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インペリアル・サーガ  作者: オッサニアス
第一部『グラックスの改革』
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第二章【病魔】ー3

 笑いに包まれる酒場の奥では不景気に酒(この時代の労働者の酒と言えばセルボワーズと呼ばれる麦酒が主流である。現代のビールと違いホップ等の添加物は使用されていない為、癖が強い)をちびる元警備隊員の冒険者の姿があった。


 「せっかく、女神のはからいで旨い飯が食えんのに、なに不景気な面さらしてやがんだ」


 冒険者の友人である、大工が心配し話しかける。もともとこの冒険者の友人は楽天家のお調子者でこんな騒動には、言われなくても自分から突っ込んで皆の笑いを誘っていたはずだ。それが酒場のこんな隅で丸くなっているとは、何かあったに違いないとお節介で世話焼き好きの大工は思う。


 「今日昔馴染みにあってな……」

 「よかったじゃねえか」

 「ああ、あいつは昔から賢い奴だった。村一番の知恵者で、いたずらをするときは皆奴の指示に従った。帝都で仕官の道もあったのに先祖伝来の土地を守るんだとぬかして農民になった」

 「そりゃまた、このご時世に志の高い奴だな」

 「良い奴だ、村一番の器量好しと結婚もして子供もいる。俺なんかとじゃ比べ物にならん位良い奴だ」

 「それがまたどうしたってんだ」

 「今日、そいつが嫁さんと一緒に物乞いしてた」

 「……は?」

 「借金の方に土地を取り上げられたらしい。あいつだけじゃねえ、村のほとんどの奴は農地を取り上げられて今じゃ農奴として道具みたいに扱われてる」

 「そんなこと許されるはずがねえ!平民を奴隷に出来る訳がねえ!」

 「出来るんだと、あいつが言うには自分の死亡届を提出するんだとさ。死んだ人間を守ってくれる奴はいない」

 「そんな!代官は何を!」

 「その代官様がやってるんだよ。商人や貴族から金をたんまり貰ってよ。その死亡届に本人が目の前にいんのにハンコを押すんだ」

 「馬鹿な、いやそもそもそんな借金どうやってこさえたんだ?」

 「最初は壊れた農具を買い替える為だったとよ。だがな、どこの商店もグルで、小麦を買い取ってもらえなかったらしい。そんで何とか市場で直接売ろうとすると、どこから聞きつけたのか不良共が駆けつけて売れねえようにするんだと。警備隊の連中は賄賂欲しさに見て見ぬふり、そんで一人また一人と農地を取り上げられていった!」


 酒が回って来たためか冒険者の声はどんどん大きくなり、聞き耳を立てていた周囲もその胸糞悪い話に興奮の度合いは大きくなっていく。


 「宰相は何をやっているんだ!」「俺達は税金を払うだけの道具じゃねえぞ!」「貴族なんぞ糞喰らえ!」「貴族だけじゃねえ、亜人共も俺達から仕事を奪いやがる!」「最近の警備隊は獣ばかりじゃねえか!その上仕事はしねえし犬以下だ!」「そうだ、そうだ」「亜人なんて帝国から叩き出して自治州に押しこみゃいんだ!そのための自治州だろ!」


 先ほどまでの笑い声と売って変わって酒場は怒声に包まれる。皆、日ごろ酒でごまかしていた鬱憤が冒険者の話で爆発してしまったのだ。その喧騒の中、デキウスの心にはふつふつと怒りが湧いてきていた。


 物事の道理も弁えぬプレス無勢が、何を考えているのだ。貴様らに仕事が無いのは貴様ら自身が無能であるためだろうに。冒険者の話も疑わしい、麦なんて何処でも売れるはずだ。沸き上がる怒りを爆発させずにじっとしていられるのは目の前に座る少女のおかげにほかならない。じっとデキウスの目を見つめ、その手には俯き肩を震わせるエリザの手が握られていた。暫くじっとしていたマギステアは頃合いを見定めると急に立ち上がり大きく手を叩いて注目を集める。


