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グレン、平和公園にて

演説を終えたスライル新大統領が壇上を降りても会場の歓声は鳴り止まない。スライルさんはそれだけの偉業を成し遂げたんだ。遥か上空で風になびく紅蓮の国旗はいつまでも人々の魂を震わせている。



元々この大陸には30を超える国があった。いや、国と呼べるものは数えるほどしかなかったが、それぞれの集落や集団が明日を生き抜くため、壊したり……、奪ったり……、殺したり……、毎日毎日どこかで戦争が起こっていた。つい最近までそれが当たり前の世界だった。


そんな世界をスライルさんたちは変えた。国を一つにまとめ、秩序を生み、存在するかわからない明日ではない、誰もが明日を手にできる世界に作りかえた。

さっき壇上でイーリス共和国の建国宣言をしていたスライルさんの演説を聞き、今まで共に汗や血、涙を流して頑張ってきた日々を思い出した。

言うまでもなく俺も魂を震わせた一人だ。


しかも、そんな大事を成し遂げたその当事者のそばで俺はこれからも働いていくことができる。これほどの幸せはあるだろうか。これまでも、そして、これからも共にスライルさんを支えていく親友のフレロレを見ればこの仕事がどれだけ誇らしいことか想像に難くない。フレロレは隣で泣きながら笑っている……。


壇上から降りてきたスライルさんにフレロレがお疲れさまでしたとタオルを差し出す。スライルさんはそのタオルで顔を拭い、乱れた美しい長髪を整え満足げな表情で俺たちに語り掛ける。

「ありがとう、フレロレ、そして、グレン。君たちのおかげでようやく国家の建国を成し遂げられました。」

「とんでもないです。スライルさんあってのこの国ですから。僕たちはこれからスライルさんのお役に立てるように一生懸命働いていきますのでよろしくお願いします。」

フレロレが間髪入れずに答える。

「ええ、フレロレの言う通り。ここまでは俺たち、何もしていませんし……。これからは頑張りますよ!」

こういう場面の俺たちのこの言葉に謙遜はまったく含まれていない。

純粋に尊敬からくる言葉だ。


俺たちがスライルさんのそばで働くようになったのは確か3年前くらいだったと思う。

スライルさんたちが作った軍事学校の戦闘訓練で優秀な成績を収めていた俺は学校からの推薦を受けてスライルさんの護衛の任に就くことになった。それからスライルさんを護衛しながらスライルさんの仕事ぶりを目の当たりにしてきたが、この人はすごい。

詳しく聞いたことはないがこのスライルという男は建国を志す前まではなんの力も持たない金も兵も持たないただの学校の先生だったらしい。バラバラな集落や部族がひしめくこの大陸でゼロからスタートしてわずか15年で大陸のすべてを平定した。なにもないところから国を作り上げてしまったのだ。この男を見てその凄さがわからないものはいないだろう。スライルさんが拭った汗が輝き、長い灰色の髪が高貴な雰囲気を醸し出す。


スライルさんがふと時計を見ると落ち着いた声で声を発する。

「フレロレ、これからの私の予定は?」

「はい、ええっと、17時からの建国祝賀パーティーまで特に用事はございません。」

「わかりました。それではトルニエはどこにいるかわかりますか?」

「トルニエ様なら王宮のテラスで待つとおっしゃっていましたよ。」

「ありがとう。祝賀パーティーまで私はトルニエといます。トルニエと一緒ならあなたたちがいなくても大丈夫でしょう。あなたたちもこの活気づいた街を楽しんできなさい。」

確かにトルニエ様がいれば俺達は必要ないな。むしろ俺たちがいては邪魔だろう。

「わかりました。それでは俺たちはその辺散歩してきますので17時のパーティーでまた会いましょう。」

それでは、というとスライルさんは長髪を翻し王宮の方へ歩いていった。


トルニエという人物はスライルさんと並ぶこの国の立役者、このイーリス共和国建国の始まりの2本柱の一人で、この国を軍事面で支えた三大将軍の一人だ。スライルさんが政治的基盤を支え、トルニエ様が軍事的基盤を支えた。この2トップがいたからこの大陸は一つになったと言っても過言ではない。ちなみに俺が通っていた軍事学校はトルニエ様が中心になって作ったものだ。

俺達の主な仕事はスライルさんのボディーガードだが、トルニエ様がいればスライルさんがみすみす殺されるようなこともあるまい。それに積もる話もあるだろう。あの二人しか見えない世界に割って入る自信は俺にはない。

何より俺はあの人があまり――。


「――僕もいつかあんな風に格好良くなりたいな……。」

フレロレがスライルさんの背を見て呟く。

フレロレは少し頼りない感じの男でサバサバ系の俺とは相性が良くなさそうなのだが、こいつとの付き合いは長い。同じ学校で共に武術や兵法を学んでいたのだが、覚えが悪くいつも周りからいじめられていた。彼の優しすぎる心が、戦いに向いていなかったのだろう。


スライルさんの護衛の任に就くとき誰かもう一人連れて行っていいという話だったので迷わず連れてきた。ということで一応、フレロレも俺と同じ護衛としてスライルさんの下で働いているのだが、……まあ、実際やっていることは秘書みたいなものだ。フレロレには戦いのセンスがないから……、というわけではなく、まず、スライルさんを襲うやつがいない。

今では目の離せない弟みたいな感じだ。


俺が面倒見てやらないと……。

「フレロレ。17時まで結構時間あるけどどうする?」

「うん、僕はグレンが行きたいところについて行くよ。特にやりたいこともないしね。」

「やれやれ。じゃあボーヌル川に泳ぎに行くか!」

「ええ!あそこはとにかく臭くて汚いって聞くよ。魚もいないし誰も近づかないのに本当にそんなところ行くの?」

「冗談だよ。お前の主体性の無さをからかっただけだ。」

何よりフレロレはからかいがいがある奴だ。一緒にいると楽しい。


さてどうするか。

……まあ今はどこもお祭り騒ぎしているし行けば何かあるだろう。

「特に思いつかないから。とりあえず街に出ていろいろ食べ歩こうぜ!そういや昨日、姉ちゃんが働いている店でイベントがあるとか言っていたような……。」

「うん、そうしよう。……というか昨日家に帰っていたんだ。」

俺達は演説会場である街の真ん中に位置する大きな広場、スライル平和公園を後にした。


頑張って更新していきたいと思っていますのでよろしくお願いします。

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