始まって終わった世界
【第20回フリーワンライ】
お題:神話
フリーワンライ企画概要
http://privatter.net/p/271257
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負
原初にあったのは虚無だけだった。
何もない、という概念すら存在しない真の無。
触れ得るものもなく、厚みもなく、見えざる虚無。
何もない、という状態は概ね闇であると考えて差し支えなかった。
何もない闇から奇跡的に「それ」は生まれた。
何もない、ということは時間の流れすら存在しないことなので、生まれたというのは観念的表現であって実際には間違っている。
時間がないのならば、「それ」は最初から“在った”のだ。
強いて言うならば、それが“在った”ことによって初めて“在る”以前と以後の区別――即ち時間が出来たと言える。
「それ」は何もない虚無で最初の言葉を発した。
――光よあれ。
そして闇が払われて、光が生まれた。
「それ」が認識したことで無限の虚無に物質が生じ、世界の広さが規定された。
「それ」が踏みしめたから大地が出来、「それ」が見上げたから空が出来た。「それ」が呼吸をしたから風と匂いが出来た。
何もかもここから始まった。
何もかもが一言から始まった。
ここから全てが生まれてゆく。
大地からは光を浴びた植物が芽吹こうとしていた。
染み一つない光に溢れた世界。
「それ」は光だけの世界で次の言葉を発した。
――眩しい。
光は消え去り、再び闇に没した世界は概ね虚無と同じになった。
それはつまり虚無に戻ったということだった。
世界は終わった。
『始まって終わった世界』・了
一言で始まったなら一言で終わってもいいじゃない。
めちゃくちゃ短いけどとりあえず成立してる話、というのを一回書いてみたかった。
しかしまあ、世界一短いショートショート(?)である「もしイブが妊娠しなかったなら」には到底敵わない。タイトルだけで本文ないんだもの。理由は推して知るべし。
やろうと思えばこの話でも出来るけどね。例えばそう、「最初の光の後に神は眩しいと言った」とか? これで一応本文なしに出来なくはない。でも所詮真似でしかないし、同じことやってもつまらない。こんなことを最初に思い付いたその発想が素晴らしい。まさしく白眉である。