 「嫌な事があった時は酒や、おっちゃんどんどん出してやってや。さあ自分等、奢りやタダ酒やじゃんじゃん飲み」

 「おう、任せろ嬢ちゃん。ほんと女神だな、うちに就職しないか?」

 「おおきに、まだしたいことがいっぱいあるお年頃なんや。勘弁したってな」

 「嬢ちゃん話が解る!」「愛してるぜ!」「うちのおっかあふぁっくして良いぞ」「お前一人身だろ、こいつの尻ふぁっくして良いぞ」

 「みんな愛してるで、でも子供はもう寝る時間や、先に失礼させてもらいます。ほな行こか」


 そう言ってまた、笑いに包まれた酒場を後にして、三人は二階に取ってある部屋に異動する。デキウスは思う、自分では到底あのように上手に場を和ませる事は出来ない。先ほどもマギステアの制止が無ければ激昂して突っかかり最悪、流血沙汰になっていた事だろう。当初面倒な子守かと考えていたが、改める必要がありそうだと階段を上がる少女の後ろ姿を見つめながら思うのであった。


 「二部屋とっとるから、デッキーはそっちで、うちとエリちゃんはこっちな……覗いちゃメッやで」


 改める必要はなさそうだと思い直すデキウスであった。デキウスと別れ部屋に入った二人は良く清潔にされているベッドに腰を下ろす。


 「ごめんね、おねえちゃんなのに」

 「こっちこそごめんねや、旅費をつこうてもうた。経費で落ちるんかな?」


 マギステアの冗談にクスッと笑みが漏れる。


 「帝都でも最近亜人を見る目が厳しくなってるんだ」

 「そうやろな、みんな余裕がのうなってきてんのや。そんで皆の余裕を取り戻す一歩が今回の仕事や」

 「帝国街道の調査、本当にそれで皆笑顔になるのかな?」

 「そりゃ全員は無理やろうけど、やった方が笑顔が増えるん事は確かやな。少なくとも今下に居る飲兵衛達はみんな笑顔や」

 「確かに」


 そして、先ほどまでの震えが嘘の様にエリザに笑顔が戻った。後ほど宿主の計らいにより部屋に食事と体を拭うためのお湯が運ばれると二人は街道調査の帰りもこの宿に泊まろうと決意するのだった。翌朝熟睡した三人は宿主の振る舞う朝食に舌つづみを打ち、ギルド鉄人から馬車を受領すると街道調査の旅を再開するのであった。


 「しっかし、エリちゃんの胸おっきくて柔らかったわ。思い出しただけでぐへへへ、おっとよだれが」

 「もう、テアちゃん!一人じゃ寝れないって言うから」

 「でも、エリちゃんも良く眠れたやろ」

 「そうだけど」

 「お尻もすべすべやったなあ」

 「テアちゃん!」

 「観自在菩薩行深般若波羅蜜多時……」


 暫くの間御者台には東方に伝わると言う精神統一の呪文を一心腐乱に唱え続ける男の姿があった。

同時刻、ティポリ


 「あなた、本当に大丈夫?」


 妻の心配に男は自身の持つ正教会に対する疑念を押し殺して答えた。


 「仕方ないさ、彼らも神に仕える方々だから悪い用にはしないはずだ。最悪この子だけでも屋根の下で生活出来れば」

 「やだ!一緒じゃなきゃやだ!」

 「大丈夫なんとかなるさ、してみせるさ」


 男は女に抱きつき泣きじゃくる子の頭を愛おしそうに撫でる。撫でながら男は正教会についての情報を思い出す。そもそも正教会は帝国南部にあった一神教がその源流である。

 設立当初はその排外的な教義により門徒の数は少なく、またその過激性から歴代の皇帝から監視、または排斥される歴史を歩んでいた。その関係が一変したのは帝国暦155年帝位継承争に端を発した70年以上に渡る再統一戦争に置いてである。

