フレロレ、街にて
イーリス共和国の首都バルヴァン。大陸の全土を東西南北に分けたとき東地区のイーストンにある。ここはスライルさんが初めて国家を名乗った歴史的な場所だ。
もともとこの地域には大陸一の大国があって文明が発達していたため少しの改修で十分な立て直しができた。今では道はしっかり舗装され、立派な家屋が立ち並び、商店街には活気が溢れている。大陸中どこ探してもここより活気のある街は存在しない。
特に今日は特別だ。街全体が建国祝賀ムードで見渡す限りの花や紙吹雪が人々を心から華やかにしている。
「おい、フレロレ!今日は人が多いんだからボーっとして離れんなよ!」
そう言ってグレンが僕の手をつかむ。
「ごめん、ごめん。」
僕は別にボーっとしていたわけじゃない、ただ目の前を横切る人に道を譲っていたら少し離れてしまっただけだ。それにボーっとしているのはグレンの方だ。昨日は夜まで祝賀パーティーの準備があるから帰れないよって言っておいたのに勝手に帰っちゃうし……。
彼の運動神経や行動力は僕にない……、いや、僕以外の人と比べても段違いだ。……まあ長所と短所は紙一重で彼は結構勝手な行動も多い。
まったく世話の焼ける弟みたいな感じだよ。
まあ、そこが彼のいいところなんだけどね。一緒にいてまったく退屈しない。
グレンが言う通り今日は人が多い。それだけこの日をお祝いしたい人が街中にあふれているのだろう。スライルさんが作ったこの国は上に立つ人から国民一人一人まで、一枚岩でできている。今この日を祝えない人はおそらくこの大陸にはいない。
そういう国を、人々一人一人に寄り添った国をスライルさんたちは作ったから。
だからすれ違う人はもれなく嬉しそうなのだ。
「おい!グレンとフレロレか?」
不意に背後から声がかかる。振り向くとそこに見覚えのある男がいた。
「よう、キーデル!久しぶりだな!」
「びっくりしたよ。まさかこんなところで会うなんてね。」
見覚えのある釣り目の名前はキーデル。筋肉質で頭がいい。戦闘ではグレンの方が良い成績だったが総合的に見れば、キーデルの方が優秀だった。彼は僕たちの同郷の友で特にグレンとキーデルはよき仲間であり良きライバルだった。学校ではいつも3人でいることが多かった。今日、僕たちがスライルさんの護衛について実に3年ぶりの再会だ。昔とあまり変わらない友の姿をみてほっこりなごむ。
キーデルもうれしそうに口を開く。
「お前たちは変わってないのな。懐かしいよ。」
「お前もな、キーデル。」
グレンが間髪入れずに返す。グレンも久しぶりの再会を喜んでいるようだ。少し声が上ずっている。
「最後に会ってから3年だね。キーデルは今何してるの?」
「今は話してるんだろ!」
「グレンは黙ってて。」
こういう茶々を入れるのがグレンらしいと言えばそうだが、まだ子供っぽい。
「俺はいまだに、というかたぶんずっと軍の犬だよ。トルニエ様が引退して今はゴルジオ軍に配属されてるよ。この前のトルニエ様の最後の出兵の時に昇進して今は大尉だ。まあ、今日は休みだからこうやってお祝いのために首都まで来てるってわけ。」
「ええ?大尉になったの!?すごいね!おめでとう!」
「ありがとよ。これで俺も少しは自由がききそうだ。」
「それにゴルジオ軍だもんね。いいなぁ!」
ゴルジオ様は三大将軍の一人だ。
その武勇はすさまじく一対一で勝てる者はどこを探してもいないと称されるほどの戦士だ。実際に見たことあるが腕の筋肉なんかは僕の腹回りぐらいある。
グレンがにやにやしながらキーデルに言う。
「これからどこか行くところとかあるのか?」
「いや、祝賀パーティーには軍から呼ばれてるけどそれまでは特に決めてない。」
「俺らもそのパーティー行くんだよ!せっかくだしそれまで俺達と一緒に見て回ろうぜ!俺の姉ちゃんが働いている店でイベントやってるんだ。」
「そいつはいいな。ついでに俺のいないところでお前たちが何をやってたのか聞かせてくれよ。」
「キーデルみたいに軍にいるのも大変だけど俺達も違った意味で大変なんだぞ。昨日もパーティーの準備……あっヤベ!」
「……やっと気づいたのね。」
やれやれ。
「お前らは本当に変わってないな。安心したよ!」
三人そろって声を上げて笑った。
なんか楽しいな。
街の雰囲気のせいだけじゃない。懐かしい3人でいるからだけじゃない。
これが平和か……。
毎日武器を手に取って人が人を殺しあう時代は終わった。
これからもこんな幸せが続く。
何年も前からスライルさんはこのために今まで頑張っていたんだ。
そう思うとやっぱりあの人はすごい人だ。