ナーラ、酒場バーテン
まったくもう失礼しちゃうわ。
あの巨漢、金も置いていかずに帰っちゃうなんて!
「姉さん、そういうところだよ。」
弟が私を憐れむ目で見る。
「あら、私声に出てた?」
「ばっちり……。」
さらに悲しい目つきに……。
もう私だって別にお金のことばかり考えているわけじゃないのよ。
例えば……世界平和とか?
奥で飲んでいた弟の友人、フレロレ君とキーデル君がきた。
「大丈夫だった?」
フレロレくんが心配そうに弟に問いかける。
「ああ」
とそっけない態度で返す弟。
「グレンはちょっと目を離すと誰かに絡まれるよね。」
「いや、今回は姉さんが絡まれてたの!」
「へぇー」
と言ってフレロレ君がこの人にねぇというような妙な目で私を見る。
私だってまだ若いのよ!
……あら?もしかして性格のこと言ってるの?
フレロレ君はまた視線をグレンに戻す。
「それにしてもゴルジオ将軍相手に!よく追い返せたね。」
「いや、なんか勝手に帰ってったけど。キーデル、お前今度あの人の下で働くんだろ?大変だな。」
「そうかな?ゴルジオ将軍は大丈夫だろ。」
「キーデルは……、すごい自信だね。」
弟たちの話を聞いているとテンチョーと目があってしまった。私も仕事しなくちゃ!
「はいはい、その辺にして!続きは席でやって!ビール持って行ってあげるから!」
弟が私以外の誰かと楽しそうに会話しているところなんて見たことないけどここでやられてはちょっと迷惑だもの。
「そうやって姉さんはちゃっかり頼んでないもの持ってきて売上よくしようとする。ここはただの酒場だよ。女の子目当てで人が集まる店じゃないんだよ。」
「あら、さっきの方は私目当てよ!」
私だってまだまだいけるんだから……。
「ああいうのは気をつけなよ。姉さんいつも思考が偏ってる上に大事なところは抜けてるから。」
「あら、ずいぶんな言い方ね!私だって考えているのよ、世界平和とか。」
失礼しちゃうわ!
「え?じゃあ、姉さんの考える世界平和って何さ?」
私が考える世界平和……?
うん、なんだろう。もう世界平和だしな……。
昔は大陸に国という国がひしめき合い、戦という戦が繰り返されてきたけど、今は一つにまとまっている。この国に滅ぼされた国の人も奴隷ではなく国民として迎え入れられ、差別もなく暮らしている。まだ地方は発展が進んでいないけれど、それでも飢餓や感染症に苦しむ人もいない。どの地域でも今の方が豊かで便利になったのは間違いない。これを不満に思っている人はいないだろう。世界は平和だ……。
弟がじっとこちらを見ている。何か言い返さなくては……。
私にとっての平和か……、それは弟グレンが元気でいること、でもこれは恥ずかしくて言えない。
あと私がうれしいこと……あっ!
「この店にお客さんがじゃんじゃんお金を置いていくことよ!」
「ほらね。俺がいつでもそばに入れるわけじゃないんだから。あまりに変な奴はちゃんと避けなよ。テンチョーさん、この馬鹿な姉をよろしくお願いします。」
そう言って3人で奥の席にもどった。
何よ、ほらねって、ほんと失礼しちゃうわ!




