ナーラ、酒場バーテン
「テンチョー!ちょっといいですか?」
私の働くお店酒場バーテンでふと疑問に思ったことをテンチョーに聞いてみることにした。
テンチョーは三十路近くで顔にうっすらしわができ始めたちょび髭がチャームポイントで、弟曰くちょっぴり抜けてる私を快く従業員に雇ってくれた心優しいおっさん。
何でも弟と同じ師匠を持った武の達人で弟の兄弟子というかもはや弟の師範代らしい。今は現役を引退して町の一角にひっそりとたたずむ酒場を経営している。
「僕のことはマスターと呼んでね。それでなんだい、ナーラちゃん。」
「あのね、何でもトルニエ様が捕まったらしいのよ。なんか反乱を起こしたとかで!あっ、この話はまだ弟から内緒にしてって言われてるからテンチョーも誰にも言っちゃだめだよ!」
「う、うん。ナーラちゃんが突拍子もないことを言うのも爆弾発言することにも慣れてるから大丈夫だけど……、へ、へぇ、トルニエ様がね……。えぇ!本当に!」
「もう!あまり大きな声出しちゃだめよ!内緒の話なんだから!それでね。なんかこれってやばいのかなって思うんだけど、国家の滅亡につながるんじゃないかって思うんだけど、テンチョーはどう思う?」
「国家の滅亡とは相変わらずナーラちゃんはぶっ飛んだことを言うね……。だけどそんな心配はいらないと思うよ。トルニエ様は強いけど三大将軍の他二人はこの国をそういうことから守る立場にいるから戦いでは勝てないだろうし、政治的な手腕ではスライル様の方が上手だろうし。それにトルニエ様は仲間を大切にする方だからスライル様に牙をむくことがまず考えられない。トルニエ様が利用されたならそれはそれで問題だけど、君の弟グレンくんが今動いているということは上層部の人は知っているということだからもう対処してるんじゃないかな。
何にせよ、今はスライル様をはじめとした五人会議を中心に新しい建物や道路、新しい経済システム、新しい日常品、新しい法律が定着しつつある。外敵なんて この国の周りには海しかないし海の外から敵に攻められたことはおろか敵になりそうな国を発見すらできてない。たぶんこの世界でこの国が亡ぶかもなんてわけのわからないことを考え着くのはナーラちゃんだけだ。そんなどうでもいい心配してないでとりあえずこのワインをあそこのお客さんに持って行ってもらえる?」
「はーい、テンチョー。」
途中何言ってるかわからなかったけど心配ないならよかった―。
私は今のこの平和な世界が何より大好き。優しいテンチョーのもとで働き、かわいい弟の面倒を見て、そしていつか素敵な王子様に連れ去られたい、そんな毎日が!
「ナーラちゃん、王子様はいいからこれ運んでって!あと僕のことはマスターね!」
テンチョーがちょっと怒った顔をする。
……また声に出てたみたい。
恥ずかし。