フレロレ、会議場
「それでは今回の定例会議を始めます。」
スライルさんのいつもの号令から会議は始まる。
この部屋には大きな円卓があり、大統領であるスライルさん、建設大臣のブローム様、財務大臣のバルテニー様、治安大臣のメンデル様、産業大臣のナートル様が座っている。
僕はスライルさんの後ろに立って会議の行方を眺めている。
僕なんかは本来この場にいるような人間ではないのだが、警護という立場上この中にいる。
はっきり言って役得だ。
この部屋の中と外の警護はグレンと交代制という話だったが、グレンはなにかと言い訳をしては外の警護をやりたがるため、僕はいつもこの国の最先端の話を聞くことができる。
本当にためになる。
国作りをする立場にはならないだろうから、話自体は役に立たないけれどやはりすごい人の考え方というのは面白い。
グレンも一度くらい中に来ればいいのに……。
今日も最近お腹の調子が悪いから外にしてくれって白々しい嘘ついて外の担当になったし……。
本当はただ寝そべりたいだけだって僕は知っている。まったく、やれやれ。
「それぞれの現状について説明をお願いします。ではまずブロームさん何かありますか?」
スライルさんが声をかけるとスライルさんの左に座っていた少し小太りの男が立ち上がる。
「我々、建設省としてはこの都市の第3区まで整備が完了し、来週から第4区の整備に入りたいと考えています。また、地方のインフラ整備は徐々に進んで おります。この都市がありますイーストンは一通りの現地調査が終わり、来週には道路や水道の整備に着工できそうです。その他、北区ノーザン、南区サウザー、西区ウェスタ―に至ってはまだ調査中で具体的な計画は来週以降になります。」
そういうと一息ついてブローム様は席に着いた。
建物を建てるのにもいろいろ準備があるんだな。知らなかった。
今まではどこもかしこも戦争戦争で建ててはすぐ壊されの繰り返しで建物なんてあってないようなものだったから深く考えずただ雨風をやり過ごすためのものだったけど、やはりしっかりしたものを建てるにはそれなりの計画や調査が必要なんだな……。
「ありがとうございます。どうやら来週は相当大変そうですがお願いしますね。続いてバルテニーさんお願いします。」
ブローム様の横に座っていた髪が薄い男が立ち上がる。
「現在の税の徴収は国民の生活を圧迫することなく程よいもので、国中が平和になったことで人が集まりだし順調に経済は回っています。現状特に問題はないかと。国としての財源の蓄えもありますのでどなたか国として新しい事業を展開されるようならおっしゃってください。以上です。」
「問題ないようでよかったです。これから何があるかわかりませんからこれまで通りでお願いします。」
僕はお金の流れのことはわからないけどなんかうまくいっているようだ。
「次にメンデルさん。」
すくっと大柄な男が立ち上がる。
「最近この都市に出没した闇討ち犯を目下捜索中です。早急に解決したいのですが、未だ目撃情報などの有力な情報がありませんので……。全身全霊で捜索したいと思っております。以上です。」
そう言い残すとその男はどかっと座り込む。
メンデル様はどうやら疲れているようだ。
1か月前くらいから現れた闇討ち犯には目撃情報もない、犯行日もまちまちで規則性がない。
最初はすぐにとっ捕まえてやると意気込んでいたが1か月たっても事態は進んでいない。
三大将軍としてこの国の誕生を支えたものとしての面子もあるせいか。僕の知らない何かがあるのか……。
最近、メンデルさんは苛立ちを隠せなくなってきている。
僕は戦場に行ったことがないからこの人が本当に戦の強い将軍なのか知らない。
「あなたを信頼しています。捜査の方よろしくお願いします。」
ただ、スライルさんがそう言うのなら僕も信じるだけだ。
「最後にナートルさん」
落ち着いた声色でスライルさんは言う。
呼ばれた女性はあわただしく立ち上がった。
「ははは、はい。えとええと、問題ありません。」
「落ち着いてください、ナートルさん」
「大丈夫かい、ナートルちゃ……さ……ちゃん。まあ、お茶でも飲んで」
私事でも仲の良いバルテニー様が茶を進める。
今日で新体制になって5回目の会議だがナートル様は未だにテンパっている。
研究で忙しく、国のことを考えている余裕がないようだ。ただでさえ説明が苦手らしいのに何の準備もできないでいるのだ、それはテンパる。
大臣を辞めるか、研究を誰かに任せるかすればいいのだが、私は国中の女性の未来と父親の期待を背負っているからと絶対に聞かない。
それぞれの定例報告が終わり、国の方針についての話し合いが始まろうとしていたが……、
しかし、今日だけは違った。
ナートル様が茶を飲んでいると突然外からドタドタした音が聞こえてくる。
何だろう、この音は廊下を慌てて走っているような音だ。
グレンが本当にお腹を壊したのだろうか。
適当なこと言って楽をしようとするから罰が下ったんだ。
しかし、その直後、
「なんだって!」
とドアの近くで大きな声がする。グレンの声だ。トイレに走って行ったのではなかったのか。
気が付くと部屋の中にいた全員が扉の方を見つめている。
バタンと威勢よく扉が開かれるとそこにはグレンとなぜかキーデルがいた。
「グレン、どうかしましたか?さっきから騒々しいですよ。」
スライルさんが場の浮ついた雰囲気をなだめるようにゆっくりと言ったが、
グレンは騒々しい表情をまったく変えない。
自分でも信じられないと言った顔をしながらグレンはゆっくり言葉を紡いだ。
「トルニエ様が……、反乱を起こして捕まった……。」
スライルさんが座っていた椅子の倒れる音だけが無常に響く。