メンデル、3
辻斬り……。
スライルさんが困っている今こそ彼の力になりたいのだが……、私も今困っている。
狙われているのは政治的な力があるとはいいがたいほどの5人会議のメンバーの下で働く小物。一般市民の被害がないのは救いだ……。
またこの3か月で8件……。
狙われそうな人が護衛を雇ったり、会議や会合を昼間に行われるようになったりしため、犯行の頻度は確実に落ちているのだが……、それは我々の努力のたまものではない。
依然として正体不明。
目撃者情報はまったくない。
そろそろ奴らを野放しにはできまい。
我々の面子にかかわる。
しかし、現状打つ手がない。
辻斬りが出たころから街の警備に人員を裂いて夜間のパトロールに当たっていたが、
以前は一個小隊でまとまってパトロールに当たっていたころは上手くかち合わず被害者が出てしまった……。
次に2人一組で多くの警備隊を派遣した。
しかし、事件は防げず被害者のほかにうちの警備隊2人もやられてしまった。
そうだ、最近のケースは被害者が一人でいたからやられたわけではない。
特にここ一か月で起きた事件に関しては周りにいた警備のものも一緒に殺されている。
一緒に殺された警備のものも実力はある。うちの部下たちだって戦場経験があるものもいた……。
それでもやられている。
敵は相当な手練れだ。
ただ、一番分からないのは犯人の目的。
ただ人を斬りたいのか?
被害者に何らかの共通点があるのか?
被害者に共通しているのは5人会議の参加者の部下たち。
精神的なダメージはもちろんあるが、こういっては失礼だが、国が変わってしまうほど重要な位置にいる人物ではない……。
それにもかかわらず、複数の遺体がある当たり犯人は結構無理をしている。
国に対する無言の抵抗とかそういうものではない。
謎だ……。
まあ、目的は何であれ、おそらくまだ続く。
トルニエ事件と違って。未だ何の動きもないということはない。
現行犯逮捕に向けて対策をしなければ……。
差し当たっての問題は、単純に兵力が弱いという点だな……。
辻斬りに返り討ちにされてしまうのでは現行犯で見つけても捕まえられない。
しかし、悠長に訓練をしているわけにもいかない。
そこで、圧倒的実力差を埋めるためにブロームさんに街にトラップを張るお願いをした。
もう間もなく完成するらしい。
それがあれば少しは何とかなるかもしれないが……、やはり一人でも十分戦えるものが欲しい……。
手練れ……、ゴルジオでも呼び出すか……。
いや、あいつを夜の街に置いておきたくない……。
誰か都合のいい男、いないかな……。
無駄に暖かい陽気に腹を立てつつ、
椅子に腰掛け、机にうなだれているとドアをノックされた。
来客……。
今はめんどうくさいな……。
居留守しよう……。
「どうぞ……。」
居留守しようと思っていたが、気が付くと声をかけていた。
イライラしていたせいか……、凡ミスだ……。
「失礼します。」
入ってきたのは腰に2本の剣をぶら下げた体格のいい男だった。
この男どこかで……、確かスライルさんの護衛の……。
「私はスライルさんの護衛を務めていたグレンと申すものです。このたびはメンデル様にお願いがあってここに参上した次第です。」
……やけに丁寧だな。
こういう時って大概面倒なことなんだよな……。
「どうした?」
……まあ、スライルさんに何かあったらそれは私にとっては他人事ではないからな。
聞かない選択はない。
でも表情から察するに悪いニュースではなさそうだ……。
「このたび私はスライルさんの護衛の任を離れ、トルニエ事件の調査に専念することになりました。つきましてはメンデル様の組織する腕利きの配下を何名かスライルさんの護衛に回していただけないでしょうか?」
面倒ごとキタ……。
私にとっては悪いニュースだ……。
今はそっちに人員を回している余裕はない。
トルニエ事件よりもこっちの方が……。
……いや、待てよ。もしかしたら棚から牡丹餅なのでは……。
「お前、戦ったら強いか?」
「ええ、まあ。自分で言うのもなんですけど学校では一番でした。」
トルニエ様の学校か?
確か戦争終了とともに閉校になった……。
あそこの卒業生は結構優秀だったんだよな……。
その中で一番……。
「そう言えばスライルさんの護衛にもう一人いたよな?」
どんな奴だったかよく覚えてないのだが確かいたような……。
「……ええ。」
目の前の男は私の意図がわからず、困惑しているような声で答える。
何、心配するな!
「いいだろう。こちらから代わりを派遣してやる。」
一気に男の顔が崩れる。
「ただし条件がある。」
思わぬところで優秀な人材が手に入った。




