野の発展や支援をしていただいていたクードル殿に手伝っていただこうと思っていたのですが、歳だからと断られてしまいました。そこでその役割をクードル殿が推薦された娘のナートル殿にお願いしました。そして、今まで横行していた国で起こる殺人や強盗を取り締まったり、それらを予防する法を提案したりする役割、治安大臣をあなたに頼もうと思っていたのですが当てが外れてしまったので三大将軍の一人であるメンデルさんに頼みました。その4人に大統領という形で国のトップに就く私を加えた5人で話し合い、この国をよりよい方向に導いていきたいと思っています。」

「悪かったな。当てが外れて!」

さりげない会話の中でチクチク突いてくるのはこいつの嫌なところだ……。

「本当ですよ!あなたならそのほかにもいろいろ手助けしていただけると思っていましたのに……。」

「メンデル将軍だって相当な切れ者じゃないか。三大将軍の中で最も戦上手だって聞くぞ。俺も一度戦ってみたかったくらいだぜ。」

実際に戦ったことはないが、でかい図体と鉾の腕前は他を圧倒し、逆に軍での戦い方は繊細で長期戦で味方の被害を最小限に確実に倒すことで有名だ。

敵として出会っていたらきっと嫌な相手になっていただろう。


「そうですね。彼に任せた戦は驚くほど犠牲者が少なかった。長期戦になることは多いのですが勝ちを落とすことも少ない。大陸統一は今のような平和のためのもの。戦死者が多い戦ばかりしていてそれを語るのはおかしな話ですものね。彼には本当に助かりました。」

そういう意味では彼が本当の意味での軍事面の象徴であろう。

奇策や奇襲を得意とした俺の戦い方とは真逆だ。


「ああ、でもこの国一番の破壊力を持ったゴルジオ将軍はいいのか。短気で荒くれ者の戦闘馬鹿だからこそ高い地位を用意しないと暴れるんじゃないか?」

俺とメンデル以外のもう一人の三大将軍の一人、ゴルジオ。力任せの突撃で有名だが、それでも負けない高い突破力を持つ。ゴルジオの軍師をしていたものが相当な切れ者だということは聞いている。あの男が黙っているとは思えないが……。


「彼の力はこの国の突出した武器になっていましたがそれはそれを使うものがいて初めて機能するものです。彼の軍の軍師もあなたのようにこの国の誕生とともに軍を離れると言っていました。ゴルジオの力は素晴らしいものがありますがその軍師がいなければその力がうまく使えないことは彼もわかっています。彼はとりあえずメンデルの下に付け、メンデルの指示のもとで動いてもらいます。」

メンデルとゴルジオが1対1で戦ったらどちらも無事では済まないだろう。

俺なき今、奴を抑えられるのはメンデルしかいない。

そうするのが妥当か……。


「そうか、なるほど。あらゆる分野にそれぞれの専門家をしっかり配置できているわけだな。何より何より。それでお前は日に日に変ってゆくこの国を高みの見物と行くわけだな。」

「そんな楽なものじゃないですよ。全体のバランスを見てサポートするのも結構大変なのですから。特に思い付きで予定外の動きをする武人の後方支援とかは!」

「ガハハ、誰のことかな。」


その後も酒を酌み交わしながら語り合った。

湧き上がる感動をずっと熱く話していたいし、

浮かび上がる思い出にずっと静かに浸っていたい。

何とも静かに熱い充実した1日だった。




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