 長引く戦乱、各陣営の疲弊、再統一戦争終結直後の人口は戦争前の半分に満たなかったと考古学者は口をそろえる。その混乱の中、正教会の救世主思想、混乱する世を正すため神が救世主を遣わすと言う考えに、疲弊した多くの民衆が縋った。

 そして再統一戦争末期、かの偉大なる英雄帝は自らを神が遣わした救世主と豪語、瞬く間に分裂していた帝国を再統一していく、これにより正教会は新たな帝国での地位を確立することとなった。

 現在においては設立当初より穏健になったとは言え、帝国設立前より続く龍信仰を柱とする古教会との対立に門徒を利用した過激な行為が行われていると聞き及ぶ。男は覚悟を決めると正教会の門を叩いた。


 出てきたのは優しそうな感じの初老の男とそれに付き従う同じく優しそうな初老の女であった。


 「申し訳ありません。私は門徒ではないのですが、仕事を失い働く術がありません。先月まで農民をしておりましたので体力には自信があります。どうかここで下男として働かせて貰えないでしょうか?」

 「私も拙い物ではありますが、一通りの家事が出来ます。どうかお願いします」

 「おやまあ、色々と聞くべき事が多そうですな。安心なさい正教会の門は万民に広く開け放たれております。さあ中へ、食事はまだですかな?貧相なものですがパンとスープをご馳走させて下さい」

 「私共の様な者に、恐れ多く」

 「恐れる事はありません。さあ坊やもお入り、シスターたしか今朝頂いたミルクがまだあったはずだね、温めてこの子に出してあげなさい」

 「ええ、司祭様、直ぐ準備を致しましょう」


 司祭とシスターの招きに応じ一家は正教会の中へ踏み入れる。久しぶりのまともな食事をご馳走になると男は恐る恐る切り出す。


 「このような歓迎まことにありがたく感謝いたします。ですが私共に払えるものはありません」

 「いえ、既に払って頂きました。私達がほしいのはあなた方の感謝の気持ちですから」

 「司祭様…」


 男と女の目には涙が溢れる。


 「ところでお願いがあるのですが?」

 「司祭様、私共に出来る事でしたら如何様な事でも」

 「その様な事を言ってはなりません。どこに悪魔の囁きがあるか解らないのですから」

 「この教会の中でしたら悪魔も裸足で逃げ出しましょう」


 司祭と一家はこのやり取りで笑いだす。お腹が満ちた事で一家の心にも多少のゆとりが出来たようであった。


 「ああ、あなたは中々得難い方の様だ。お願いとは他でもありません、基本教会は自給自足を旨としています。ですが我ら農業は本職ではありません。そこであなた方に教会の所有する農地を耕して頂きたいのです。教徒の方に寄進された農地がありますので、そこを耕して頂けませんか?」

 「司祭様、願っても無い事です。これまで私は異教を信仰してきた身ですが、出来ましたら門徒の末席にお加え下さい」

 「あなた方が望む限り、門戸はいつでも開いております。せっかくです洗礼をいたしましょう。今日はこの教会でゆっくり休み体の疲れを癒して下さい。明日農地をご紹介いたしましょう」


 正教会はこの日、新たに三名の信者を獲得する事となった。そして男は持ち前の才覚により瞬く間に教会での地位を築く事になる。


第二章はこれにて終わりと成ります。

【病魔】は如何だったでしょうか?帝国領域外で蠢くオーク達、彼等を襲うものの正体とは?


さて、デキウスハーレム(幼女、エロフ、雌馬×2)の次に向かう先は何処に成るのでしょうか?


引き続き「インペリアル・サーガ」の世界をお楽しみ下さい。


デキウス「今日も雌馬の尻を眺めて、鞭打つ仕事が始まるお……」

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