キーデル、酒場バーテンにて
最初すれ違った時、もしかしたらと思ったが、やっぱりそうだった。
まさかこんなところで旧友に再会するとは、嬉しいこともあるもんだ。
グレンもフレロレもどっちも相手の面倒を見ていると思っている辺りは相変わらずだな……。
ついこの間まで、大陸の統一を阻む数少ない国を倒すために戦場にいて、この首都に来るのは今日が初めてだが、戦地でない土地はこんなにも栄えるのか。……始めはそう思ったが、それは戦いから遠かったからだけではないだろう。
きっとここまで発展させるには涙ぐましい努力があったのだろう。スライル様はそれをやってのけることができる人だ。前の所属先の上司であり、親のように接してくれたトルニエ様からはよく聞かされていた。スライル様の凄さは本人とはあまり話したことないけど知っている。
これからは南地区担当になりそうなゴルジオ軍に配属されたのでそうそうこの街に来ることはない。しっかり見とかないとな。
いや、それにしてもすごいな。
グレンとフレロレと再会した俺は一緒にグレンの姉が働いているという店に向かった。
酒場バーテン。
本来は夜しか営業してないらしいが今日は特別に昼間から開いていた。
「いらっしゃい。あら、グレンが友達とくるなんて珍しいわね。今日なんかいいことあったの?」
店に入ると元気な女性店員の声が俺達を出迎えた。
グレンの姉、ナーラさん。
「いいだろ誰と来たって!それに姉ちゃんは今日いいことなかったの?今日はこんな素晴らしい日――。」
グレンが喋っている最中だというのに彼女はこっちに向き直る。
「この子ったらいつも一人で来ているのよ。これからも仲良くしてあげてね。そしてうちの店にじゃんじゃんお金を置いて行ってちょうだい。」
……自由な人だ。
「俺の話を聞いてよ。そして、姉ちゃん、恥ずかしいからもうやめて。とりあえず生3つね。」
「もう恥ずかしがり屋さんね!」
そう言って奥へと立ち去った姉を見てグレンはやれやれと肩をすくめる。
このやれやれは懐かしい。
席に着くとグレンがおもむろに話し出す。
「そうだ、キーデルなんか聞きたいことはあるか!俺たちのこと、この街のこと何でも答えてやるよ!」
グレンは姉の対応が思っていたものと違って焦っているのだろう。何かしゃべってごまかそうとしている。思いのほか身内の熱烈なアプローチは恥ずかしい。ここは乗ってやるか……。
「この街に初めて来たんだけどすごいな。活気があって。この街を設計したのもまさかスライル様なのか?」
「まあ、そうだな。」
「いや、違うよ。正確にはスライルさんがブローム様にお願いして、ブローム様が町全体の設計から建築や舗装なんかをやったんだ。」
フレロレが口を挟む。フレロレは昔からこういう細かいところをはっきりさせないと気が済まないたちだ。
「まあ、そういうことだ。」
グレンはこういうところはざっくりしている……。全然性格が合わないのにこの二人は昔から仲がいい。
トルニエ様からその辺の話は聞いたことあるから別に詳しく聞くことはないんだけど、グレンの顔がまだ真っ赤だから仕方ない。もう少し掘り下げてやるか……。
「いやでも、お願いしたからと言って簡単にできるものじゃないだろ。建物に必要な資材とか兵……じゃなかった労働者を雇った金とかはどうしたんだ。」
「何とかした。」
「いや、何とかってなんだよ。」
適当なグレンにフレロレが突っ込む。
「最初は商人のバルテニー様に依頼して援助してもらったんだ。それからバルテニー様のもつ人や物や金が集まる商業ノウハウを取り入れてどんどん成長していったんだ。それは様々な作物の品種改良や金属類の採掘の研究をしているクードル博士がいろんなものを流通させてくれたおかげだね。労働者は……スライルさんの人徳かな。」
「まあ、そういうことだ。」
まあ、そういうことだな。聞いた通りだ。
「へぇー、それじゃあお前たちはその街の成長を見守ってきたわけだ。それはさぞ楽しかっただろうな。」
「まあ、そういうことだ。」
「グレン、さっきからそれしか言ってないよ。ほぼ何も答えられてないよ。」
フレロレがやれやれと肩をすくめる。
そのやれやれも懐かしいな。
「お待たせしました。生3つです。」
ナーラがテーブルにジョッキを3つ載せる。
「あとこれは今日のイベントのサービスよ。」
と言ってウインク+投げキッスをするとナーラさんはまた浮かれた歩調で奥へ消えた。
……場が凍った。
そういうことを友人の身内にされるとなんかこう……フォローしにくい。
「なんか斬新なイベントだったね、グレン……。」
「うーん、まあ……、なくはない……かも……だな、グレン……。」
これが俺とフレロレの最大限の気づかいだ。
「ええい、やかましい、俺に言うな!
とにかく今日またこうして3人が再会できたこと。
これから平和な日が来ること。
そして……、うーん、とにかく乾杯!!!」
今日のはまた、格段にうまい。